第9話 本音……


「――本当に、何だったんだよ」


 聖は、流れていく景色を眺めながら、先程の出来事を振り返っているようだ。


 乗合馬車の中には、僕と聖の2人だけ。


 話は少し遡る。


 襲ってきた連中の覆面を取って顔を確認してみても、僕も聖も記憶にない男ばかりで、持ち物も確認してみるが、所持していたのは暗殺道具のみで身分を証明できそうな物は持っていなかった。


 取り敢えず、暗殺道具は何かの時に役立つかもと思い、全てを鞄にしまった。


 このままでは、問題があると思ったので、死体を1つずつ魔術で燃やした。


 その間の聖は、僕がやる事を何も言わずにただジッと見ているだけだった。


「――おんや?あんた達、冒険者かい?」


 全てが終わった後に、パカパカと馬車が王都方面からやって来て、御者のおじさんが僕達に声を掛けてきた。


「……はい」


「丁度、良かった。どうだい?乗っていかないかい?」


 人の良さそうなおじさんがそう勧めてきたので、僕達はお互いに顔を見合わせ頷きあってから、彼の提案を受け入れる事に決める。


「その代わりといっては何だけど、警護お願いするよ」


 僕は、その言葉に頷いて馬車に乗りこんだ。


 後ろを振り返り、僕達が乗ったのを確認したおじさんが手綱を少し揺らすと、2頭の馬はゆっくりと歩き始めた。


「――いやぁ、助かったよ!ギルドに依頼したんだけど、誰も来てくれなくてさ。今日中には街に戻りたかったからさぁ、一か八かで出てきたんだけど、冒険者さんを拾えて幸運だったなぁ」


 陽気に、事情を話してくれる御者のおじさん。


 それを聞いていた聖はーー


「どう意味だ?」


 と、僕に耳打ちをしてくる。


「……街道は、正直安全安心とまではいかないんだよ。魔物や盗賊の心配があるから、ギルドに警護を依頼するのは常識なんだ。」


 僕は、鞄からミネラルウォーターが入ったペットボトルを取り出し喉を潤してから、再び話し始める。


「……対して冒険者も警護すればお金も手に入るし、歩かずに目的地まで行けるしでメリットがあるから、人気案件みたいなんだけど」


「へぇ、なるほどな」


「……今回は、どういう訳かそちら方面に行く冒険者がいなかったから、頑張って警護をつけずに来たみたい」


「――そこに、俺達がいたから助かったって事か。納得した」


 こうして、僕達は乗合馬車の終点の街まで行くことになったのだ。


 そして話が、冒頭に戻る。


「なぁ、晴人。アイツら何者だったんだ?」


 ガタゴトと木の車輪の影響で、揺れが酷く道の石な当たる音が、僕達の会話は御者のおじさんまでは届いていないようだったので、僕は気にせずに話す事にした。


「……殺す事を生業にしている連中」


「殺す事を生業?」


「……不思議ではないだろ。僕達の世界にも、そういう職業はあったし。殺し屋ヒットマンとか」


「まぁな。だがそんな連中が何故、俺達を狙ったんだ?」


……そんなの、僕が知るわけない。


 僕は鞄から、王都で買った食べ物を取り出しながら、首を振って返すにとどめた。


 答えようと思えばいくつか理由はあるが、それを話したところで、現状が良くなるとは言えないし。


……何か、面倒臭い。


 食べ物を口に運びながら、心の中で深い溜息をつく。


 どうやら、僕達の知らないところで何者かが邪魔をし始めたようだ。


「――ところで、晴人」


「……何?」


 僕の目をジッと見てくる聖の顔はとても真剣な表情で、僕は再び心の中で溜息をつく。


……仕方がないか。


「アイツらは、凄い殺意を持っていた。あの時、俺は殺されると確かに思ったし、攻撃してきた相手は強かったと思う。だけど、そんな連中を全てお前は、倒したんだよな」


「……だから、何?」


「晴人。お前、強かったんだな。俺、知らなかったよ」


 言ってから聖は目を伏せて、何となく寂しそうな雰囲気を見せる。


 聖は、家が剣道道場をやっていた事もあり、幼い頃から剣道を続けていて、全国大会出場の常連だった。


 おそらくこの世界でも、剣でやっていけると驕っていたのも分かるし、ましてや勇者というのもその驕りに拍車をかけていたのもあるのだろう。


 しかし、試合と実践では明らかに違いすぎてしまった。


……まぁ、当たり前だよね。


 命を取る取らないに、ルールなんてないのだから。


「……だから、大丈夫と言ったんだな。俺、やっと分かったよ」


 頭を掻きながら、すまない。と聖は僕に頭を下げた。


「……小さい頃から父さんに、異世界に飛ばされた少年が勇者になって魔王を倒す話を聞かされていたんだーー」


 僕は、今まで誰にも話すことがなかった自分の事を、ポツポツと聖に話し始める。


「……いつかは、僕も異世界に行って勇者になるんだって、小学生の頃まで思っていたっけ。その為に、色んな努力をしたんだ。祖父から古武術を習ったし、祖父の友人から居合術も習ったし、異世界に行った時に役に立ちそうな知識も勉強したりもしてきたーー」


 僕は、今までの事を思い出しながら話す。


「……だけど、異世界に行く為に身につけた能力は、隠そうって決めていたんだ。だから、沢山手を抜いて過ごしてきた」


「なんでだ?」


「……出る釘は打たれるって言うだろ。量産型連中と一緒だったら、注目される事もないからな。僕の努力の目的は、異世界に行った時の為のものだったしね」


 恥ずかしくて、言えなかった僕の事情を口にしたことにより、随分気持ちがスッキリしてきたのを実感する。


……もう、自分を偽る必要はないんだ。


「……だから、今ハッキリ言うよ。悪いけど、僕は聖達よりも強い。正直、聖は足手まとい」

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