第1話 辿り着いた先は……
気が付くと、そこは見知らぬ石造りの室内だった。
「……聖?」
傍で横になったままの聖の体を揺すった。
ううん。と聖の口から言葉が漏れたので、ひとまず安心した。
それから、少しして目が覚めたのか聖がゆっくりと起き上がった。
「……痛っ!って此処は何処だ?」
光に飲まれた影響からか、頭を押さえながら起き上がった聖は、見知らぬ室内を見渡しながらも疑問を口にする。
「……分からない」
「晴人?……良かった、無事か」
僕の声に反応した聖は、肩を掴みながら安堵の表情を見せた。
聖越しに、他の2人が身じろぎしているのを確認する。
「……隆史も敦弘も無事みたい」
僕の視線に気付いた聖は振り返って、2人を同時に揺らし始めた。
「……んん。あと、5分」
……敦弘は、寝ぼけているようだ。
「起きろ。敦弘、隆史」
聖が2人を起こしている間に僕は再び周囲を見渡した時、端っこに人がいるのに気が付いた。
僕は、端っこにいる人物を見て分かってしまった。
……本当に、異世界に来てしまった。
端っこの人達は、映画やドラマや劇で見るような服装だったからだ。
明らかに、僕達の時代では見る事が出来ない服装。
その中の中央にいる人物は、明らかにドレス姿だし、他の人達は襟なしシャツの上に両肩が膨らんでいる細身のジャケットを羽織って、一枚の長い布を肩に巻きつけている。
下はズボンにこれも細みのロングブーツを履いていた。
……このセンス、僕達の時代では着ない。
「ーーココ何処だよ!」
「落ち着けよ、敦弘。……確か、俺達は山の中にいたハズだが」
目が覚めて直ぐに敦弘は癇癪を起こし始めるが、それを窘めるように隆史が声をかけている。
「……説明、求む」
僕は、端っこで固まっている人達へと顔を向けて問いかけた。
それに気付いた他の3人も、端っこへと視線を向ける。
僕達の視線を受けた端っこの人達は、1人を除いて狼狽し始めた。
……なんで、そんなに僕達は恐がられているのだろう?
「――あの!……ようこそ、勇者様方」
1人だけ動揺していなかったドレス姿の女性が、勢い良く立ち上がり、スカートの裾を軽く持ち上げながら頭を下げた。
「……勇者?」
「ーーオレ達が?」
「晴人、これは何の冗談だ」
女性の言葉は確かに3人に届いたようで、三者三様のリアクション。
「お願い致します!どうか!我が国を……いえ、この世界を魔王から救って下さい!」
……3人の言葉は、彼女には届かなかったらしい。
「――姫様!」
「なんですか!アベル!」
興奮気味の彼女は大声のまま、側にいた口髭が特徴の白髪頭のご老人に向き直る。
「……勇者様は、3人だったのでは?」
「えっ!だから、こうして勇者様方が姿を……4人いますわね」
そう、僕達は4人だ。
……そうか、召喚すべき勇者は3人かぁ。
「ーーってか、何なんだよ!」
「理解できない、ちゃんと説明してくれないか?」
「同感だ。なぁ、晴人」
敦弘は、余程彼女の大声が煩かったのか、両耳を指で塞ぎながら不機嫌な態度を見せているが、他の2人も態度には出さずとも、声に不機嫌さを含ませていた。
……そりゃそうだ。混乱が収まっていないのに、大声で一方的に己の要求を言ってくる者に不信感を抱かないそんな単細胞な奴らではないのだ。
「えっ?あ、はい。此処はダリルカ王国、私はこの国の王女カリーネ・ペンネ・ダリルカと申します。この度は我が国の……いえこの世界の危機にて勇者召喚の儀を行わせて頂きました。そして、召喚に応じて頂いたのが貴方様方なのでございます……ですがーー」
口髭お爺さんの言葉で、冷静さを取り戻したのか、普通に説明してくれる王女様だったが、最後に言葉を濁してしまう。
「……召喚予定の勇者は3人。でも、僕達は4人。1人余分で混乱中」
「は、はい。そうなのでございます……どうしてこんな事に」
僕の言葉に、王女様は素直に反応を見せる。
……1人余分。
1人は、勇者ではないという事。
王女様が何か僕達に話しているようだが、僕の耳には届かない。
