終章
絶え間なく銃声と砲撃音が響き渡り、着弾の振動で地面が揺れる。
レーダーに映る敵影は、自軍の三倍を超えている。どう考えても、まともに相手をするのは無理な数だ。退却以外の道はない。
行馬は牽制射撃を行いつつ、各方面に散らばっている仲間へと通信を飛ばした。
「こちらテイル1。
『クソ悪いな。あと五分耐え切れば良い方だ。できれば今すぐ撤退してぇ』
『僕の方はもう無理だよ。ポイント
「そうか。なら俺の方は八分後に退却を開始する。
『
「人気者は辛いなおい。……
『完了しています。ブラボーより進入中の敵機は射程内に入っています。撃ちますか?』
「まだ待て。チャーリーまで引き付けてからだ。……おっと、こっちも団体さんが到着したな」
レーダーに映る敵影が、一気に数を増した。連中は行馬の受け持つ箇所を優先して突破することに決めたようだ。
本腰を入れて攻められては、さすがに持ちこたえることもできない。行馬は撤退の準備をしつつ、ふと思い出したように呟いた。
「しかし……結局、俺らは負け戦に回される運命なんだな」
『なんだ突然』
怪訝な反応を返すベルンハルトに、行馬は拗ねたような声で告げた。
「いやほら……この前、一瞬だけ希望に満ちた未来が見えた気がしただろ? それから一ヶ月しか経ってないのに、俺たちはまた修羅場で逃げ回ってるだろ? おかしくね、これ?」
『ああ、シルバーエッジと一緒に作戦行動した時のことか。仕方ないんじゃないかな。一回の勝利だけじゃ、負けフラグの名前は消えないからね』
『ロー少佐がいてくれれば、違ったんですけどね……あの戦功で昇進しちゃいましたから、今は前線に出てこられないんですよね』
昔を懐かしむように、教授とシーネが追従する。
あの勝利は色々な要素が絡み合った、奇跡的なものだった。それでも八倍の戦力を擁する敵に勝ったことは事実だし、戦いが終わった後は皆と一体になって騒ぐこともできた。あの時は確かに、素晴らしい未来を信じることができた。
だが現実は非情だった。行馬たちは一ヶ月しか経たないうちに、激戦区の撤退戦に従事している。
「ったく、いつか負けフラグの汚名を返上できる日は来るのかねえ……っと!」
最前面に出てきた敵の脚部を破壊し、全体の歩みを遅らせる。行馬は自ら
「そろそろ限界だ。テイル1も退却を行う。時間差で行くから合わせろよ」
『分かってる。俺も退き始めるぜ。ルートが違うから、同時に行けばちょうど良い時間になるだろ』
『狙撃準備は整っています。いつ来ても大丈夫ですよ。……それと、行馬さん』
「うん?」
小刻みに射撃を後退を繰り返しながら、行馬はシーネの言葉に耳を傾けた。
『こうしてみんなが生きているだけで、私は勝ちだと思います。そして、行馬さんたちとなら、この先もずっと勝ち続けていけると信じています。本当ですよ?』
「……そうか」
口元がわずかに緩む。
彼女にそう言われると、こんな日々も悪くないのかもしれないと思ってしまう。
少なくとも、ロー少佐のように昇進して、地位と規則に縛られるのはごめんだ。仲間と共に泥にまみれ、笑い合っている毎日の方がよほど良い。性に合っている、と言うべきか。
『はっはぁ! 分かってるじゃねえかシーネ! やっぱり俺たちには硝煙が似合ってるよなぁ!』
『いや、シーネちゃんはそういう意味で言ったんじゃないと思うんだけど』
『まったくね。これだから脳筋は嫌よねぇ』
『ああ!? そんなわけねえだろ! だよなぁシーネ!』
『えっ!? え、ええっと、その、あの……』
「漫才は戦闘が終わってからにしろ。そろそろ峠が来る。……さあ、勝ちに行くぞ、野郎ども!」
『了解!』
皆の声が重なり、操縦席に響き渡る。
今日も、
行馬は満足げに頷いて、硝煙漂う地獄を駆け抜けていった。
鋼鉄の負けフラグ 烏多森 慎也 @Utamori
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