第6話 広場にて……
盾の店を出た僕達は、大きく溜息を吐き出す。
「……失敗したな」
「気にするな。お前の行動は立派だったと、俺は思うぞ」
肩をポンと叩いてくる聖に、再び僕は肩を落としてしまう。
あれから、店主のテンションは下がる傾向を見せることなく、何時しか盾の講義に変わっていて僕達はただひたすらにその話を黙って聞くしかなかったのだ。
……お人好しも、ほどほどにしよう。
「……腹減った」
空を見上げると太陽が真上にあるのを見つけると、丁度昼のようだ。
僕達は、人通りが多い広場へと足を向ける。
「今度は、何処ヘ行くんだ?」
「……腹ごしらえに、屋台料理を食べに」
「飯だな!」
聖も腹が減っていたようで、テンションが高めになったようだ。
「――それにしても、晴人」
「……何?」
「お前、荷物どうしたんだ?」
聖が気になるのは、僕にも分かる。
今の僕は、この世界に来る前に持っていた荷物を持っておらず、革鞄を背負っているだけだったからだ。
「……全部、この中」
「何を言っているんだ?その小さな鞄に、あれだけの荷物が入る筈ないだろう」
……この男は、一体城で何をしていたのだろうか?
「……これは、マジックバックっていうアイテムだよ。一般のマジックバックは鞄の大きさで容量が決まっているんだけど、これは容量無限調整済だから幾らでも入るんだ」
「スマン。マジック?バック?……とは何だ?」
「……RPGゲーム。聖やった事あるよね?」
「あ〜、少しだが」
苦手ジャンルの話に、頭を掻く聖。
聖はどちらかというと、アクションゲーム派だ。
「……システムの1つにアイテム欄があって、その欄の中には装備品やら回復薬が収められているよね?」
「あ〜、あったな」
やった事があるゲームを思い出しているのか、聖は遠い目をしている。
「……回復系は収められる個数限度があったりなかったりするけど、装備品はほぼ個数制限はないよね?」
「うん?そうなのか?」
……彼のゲーム知識の限界、浅すぎる。
「……単純に
「確かに、そんな大荷物を抱えていたら行動するのも大変そうだな」
「……そのゲームシステムを
「ーー何だよ!その便利アイテム!」
僕が背負っている鞄の重要さを理解できたのか、聖の目をキラキラさせながら鞄に釘付けになる。
「俺も欲しいのだが、どこでそのマジックバックを買えるんだ?」
「……買えないよ」
「――えっ!?」
「……手に入れたいなら、ダンジョンに入って、そこにある宝箱からじゃないと。まぁ、マジックバックは希少アイテムだから、簡単には手に入らないらしいけど」
「そうなのか……ってダンジョン?そんなのが存在している世界なのか、
流石に、ダンジョン知識は聖の中にもあったようで、驚きの表情を僕に見せる。
「……勇者になって魔王討伐といえば、RPGゲームの鉄板作品だよ。ここは、そういう世界だと認識した方がいい」
「う、うむ。理解した」
……絶対、嘘だ。
「……そういえば、聖は城の中にいた1週間、何をしていたの?」
「ん?そうだな、特にする事もなかったから、ひたすらにこの剣を馴染ませるために振っていたな……後は、カリーネ様と茶を飲んだりだな」
……なるほど、無意味な日々を送っていたのだね。
広場に並んでいた屋台から、適当にいくつか料理を買い込んだ僕達は、比較的人通りが少ないベンチを見つけて、そこで食事をする事にする。
「それにしても、晴人は何でも知っているのだな」
「……何でもじゃないけど、この国の事やこの世界の事は、城にいる間に調べたからね」
僕の言葉に、堅めのパンのサンドイッチを食べていた聖の手が止まりこちらを見る。
その目は、今日で何度目かの驚きを表している。
「……僕は、心配性だから。色んな状況に対応出来るように、なるべく後手に回らないように、準備は怠りなくなかったからさ」
「晴人、スマン。お前を巻き込んでしまった俺の責任だ」
「……それは、もういいから」
「晴人?」
「……僕の事は気にしなくていいから。聖は、これから自分の事を考えるべきだと思う」
「ーー自分の事?」
食べかけのサンドイッチを口の中に押し込んで、水で流し込んだ聖は、両腕を組みながら目を閉じて考える姿勢に入る。
僕は、買ってあった何の肉かは不明の串焼きを、口に入れて咀嚼しながら、広場の風景を見ていた。
気持ちの良い風が、僕達の頬を撫でて行ったその時、聖の口が開いた。
「ーー俺は、大丈夫だ」
……全然、大丈夫じゃないよ。
「……それは、自分が勇者だからっていう自信からきているのかい?……それとも」
確信なき自信かい?と、皮肉を言おうとした僕の言葉を遮られる。
「――いや。晴人、お前がいるから、俺は大丈夫だ」
ニカッと白い整った歯を見せながら笑う聖に、僕は言葉を失った。
……何?そのドヤ顔。
聖自身は、決めたつもりかも知れないけれど、普通に引くからやめて下さい。
僕ノーマルなんで。
僕は、残りの食事を済ましてベンチから立ち上がり、王都出口へと歩き出す。
「ん?どうした、晴人。って俺を置いていくな!」
……
後ろから、ガチャガチャと音を立てながらついてくる聖をスルーしつつ、僕は構わずに歩いて行く。
……3人の為に!なんて決意したけど、正直もうどうでも良くなってきたかも。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ここは、城内のとある部屋の1室。
豪奢な家具や置物に囲まれ、その中の高級感あふれるソファーに腰をかけている1人のメタボ男が不機嫌そうに、これまた高そうなお酒を飲んでいる。
晴人から言わせてしまえば、モブキャラ要員の男となるが、しかしこのメタボ男は、王の前で晴人の発言を遮った相手だった。
「クソッ!何故に、余分な奴に金を支払っているのだ!……大切な国の金を、勇者に使うのならいざ知らず、余分な奴に渡すとは!腹立たしい!」
そう、このメタボ男は偶然にも、姫の執事と王のやり取りを側で聞いていたのだ。
このメタボ男の役職は、財務長付きの補佐官であった。
声を大にして反対したかったのだか、自分の立場上では王へ発言する事は処罰対象になってしまう為、言えなかったのだ。
「納得いかん!――そうだ、いい事を思い付いたぞ。おい、暗部を呼べ!」
男は、側で控えていたメイドに命令する。
「……畏まりました」
メイドは、静かに返事をすると同時に姿を消した。
再び、メタボ男は酒を煽る。
「ふん!あんな無能な小僧に、金などくれてやるものか!……」
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