僕はこれからのあらゆる可能性を、起きるであろう事象を考え始めていた。
思考の海に潜っている僕の肩を誰かが叩いたのを感じて、顔を上げると聖がのぞき込んでいた。
「大丈夫か?晴人」
「……大丈夫」
声をかけられた僕は、場所が変わっていることに気付いた。
先程までの質素な室内ではなく、綺羅びやかな室内に変わっていたのだ。
……いつの間にか、移動していたみたい。
「晴人、スマン」
突然の聖からの謝罪に、一瞬戸惑った僕だったが隆史や敦弘の様子、そして聖が手にしている物を見て意味を理解する。
3人は、定番の勇者の証の宝剣抜きを体験した後だったのだ。
……やはり、巻き込まれたのは僕だった。
光に飲まれる前にその事を理解していた僕は、特にショックの気持ちは無い。
それに僕には、確かめないといけないことがあるのだ。
部屋の中を見渡し目的の人物を見つけた僕は、声を掛ける。
「……質問があります!」
突然の大声に、祝福ムードの様な雰囲気の部屋の空気が一変する。
ここにいる者は、誰もが知っているのだ。
僕が勇者ではなく、余分な奴だという事に。
「無礼である!」
1人の偉い奴っぽいが、僕の存在を否定する。
それに習うかのように、冷たい視線を僕に向ける者達もいる。
……悪いけど、此処は引く場面ではない。
「ーー良い。聞こう」
豪奢な椅子に腰をかけている人物が、手で周りを制し僕の言葉を促す。
僕達以外の者達は、頭を下げて平伏の姿勢を見せる。
当たり前だ、相手はこの国の1番偉い人物なのだから。
「……僕は、ご存知の通り勇者ではないので、故郷ヘ帰らせてくれませんか?」
僕の発言に再び周囲がザワつき始めるが、そんな事はお構いなしに僕は周囲の反応を冷静に観察する。
……やっぱり、これも思っていた通りかぁ。
「申し訳ないが。魔王を討伐しない限り、そなた等が帰還する事叶わず」
……嘘つき。
「……王女様、本当?」
僕は、聖の側にいた王女様に真意を問いただす。
王は嘘をつくのに抵抗はない人物ようで、テンプレのような台詞を表情変える事なく言えるが、王女様はまだその辺りは未熟というのは先程の様子で分かっていた。
案の定、彼女は言葉を濁すが目が泳ぎまくっているので、王の言葉が嘘だという事が分かってしまう。
「晴人、何か悪ぃな」
頭を掻きながら、申し訳なさそうに敦弘は言ってくるが、口元に締まりがない事から、自分が勇者になれて嬉しくて仕方がないのが分かる。
「魔王を倒さないと元の世界に帰れないと言うのなら、晴人は俺達が倒して戻ってくるまでここで待っていてくれないか?」
いつもは冷静さが売りの隆史なのだが、やはり勇者に選ばれたのが嬉しいのか、嘘をそのまま鵜呑みにしているようだ。
……待つわけないだろ。普段は、この手の小説やゲームを馬鹿にするような奴なのに、実は憧れていたのか?
「晴人、スマン」
「……申し訳ないが、僕は貴方達の言葉は信用出来ないので、この世界の事を理解した後に、此処から出て行かせてもらう事を了承して頂きたい」
僕は聖の謝罪をスルーして、自分の意志を主張する。
そんな僕の肩を掴んで、聖が口を開く。
「晴人、無茶を言うな。俺達は勇者だが、お前には何の力も無いんだぞ。1人での行動は危険だ」
……うるさい、新人勇者。
「そうですわ!皆様が戻って来るまで、我が国が責任を持って、貴方様を保護させて頂きます。元はと言えば、私の未熟さが原因で、無関係な貴方様をこちらに呼んでしまったのですから」
……うるさい、ドジっ子王女。
「……心配無用」
僕は傀儡王へと視線を向けると、側に控えている男が王に耳打ちをしていた。
王は、男の言葉に軽く頷きを返すと、再び口を開く。
「ーーあい、分かった。そなたの望み叶えよう」
「お父様!?」
父親の言葉が意外だったのか、王女様は驚きの声をあげた。
……良し、計画通り。
「……有り難うございます」
僕は思わず顔がニヤけてしまいそうになるのを何とか抑えて、王に向かって一礼した。
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