夢で見たあの日

@mizuki-komanisi

1話目

 僕は毎日夢を見る。

 その夢は僕の中に積り自分というものを作り上げる。

 楽しい夢、悲しい夢、恐ろしい夢……

 すべてが僕自身であり、どれか一つでも欠けると僕自身で無くなってしまう気さえしている。

 そう、どんな夢でさえ僕が僕自身であるために必要なものなのである。




 暗闇の中、どこかから水音が響く。

 ポチャン、ポチャンとどこかから漏れ落ちる水滴の音だ。

 壁の割れ目から微かに漏れ出る光に照らされた砂埃がキラキラと輝いている。

 微かな光を頼りに周囲を見回すとコンクリートの壁にはヒビが入り、埃っぽい窓一つない建物の廊下を歩いている。

 自分の意志とは関係なく、ただただ歩いている。

 それはまるで主人公視点のホラーゲームの動画を見ているようだ。

 ただ違うのは、妙に埃っぽい淀んだ空気の匂いやひんやりとした鳥肌の立ちそうな気温などをリアルに感じることだ。

 そして、その感覚は不快感と恐怖を僕の心に重くのしかかる。

 自分の足音が壁に反響する中、その音に紛れるように微かに地面を擦るような音が耳に届く。

 こんな場所でそんな音が聞こえたら離れたいと思うのだが、そんな僕の意志とは逆に、身体はそちらへ向かっていく。

 いやだ! 近づかないでくれっ!

 恐怖におびえる心と所詮夢なんだからどうなるんだろうという好奇心に駆られる。

 少しずつ近づく音に鼓動が早くなるのを感じる。

 これは僕の鼓動なのだろうか? それともこの視界の主のものなんだろうか?

 夢のはずなのにそんなことをふと考えてしまう。

 そして、曲がり角を曲がるとそこには足首から血を流した女性がボロボロになりながら身体を引きずっていた。

 改めて足元を見ると、彼女へと続く赤い道を足取りも軽く、まるで綱渡りでもするかのように軽く跳ねながらゆっくりと焦らすように足音高らかに歩いていた。

 楽しげに刻まれるリズムに女性は口の中で「いや……、来ないでっ……!」と震えながら懸命に腕のみで逃げようとしている。

 彼女は足先に力が入らないようで、足首を見るとどうやら腱を切られてそこから流れる血が彼女への道を作っているようだ。

 女性の様子を見降ろし、鼓動はどんどん早くなる。

 心臓が破裂するんじゃないかという程強く早くなるのに合わせ、足取りも早まりあっという間に追いついてしまう。

 そして、彼女の進行方向に立ちふさがるとしゃがみ込み、その恐怖にひきつった顔をまじまじと眺める。

 すると恐怖に涙の滲んだ瞳の中に映し出される僕自身の満面の笑顔。

 そして、まるで体の一部かのように手になじむ、いつから握りしめていたのかもわからないナイフを振り上げ、そのまま……。




 そこで僕は目を覚ました。

 もうこの夢を見るのも何度目だろう?

 同じようなシチュエーションの中、登場人物のみが変化するこの夢を。

 ため息をつき周囲を見回すと、簡素なベッドとトイレだけのコンクリートと鉄格子に囲まれた見慣れた部屋の中何をするでもなくまた同じ一日を無駄に過ごしていく。

 そして、夢に囚われ僕はやがて消えてしまうのだろう。

 夢の主である彼にこの身を奪われ……。

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