第7話 朝の襲撃!
翌日、早速みやこはペタの下を尋ねた。しかも、朝一番にである。
「おはよう、ペタ!」
何故かペタの教室の中で待ち構えていたみやこに、ペタはあんぐりと口を開けて放心する。
「おはようってば、聞こえてないの?」
きょとんと首を傾げるみやこに、ペタは慌てて挨拶を返す。
「あ、ああ。おはよう、み、みやこ」
「うん! 今日が待ちきれずに昨日は殆ど眠れなかったよ」
この二人の様子に、既に教室に集まっていたクラスメイトの面々は実に興味深そうな、好奇の目線を向けて来る。
「なあに、ペタってば昨日は王子さんといー感じだったのに、もう違う女の子に乗り換えたの?」
突然の野次に、ペタはすこぶる居心地が悪くなる。声の主の女子は、にたにたとした意地の悪い笑みを浮かべていた。それは勿論、ペタがそんな選り好み出来る身分ではないと承知している上での軽口だ。
「私とペタはそんな仲じゃありません。言うなれば……師弟関係?」
「……甚だ不安なお師匠様だよ」
クラスメイト達も、そんなみやこの言葉と態度に特別な意味を見出すことはなかったらしい。飽きの早い奴は既にペタ達に興味を無くしつつあった。
「へえ、坂巻さんてばペタに何を教えてるの?」
別の女子が興味深そうに尋ねると、みやこは自信満々に答えた。
「もちろん、ペタ改造計画、その名もモテ男指南だよ!」
得意げに目を閉じて胸を張っているみやこの宣言に、クラスは一瞬静まり返る。と、次の瞬間一気に爆発した。
「あはははは! ペ、ペタがモテ、モテ男……!! 何それ、面白すぎ!!」
「ペタが予定通りおもてになった暁には、俺にもご教授願いたいな! 是非にな!!」
「ペタのどこをどうやったらモテ男になるのか、マジで気になるわ!」
散々である。ペタは余りの恥かしさに消えてしまいたいとかなり本気で考え込んでしまった。一方の爆心地のみやこの方は、何がそんなにウケているのか解らず、周囲の様子にひたすら疑問符を浮かべている。
「ねえ、ペタ。どうして皆笑ってるの? 私の話しそんなに面白かったかな?」
「そりゃすこぶる面白かっただろうよ!」
「このクラスの笑いのツボは謎ね……」
心底不思議そうに首を捻るみやこに、ペタは一抹の不安を感じずにはいられなかった。どうしよう、この子かなりの天然だ。
「よう、ペタ。お前さんまた面白いの連れてきたな」
「おはよう、流星」
自分の席でにやにやと高みの見物を決め込んでいた親友、流星にペタが挨拶を交わす。すると、みやこが流星に興味を抱いたのか、ちらとペタの顔を窺う。
「ああ、こいつは戸内 流星。通称トーチャンだよ」
「違う! 断じて違う! ペタ、怒るぞ!?」
「ご、ごめん……」
流星がマジギレしかけたので、ペタは身を竦めて謝った。流星はふむん、と鼻息を荒くした後、気を取り直してみやこに向き直る。
「まあ、俺の事は戸内でも流星でも好きなように呼んでくれや」
「ん、解った、戸内君。あたしは坂巻 みやこ。ペタをモテモテにするために使わされたメシア様よ!」
流石に二度目ともなれば慣れたもので、ペタはみやこの自己評価について突っ込む気にはなれなかった。
「メシアとな! 大きく出たな、坂巻とやら!」
しかし何故か流星は食いついている。
「暗色の学生時代からペタを救ってあげるんだから、メシア以外の何者でもないでしょ?」
みやこは本気でそう思っているらしく、流星を何を言っているんだとでも言いたげに見返した。
「おい、ペタよ。こいつ本当に面白いぞ」
「なっ! し、失礼だね戸内君は!」
実に素直な流星らしい感想に、みやこは眉根を寄せて目を吊り上げた。しかし、流星はまともにとりあわず、軽い調子でペタの事を託す。
「まあ、精々ペタと仲良くしてやってくれ。こいつの青春が暗色になりそうなのは確かだしな」
「好き勝手言ってくれるじゃないか、流星」
自分こそばら色の青春なんて送ってないだろうが、とペタは内心思ったものの、面倒なので口には出さなかった。
「ふふん、任せなさい! 私がいるからには必ずペタ君を学校1のモテ男にして見せるわ!」
ペタは、我が事ながら、いや、一番わかっている自分の事だからこそ、何故彼女がこうまで自信満々なのかがまるで解らない。ペタがモテ男指南を断った時に必死にすがりついて来たほどなのだから、何かしら策はあるのだろうが。
「とにかく、ペタ、今日から一緒に行動するのよ!」
確認でも質問でもなく、断言されてペタは若干げんなりとした。何となく予感がしたのだ。この時から、ペタの日常がガラリと変わってしまうのだという予感が。その時、やかましかしましい公子とその取り巻き達が教室へと入ってくる。
「おっはよー。ん? ペタ、その子……」
挨拶をしながら入ってきた取り巻きの一人が、ペタの横にいるみやこを見て首を傾げる。
「どったの。あれ、ペタが女と一緒にいるなんて珍しいねえ」
「ホント。びっくりだわ」
取り巻き達3人は、単純に珍しい物を見て驚いた様子だった。ところが、最後の公子だけは反応が違った。
「あ、おはよう、ペタ君」
ペタに挨拶をしつつも、公子は気になって仕方が無いという風にみやこをちらちらと窺う。対するみやこはと言うと、これはもうペタと二人でいた時のように憎々しげに公子を睨み据えていた。
「あ、あの……」
ほぼ初対面と言ってもいい相手にいきなり遠慮のない悪感情を向けられて、公子はたじろいだ。
「ちょっとアンタ、幾らなんでもいきなりなんなわけ?」
「感じ悪すぎ。キミが何かしたっての?」
そのみやこの視線を咎め、取り巻きが食ってかかる。だが、そんな言葉にみやこは吐き捨てるように一言呟いた。
「……人の気持ちをオモチャにしてるようなのに言われたくないわね」
その言葉は、声量が抑えられていたためにほとんどの人間には聞こえなかった。しかし、少なくともペタと公子の耳には届いていた。
「……っ!!」
公子は目に見えぬ圧力に押されたように、ぐらりと一歩後ろへと下がる。その顔は若干青ざめていた。ペタは、そんな様子をハラハラとしながら見守っている。
「ちょっと、何か言いたい事あんならはっきり言ったら!?」
みやこが何事を呟いたのか聞き逃した一人が声を張り上げる。しかし、それを制したのは以外な人物だった。
「夢菜、もういいから……」
「キミ……」
力無く取り巻きを諫める公子。そんな様子を見て、みやこはふんと鼻を一つ鳴らすとずかずかと教室のドアへと向かう。戸口から出る寸前、くるりと振り返ってペタを見詰めた。
「今日のお昼からだから! 忘れないでよね、ペタ!」
そして、嵐のような勢いでやってきて、去っていった後の教室には何とも言えない静寂が横たわっていたのだった。ペタが悪いわけではないのだが、かなりの居心地の悪さを残していったみやこを、ペタは若干恨めしく思った。
「全く、何なのあの女!」
「ホント、キミがカワイソーだよ」
取り巻きたちは皆怒り心頭で、未だにみやこが出ていった教室の戸を睨みつけている。不幸にも、何も知らずに登校してきた生徒がその視線に晒されて怯えてしまうと言う事が何件か起きていた。
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