理不尽な神様にもて遊ばれている件(仮)
白兎 ハル
プロローグ 日常から非日常へ……
「なぁ、まだかよぅ」
「あの山越えたら、目的地だから」
「ーーまだ先じゃねぇかよ!」
「仕方がないだろ。山が崩落していて、行ける場所はあの駅までだったんだから」
「敦弘。そんなに嫌なら帰るか?」
「はぁ!此処まで来るのにどんだけ時間使ったと思っているんだよ!来た道引き返すくらいなら、行くわ!」
「……敦弘、五月蝿い」
山道をひたすら歩いている僕達4人。
目的地までの電車に乗っていたのだが、途中地震の影響で山が崩落して線路を塞いでしまい、僕達はやむなく途中下車した。
目的地までは駅だと後10駅だったのだが、此処は僕達が住んでいる所とは違い、1駅の間隔が長い。
なので、そこまで徒歩というのはかなりの時間がかかる訳で。
途中下車した駅から、僕達はかれこれ3時間歩き続けている。
だから、敦弘のように疲れでキレてしまうのは仕方がないことと言えば仕方がないわけで。
……でも、怒鳴る気力があるのならまだ大丈夫。
「それにさぁ、ボランティアに行こうって言い出したのお前だろ」
「だってよぅ。連休中、無碍に過ごすくらいなら、この無駄に有り余る体力を人の為に使いたいって思ったんだよ」
「うん。いい心掛けだと思うぞ、敦弘」
「……だから、此処まで来た」
そう、僕達の目的地は地震で被災してしまっている人達の役に立ちたいという敦弘の提案にのかってこうしてやってきたのだが、もうその計画が頓挫しかかっている。
……提案者の癇癪により。
敦弘は思い立ったら吉日を地で行く性格で、僕達は強引な彼の提案に何となく乗ってしまう。
……説得力が妙にあるんだよね、敦弘って。
僕達4人は、小学生からの腐れ縁。
でも、常に一緒にいたわけじゃない。
隆史は、成績優秀で小学生の頃から学級委員長などを務めてきた真面目くんで、反対に敦弘はどちらかと言えばサッカー少年でチャラい。
正反対の2人だが、親同士が仲が良い関係で生まれた時から一緒だったせいで、よく2人でつるんでいる。
聖は家が剣道道場をやっている為、家で剣道をやっているのにも関わらず中・高でも剣道部に所属している武人である。
……長髪で、後ろを1つに束ねている所とか。
一方、僕はといえば……
「晴人。疲れていないか?」
「……うん、大丈夫。ありがと、聖」
「ーーハルって、相変わらず荷物多いよな」
「そうだな。買い物行くだけなのに、大量の荷物持ってくるし。まぁ、今回は自分達の事は自分でしないといけないから、普通に見えるが」
被災地にボランティアに行く僕達は、食料も寝床も自分達で用意していないといけない。
これは、最低限のルールだ。
だから、僕達はそれぞれに寝袋だったりテントだったり、トランクにはインスタント食品だったりを持参している為、荷物は多い。
……でも、これは僕にとっては普段と一緒。
「……備えあれば憂いなし」
「それ、いつも言っているよな」
「良い言葉だな」
「感心するとこ何か違うよ、聖」
……そう、備えあれば憂いなし。
僕にとっては意味のある事で、他人からは理解されない事。
心配性……と、以前隆史に言われたことがあるが、確かにそうかも知れない。
僕はいつ
幼き頃から、夜寝る前に父親から聞かされていたココとは異なる世界に飛ばされた主人公の冒険譚。
導入部分は違うが、中身は結局悪者の魔王を倒す勇者の物語だったが、幼き頃の僕にはとても心が躍るお伽話だった。
それから、僕もいつかは異世界に飛ばされてしまうかもと思い始めて……いや思い込んで、それに向けての努力をし始めたのだ。
……それは、今も継続中だけど。
それでも、考えは昔のように行けるなんて思い込みは薄れているが、小さい頃からの習慣をやめる事もできないわけで、ズルズルと今に至っている。
これだけは間違えないで欲しいのだけど、決して僕は厨二病患者ではない!
……僕の右手は疼いたりしないし、オッドアイに憧れも無いから。
まぁ、そんな理由で忙しい僕はそこそこ近くに住んでいる聖の剣道の試合を見に行ったり、試験勉強を一緒にする位で、他の2人とは学校で一緒に昼食を食べたり、こうした4人で行動するイベントがたまにある程度の関係だ。
「だけど、このままだと着く前に一泊だね」
「えぇ!……マジかよぉ」
隆史の言葉に、心が折れたのか敦弘は傍にあった切り株に腰をおろしてしまった。
そんな彼の前に立ち、リュックからミネラルウォーターが入っているペットボトルを取り出して、それの蓋を外して隆史はそれを口に付けて喉に流し込んだ。
「此処まで歩き通しだったから、ここで少し休憩をしよう」
聖は自分の背負っていたバックパックを足元に降ろして、隆史と同じ様に緑茶が入っているペットボトルに口を付けた。
3人のようにそれ程喉も乾いていないし、疲れてもいない僕は手持ち無沙汰を紛らわす為に周囲を軽く見渡した……その時。
「うおぉ!地震か!?」
敦弘が、突然の揺れに1番に反応する。
ゴォーという地響きが聞こえ始めたかと思うと、グラッと足元に大きな揺れを感じた。
……大きいな。
「――って!何だよ、コレ!?」
揺り戻しを警戒していた僕の耳に、敦弘の声が届いた。
振り返ると……敦弘が光っていた。
正確には、敦弘の足元が。
「敦弘っ!」
隆史は直ぐに敦弘の手を掴むと、反対の手を聖へと伸ばす。
「隆史っ!」
聖は素直に伸ばされた隆史の手を掴み、そして僕へと振り返る。
……うわっ。コレって、現実になるんじゃ。
そして、聖が僕の腕を掴むーー
「……離して」
僕はその手を振りほどき、聖との距離を取ろうと後ろに足を伸ばす。
「えっ!?……晴人?」
望んでいたことが現実になると思った瞬間、僕は巻き込まれたくないと思ってしまった。
あれ程、努力してきたというのにだ。
繋がっている3人は、段々と光に飲み込まれていっているようだった。
……僕は、勇者の器ではなかった。
それが、この時初めて理解したのだ。
「――クッ!……晴人、スマン!」
引きずり込まれていく聖は、一度は払われた手を再び伸ばして、僕の腕を掴んだ。
「や、やめ――」
振りほどく間もなく、僕は光に包まれて意識を失った。
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