第2話 孤軍奮闘中…… その①
僕達には、それぞれの部屋が用意された。
意外だったのが、敦弘が隆史と一緒の部屋を希望した事だ。
……見かけによらず、寂しがり屋さんだったらしい。
意外でもないか、
そう思うと、妙に納得してしまった。
僕は、用意された部屋に備え付けてあったソファーに腰を降ろして、天井を見つめていた。
ベルベットのような生地のソファーだが、座り心地が悪い。
如何せん、硬過ぎる。
……本当に異世界に来たんだなぁ。
この部屋まで辿り着く間に、窓からの景色や建物内の設備や巡回兵の姿を見て、改めてココが僕達が過ごしてきた世界とは違う事を実感したのだ。
……最悪、ドッキリの可能性も考えたのだが。
部屋の中には、隠しカメラなど存在せずに、代わりに天井裏に潜んでいる者がいるくらいだった。
この世界の人間は、こんなにも気配を消すのが下手なのか?
それとも、何の力もない奴に気配を消す必要もないと思っているのか?
……どうでも良いか、そんな事。
僕はソファーから立ち上がり、窓に近付いた。
この世界の太陽は、僕達の世界と変わらずに1つだった事に、取り敢えず安心する。
空も変わらない。
この部屋からでは向かいの建物が視界を邪魔しているので、見られる景色は空と中庭位だったが。
……太陽の位置から考えて、まだ昼前のようだ。
時差ボケに似た体のダルさを感じるが、行動を起こすのなら早い事に越したことはない。
僕は机の上に置いてあったガラス製のベルを手に取って、それを鳴らした。
部屋へと案内された時に、用事があったら鳴らして下さいと言われていたので、早速活用してみる。
鳴らして暫くすると、部屋の扉にノック音の後1人のメイドさんが入ってきた。
「お呼びで御座いましょうか?」
顔を下げたまま、お伺いを立てるメイドさんは中々に教育されているようで、どうやら戦闘にも長けているようだ。
……警戒しすぎでしょ、この城の人達。
「……ここには、知識を得られる場所はありますか?」
一瞬、図書館と言いそうになったが、この世界で通用するか不安もあって違う言い方にしてみる。
メイドさんは、未だ顔を下げたままだが、何となく言葉を考えているようだった。
「……本が読みたいんです。出来れば、この世界の基礎知識が知りたいのですが」
僕は少し強めな口調で、もう一度メイドさんに訊ねる。
ここでは、好感度など気にして入られない。
ココに長居するつもりなど、僕にはないのだから。
「書物庫がありますが、誰でも閲覧出来るわけでは御座いませんので」
丁寧に話してはいるが、言外に「誰がお前に見せるかよ!」という態度が透けて見えるが、相手にするつもりはない。
「……分かった。じゃあ、王女様か王様に許可もらうからいいや。あ、僕今から出掛けるから下がっていいよ」
僕の言葉に、今まで下げたままの顔が上がったかと思うと、そこには驚愕の表情があった。
この世界は、僕達の世界にも随分昔にあった身分制度が存在している。
だから、王様や王女様に逢えるのはそれ相応の身分の者だったりするようだが、元々この世界の人間ではない僕にはそんな事関係ない。
……敬うに値しない連中なんだし。
僕は、ベッドの傍に置いてあったリュックを手に取り部屋を出ていこうとすると、メイドさんが僕の前に立ちはだかってきた。
「ーーおやめくだい!」
片手で僕を制止しながら、もう片方の手は背中に。
「……君では、僕を殺せないよ」
「――えっ!?」
僕は、メイドさんの背後に立っていた。
その事実に、メイドさんの顔が青ざめ始める。
それはそうだ。止めたと思っていた人物が、一瞬で後ろにいるのだから。
しかも、背で隠していた自身の得物を押さえ付けられながらーー
「……この国の人達って、気配も殺気も消すの下手だけど、大丈夫なの?これじゃあ、
僕は、押さえていたメイドさんの得物からそっと手を話して、廊下に出た。
……本当に、滅ぼしてやろうかな。
冗談のつもりで言ったのだが、ここまでレベルが低いと行動しても良いかな。という気になってしまう。
それくらい、今の僕は少し怒っていたのだ。
……まだまだ、自制の修行が足りないようだ。精進しなければ。
そう反省しながら廊下の角を曲がると、思いがけず目的の人物と遭遇する。
「ハルト様?どうかなされたのですか?このような所にいらっしゃるなんて」
相変わらずのドレス姿の彼女だったが、先程とは別のドレスに着替えていた。
……アレは、召喚用のドレスだったとか?
それを聞く訳にもいかず、目下の用件を述べることにする。
「……書物庫へ入るには、王様か王女様の許可が必要だとメイドさんから聞いて、その許可を取りに」
「まぁ!?書物庫に入るのに、許可なんて必要無い筈ですわ?いい加減な事を言ったメイドは誰かしら!……後でお仕置きね」
メイドさんは、勿論そんな事は一言も言ってはいないのだが。
「……そうですわね。書物庫を警備している者に、ハルト様の閲覧を認める旨を伝えておきますので、心お気なく閲覧して下さいませ」
どうやら、また面倒が起きそうだと考えたのか、王女様は事前に手を打ってくれるようだ。
……意外に頭は回るようだ。
「……有り難うございます」
僕は、王女様から書物庫の場所を聞いた後、礼を述べてその場から離れた。
王女様の性格上、天井やメイドの件には関わっていないようだ。
……では、やはり傀儡王の傍にいたあの男か。
他の連中の顔はモブと認識していたせいか思い出すことは出来ないが、あの中では異質な雰囲気を出していたあの男を、すぐに思い出せるくらい印象に残っていた。
……まぁ、顔は深くフードを被っていて見えなかったから、他と変わらないけどさ。
だけど、あの男の存在を、あの場にいた連中は認識しているようには感じられなかった。
……認識していたのは。
僕は振り返り、今はいないが先程までその人物が立っていた場所へと視線を向ける。
……
魔王討伐なんて言っているこの国だが、別の闇を抱えているのだろうか?
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