第13話 転生悪役令嬢の母と招待状
「出来たわ!」
これを見よと言わんばかりにアルリックの前に1枚の紙を掲げ持つ。それは自分でも会心の出来だと思うので、私は堂々と誇らしげに掲げて見せた。
が、アルリックは私専用の本棚の中を入れ変えてる最中だった。丁度上段の本を取りだし腕に抱えながら立っている。
それ故に、私の背丈に合わせて屈む事ができず、上から見下ろすように紙を見たのだが、いつものように冷ややかな眼差しになっていた。
「ようやくお出来になりましたか」
「………お母様には完璧なものを差し上げたいのよ!」
「完璧ですか……。しかし、折角出来上がったものをそのように扱っては汚れてしまうかもしれませんよ」
アルリックの反応に、ついブンブンと振り回してしまった手が止まる。
「……大切な、奥さまへのお茶会の招待状なのでしょう?」
アルリックの眼差しがほんの少し和らいだ。
あれから読み書き【美文字】の授業は続いていた。
だが、やはりただ文字を書き続けるのは、退屈だった。集中も切れるし苛立ちも募っていく。
そんな様子を見たアルリックは、何か目的をもって書くことを提案してきたのである。
その時、私はお母様の事を思い出した。
あれから、少しずつ食事の場に姿を見せてくれるようになったのだけど、食は細くなりすぐに食事を終え部屋に戻ってしまう。
部屋にお見舞いに行けども、話をする気にならないと伏せっていることが多く、何となく足が遠くなってしまった。
せめて、お母様の方から動きたいと思ってくれるような何かはないかしら
そこで、思い付いたのがお茶会である。
お母様は庶民がイメージする貴族そのもののような人だ。
私が今言われているような、嫁ぎ先であるダンゼルク家を守る意識も知識もお母様は得ていなかった。
貴族としての教養はもちろん持っていたが、それは礼儀作法やダンス、芸術に関するものなどに偏っていた。
だから、お母様は1日をお伽噺のように優雅に過ごす。
朝はゆっくりと起きて散歩をし、朝食をとって刺繍や読書をして過ごす。午後は外出して友人宅に遊びに行くか買い物に行くか。家にいれば、夜会用の衣装を決めたり、のんびりお茶を楽しんでいた。
そんな中で、一番好んで開いていたのはお茶会だ。お茶会なら、お母様の興味も向くかもしれない。
だから、お母様へお茶会の招待状を送って見ようとおもったのだ。
そして今、練習がてら何度も何度も書き直し、ようやく満足できるものに仕上がったのである。
「汚れてしまわないよう、早く封筒にしまってしまいましょう」
どすんと抱えていた本を床に置くと、アルリックはそっと私から会心の出来の紙を取り上げた。
異論はないので私はアルリックの後をぽてぽてついていき、勉強机がある場所に戻る。
椅子に座る私の前で、アルリックは手紙を慎重に半分に折り畳み、用意していた若草色の封筒に仕舞いこんでいく。
本来ならここで封蝋するところだが、子供から親への招待状なので、封はしないままトレーにのせ、その代わりにクレチマスの花を添える。
「では、こちらを奥さまのお部屋へお届けいたしますね」
「うん!」
「!」
トレーをもったアルリックの動きが止まる。どうしたのかとアルバンの顔を見ればなんとも言えないどちらかと言えば嫌そうな顔をしていた。
彼が感情を出すのは望むところなのでそれは構わない。
だが、今のやりとりでそんな表情をされる思い当たりはないので、流石にむっとなる。
いったいなんなの、と口を開こうとする前に、アルリックは表情を隠して一礼し、部屋を出ていってしまった。
ー帰って来たら、とっちめてやるんだからっ!
このお茶会が、色んな事を引き起こすきっかけとなることを誰もが予想しないまま、私は部屋でふんぬと怒っていた。
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