第4話 微かな変化

 ペタが風邪を引いて寝込んでいる間。学校ではある人物にちょっとした変化が起きていた。


「おう流星、ペタの奴今日も休みなのか?」


「ああ、何しろ風邪が相当酷くなったみたいでな。俺と電話してる時でもげほごほしてたからな。全く、軟弱な奴だよ」


 そうはいうものの、流星もペタの事は心配している。そうでなければわざわざ電話をして確認等することはないのだ。


「そうかー。……病気してる時にあのお袋さんの相手か……」


「……かなり、大変だそうだ……」


 流星とその友人は二人揃ってペタの無事を案じた。突き抜けてパワフルなメイの事は、彼らにも充分に知れ渡っているのだ。


 そして、そんな二人の会話をこっそりと聞き耳を立てている人物がいた。


「ちょっと、キミってば。聞いてる?」


「え、あ、うん。ちゃんと聞いてるよ」


 王子 公子その人である。


「でさー、その彼がさー」


 取り巻きの一人が合コンに行った時の自慢話を再開したが、公子はそれを大半聞き流していた。ペタが2日間も学校に来ていない事に、ひょっとしたら、という思いが芽生えていたのだ。


 ひょっとして、自分の悪戯にショックを受けて引きこもっているのでは? と


 流星とその友達の会話を聞く限り、病気というのは本当のことなのかもしれないが……。後になって、やはりあの悪戯はやりすぎだったのではないかという思いが、徐々に公子の頭を重くしていっていた最中の事だ。


「もう、ホントありえねーって感じでしょ」


「ホントホント」


「キミはどう思う?」


「え、ええ? どうって聞かれても、私合コンとか興味ないし……」


 取り巻き達はしょっちゅうな頻度で合コンに出かけているらしいが、今の所公子は全く興味が湧かなかった。


「キミの家ってばカタイからねえ」


「ホント。今時門限設けてるとか厳しすぎない?」


 年頃の女の子がいる家庭で門限があるぐらいは、昨今でもさほど珍しくない事だが、彼女達の常識では違う。だから、公子の家を特別に厳しいと思ってしまっていた。


「まあ、あんまり変な事に巻きこまれるのだけは気をつけて」


 友人として忠告すると、取り巻き達は笑った。


「大丈夫大丈夫! キミって心配性なんだから」


「そーそー。あたしらはちゃんと相手見てるし。下心透けてるような奴には近寄りもしないよー」


『ねー』


 声を揃えて顔を見合わせる彼女達に、キミはただただ苦笑する。と、その時公子は視線を感じてふと周りを見渡した。


「…………?」


 おおげさにならない程度に視線を動かしていると、その隅に女の子の影が引っかかる。


 何となく見たような気がする、そんな程度の認識しかない女子だった。少なくともこのクラスでないのだけは解る。公子は、何故自分が見られていたのか不思議に思った。


「……っ」


 公子が見ていると悟ると、その女子は顔をしかめてふいっと立ち去った。そんな態度に、余り良い感情を持たれていないと感じたが、しかし公子には心当たりがなかった。公子はそれなりにモテるので、それをやっかんだり、自分の思い人を振った等と逆恨みをされることもある。だが、そういう時には大体上手く立ち回ってそれ以上傷口が広がらないように努めていた。事実、今の公子にやっかみ以上の嫌悪を抱いている者は少なくともこの学年にはほとんどいない。


「何、今の?」


 公子がその声に我に返る。どうやら、取り巻き達も先程の女子に気がついていたようだ。


「態度わるーい。今のって絶対キミの事見てたよね?」


「ホント。どうせ自分がモテないからってやっかんでる類だろうけどねー。キミってモテるから」


「そうなのかな……?」


「でなかったらキミが恨まれるわけないじゃん!」


 その言葉に、公子は少し居心地が悪くなる。それを認めるのは自惚れがすぎるかと思うが、確かにそうだろうとも思ってしまうのだ。しかし、公子は先程の女子がモテないとは到底思えなかった。公子にはしかめっつらを向けていたものの、顔立ちそのものはかなり可愛らしかったのだ。あれでは男子が放ってはおかないだろう。


「まあ、何か言われたわけじゃないし、余り悪口言ってもね」


 やんわりと公子がなだめると、取り巻き達はまた公子の事を優しすぎる等とほめそやす。そして、そんな言葉にまたもじもじと居心地が悪くなるのだった。……それは、以前には感じた事のないものだった。その変化に、公子自身も戸惑いを覚えたが、まるで原因に思い至らず、公子は少しの間悩む事になる。

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