第8話 突然の出来事……
その頃の、隆史と敦弘はというとーー
昼食を終えて、自室で満腹感によるまどろみを堪能しながら、敦弘はベッドの上で大の字になって寝っ転がり、天井を見つめながら、昼食の時に聞いた話を思い出し口を開く。
「……ハルと聖、出て行ったって。大丈夫かよ?」
「大丈夫だろ」
だが、隆史から返ってきた言葉は、気のないものであった。
「――お前さぁ、もう少し考えてから話せよ!聖ならともかく、ハルには何の力もないんだぜ!」
「そんな事を言われてもな。僕は、大丈夫だと確信しているし、それに……」
「それに?」
ソファーに座っていた隆史は、ポケットからスマホを取り出し何やら操作した後、それを敦弘に見せるとそこには……。
『ボクは、晴人からの手紙を信じる。ここ数日を振り返ってみると、確かに周囲の人間は胡散臭い』
と、携帯の画面を読んだ敦弘は、昼食後に王女様から受け取ったハルからの手紙の内容を思い出す。
手紙の内容はーー
『城から出る事は、僕の我儘だから気にしないで』
『勇者達は、常に監視されているから、大事な話は携帯電話を使った方が良いよ』
『勇者の役目を遂行するにしても、生き急ぐことなく、命を大切にして欲しい』
『こちらで互いの通信方法を見つけるから、念の為になるべく電源はON状態で』
など、色々書かれていた。
携帯を使った隆史は、ハルからの手紙の事を実践しているのだが、敦弘からしたら、何となく面白くない。
最初、ハルからの手紙を読んだ時の敦弘は、監視とかあるわけ無いだろ。と今でも思っているし、だから隆史からの携帯の文面を読んで、少し驚いてしまった。
「……あいつは、自分1人だけが勇者になれなかったから、あんな事書いたんじゃねぇの?」
「敦弘は、信じていないようだが、ボクは信じているんだ」
ソファーから立ち上がり、窓の方へと近づきながら隆史は口を開く。
「……この世界では勇者じゃなくても、ボクにとって晴人は、
敦弘は外の景色を見ながら笑って言う、隆史の言葉に軽く衝撃を受ける。
「は?
「気にするな。これは、ボクが勝手に思っている事だからさ。それでも、敦弘にも晴人の事を信じて欲しいかな」
頬を人差し指で掻きながら隆史は言うが、敦弘には全く納得が出来なかったのだか……。
「……ちぇっ。分かったよ」
隆史とは産まれた時からの付き合いの敦弘は、取り敢えず幼馴染みの言う事には素直に従ってしまうのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「あそこの、宇治抹茶クリームあんみつは、今のところ俺の中では1番だな」
道は予想していた通りに、石道から土の道へと変わっていく。
「……聖は、甘党だもんね」
「うむ。甘い物は、正義だな」
僕と聖は、元の世界の話をしながらのんびり歩いていた。
この世界の季節は、あちらの世界と同じで少しづつ暑い季節へと移りつつあるようだ。
両側に雑木林があり、先程まで見渡しもよく明るかった道が次第に、日の光が届きづらくなり気持ち暗くなってきた。
「……聖」
「ん?」
「……気を付けて」
「どういう――」
意味だ?と、聖が言い終わる前に、晴人は彼を雑木林へと突き飛ばした。
シャッ!っと、聖が晴人に飛ばされる前にいた場所には、ナイフが地面に突き刺さっていた。
「……チィッ!」
僕は、聖を突き飛ばした反対側の後ろへと飛び、再びの攻撃を回避すると、聖の場所と同様にナイフがーー
木の上から黒い影が、いくつか飛び降りてくるのを視認すると、僕はそれらから繰り出してくる攻撃を躱しながらジリジリと後退る。
……なんだ?
コイツら、意外と素早いな。
躱しながら、彼らの攻撃を見極めていく。
……これが、実践か。
だけど、これなら。
僕は、彼らの後方へと跳躍すると、すかさず背後から蹴りを黒集団の1人に当てる。
「――グッ!」
蹴りられた相手は、低めの声を発し前方へと飛びながら、受け身を取るとそのまま軽く跳躍して木の枝へと着地するが、途端に崩れ落ちて地面へと落下する。
その額には、ナイフが刺さっていた。
……よし、上手くいった。
蹴りを入れる前の僕は、背後に回ったと同時に、相手の腰に数本装備していた、ナイフホルダーの中の1本を奪い、木の枝へと飛んだ奴の額に目がけて投げたのだった。
「――!!!」
仲間の1人がやられた事で、他の連中に緊張が走る。
そのまま僕は、黒集団の2人へと素早く近付くが、意外にも気配に気付いた2人は、こちらに反撃をすべく持っていたナイフで交互に突いてくる。
その連続攻撃を、なんの問題もなく躱しながら、素早く2人の背後にまわり、先程と同様に気付かれることなくナイフを奪った僕は、再び上へと跳躍すると、その動きに合わせて顔を上げた2人の額目掛けてナイフを飛ばす。
額にナイフを突き立てられた2人は、なす術も無く地面へと倒れ込んだ。
……ふぅ、意外と時間がかかってしまったなぁ。
それでも、時間にしたら3分も掛かっていないのだが。
最後の1人を、と周囲を見渡すと、ソイツは聖に襲いかかっていたのだが、よく見ると聖は盾を持ちながら、地面に寝っ転がった状態で、相手のナイフ攻撃を必死に避けていた。
……どうして、そうなった。
僕は、息絶えている中の1人から、装備していたナイフを奪い、聖に攻撃をしている最後の1人のこめかみ目がけて投げる。
「――ガァッ!」
投げたナイフは見事に命中し、そのまま最後の1人は苦悶の声を発しながら横に倒れ絶命した。
「……大丈夫?」
「あ、あぁ」
僕は近付いて手を差し出すと、聖は突然の出来事にまだ何が起きていたのか理解が追い付いていない様な表情のまま、手を取って上体を起こす。
「――なんだよ。……これ」
そして、聖は道端で息絶えて倒れている周囲を見渡して、現状を把握したのか徐々に彼の顔色が青くなりながら呟いたがーー
それは、独り言なのか僕に聞いた言葉だったのかは、僕には分からなかった。
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