第3話 孤軍奮闘中…… その②


 王女様のお陰で、書物庫の中にはなんの問題もなく、すんなりと入ることが出来た僕は、早速目的の本を探し始める。


 やはりこの世界では、本は貴重のようで一冊毎に鎖が繋がれている。


 僕達の世界でも、大昔の頃ではこの方法を用いていたらしいが。


 此処は国の中心で王が住まう城というだけあって、おそらく蔵書に関していえばここより沢山の書物が保管されている場所はないだろう。


……こればかりは、城からの出発の利点だ。


 初めて到着した場所が、何も無いただの野原だったりしたら、知識を得られず右往左往していて効率的に悪く、思う様に行動出来なかっただろう。


……情報を制する者は、戦をも制す。


 これは僕の持論。


 知識は、何事にも変えることはできない貴重な宝だ。


 この世界に関して、なんの知識も持たない僕は圧倒的に不利なのが今の現状。


 ここでより多くの知識を得ることができれば、城から出てからの生活も何とか出来る筈だ。


……否、自分1人で生き抜くんだ。


 特に元の世界に帰りたいとは思っていないが、他の3人が帰還を望む可能性もある為、自由に動き回れる僕がそれを模索しないといけないから。


 それなりに、整理されている本を大まかな見当を付けながら、順に読み漁っていく。


 そして、使えそうな情報をリュックから取り出した、タブレットの内蔵カメラで取り込んでいく。


 このタブレットの中には、元の世界の歴史から経済等のあらゆる情報が入っている。


 雑学も含めて、図書館やネットから集めた様々な情報が蓄積されている。


 科学の世界の知識が、この剣と魔法の世界でも役に立つと思っていたからだ。


……この時の為に、僕は今まで努力してきたのだから。


 この世界やこの国の歴史を調べた後は、この国の通貨等の経済を調べる事にする。


 シャッター音を鳴らしながら、僕は書物を漁るのに夢中になっていた様で、他の利用者がいた事に気付かなかった。


「――なんと、面白い事をしているようだのぅ」


 机を挟んだ向こうに、小柄なマント姿の少女が目をキラキラさせながらこちらを、というより僕が手にしているタブレットを注視していた。


 綺麗なブロンドの長い髪で、その揃えられた前髪から覗くクリッとした眼は、好奇心で一杯のようだ。


 色白でスッとした鼻筋で、プリッとした可愛らしい唇の彼女は、僕の胸をときめかせるのに充分な容姿を持っていた。


「……僕は成宮晴人。こことは違う世界から来ました。貴方はどちらさまですか?」


 しかし、今にもタブレットを奪いそうな雰囲気の彼女から、少し距離を取りつつ訊ねる。


「うむ?ナルミヤ・ハルトとな?ナルミヤとは変わった名じゃのう?ハルトの方が名前っぽいのぅ」


「……晴人が名前で、成宮は家名ですよ。僕達の国では家名が先で名前が後なんです」


「ふんふん。そういう国もあるんじゃなぁ。あい、分かった。我の名前はシャルじゃ、宜しくの」


 ニカッと無邪気な笑顔を見せる彼女、シャルに対し僕は好感を抱いていた。


「……シャルさんは、この国の事情に詳しいですか?」


「うむ。詳しいぞ、何でも聞くが良い。我は、お主の事が気に入ったからな、教えてやるぞ」


 どうやら、相手も好感を抱いてくれたようだ。


 それから僕達は、お互いにお互いの世界や国の事を話して聞かせあった。


 この世界に来て、今日初めて会った相手だというのに、僕は昔からの知り合いのような、不思議な感覚を持ちながら、それでも楽しく彼女と話をした。


 シャルとの出逢いは、僕にとってまさに僥倖だった。


 彼女の知識は、見た目は少女の様なのに、僕より年上の知識量を持っていたし、何より彼女が魔法使いという事に驚いたのだ。


「――ハルトが、勇者でなくて何よりじゃ」


「……どうして?」


「どうしてとな?それはな、勇者は魔術を使えない、筋肉馬鹿だからだ」


 ふん。と鼻を鳴らす彼女は、どうやら勇者に良い印象を持ってはいないようだ。


「確かに勇者は強い。自己治癒力も高く、身体強化にも優れていて、勇者の得物は破壊される事もないし、魔王に対しての殺傷力に長けているが、ただそれだけじゃ。魔術が使えない者など下の下よ」


……へぇ。剣と魔法の世界なのに、魔法が使えないんじゃ、確かに面白みも半減だね。


「……僕はもしかしたら、ツイているのかも?」


「そうじゃ!勇者じゃなくて何よりじゃな」


 彼女シャルとの出逢いは、僕にとって本当に救いの神様だったのだ。


 それから、僕達は夜遅くまで話をしたんだ。


 次の日も、僕は朝から書物庫へと足を運び情報収集をしながら、彼女シャルを待っていた。


 そして、彼女は無邪気な笑顔と共に現れて、再び会話を楽しんだ。


 次の日も、その次の日も。


 気が付いたら、この世界に来て1週間が経とうとしていた。


「そろそろ、行くのじゃな?」


「……うん。シャルさんのお陰で、当面の目標もできたしね」


 僕が、この城を出る旨を伝えようと思っていたら、先に彼女に言われてしまったので、素直に答えるしかなかった。


「それは、儂も一緒じゃ。新しい研究材料が出来て、ウキウキなのじゃ」


 彼女は、本当に楽しそうに笑ってくれる。


 この城で過ごしてきた日々の中で、彼女以外の者達は、僕に対して警戒心を剥き出しにされたり、無能と思われている蔑みの視線を感じていたのだが、彼女がいてくれて良かったと思っていた。


……結構、ストレス溜まるんだよねぇ。


 そんな彼女ともそろそろ別れないといけないわけで、少し寂しさを感じつつも僕は口を開く。


「……シャルさんは勇者が嫌いだけど、僕にとっては、聖も隆史も敦弘も友人なわけで。彼らの存在で何度も救われたんだ……恥ずかしいから本人達には言えないけどさ。だから、アイツらを都合の良いように使うようなこの国を僕は許さないし、その前にもう二度と召喚の儀をさせるつもりもない」


「どうするんじゃ?」


「……だから、まずはこの国を潰すつもり」


 これは、僕の決意表明だ。

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