第121話 俺、今、女子魔王同行中
俺が入り込んだゲーム——か本物の異世界なのか判然としない——世界は、
そして、ゲームプレイヤーは、この
で、この夏、ヴァラエティ豊かな
よく考えてみれば、たまに、この世界に不釣り合いなのがいるなと俺は今更ながらに思い出す。中世風の街路に着流しの侍がいたり、ペンギンが歩いてたり、グレイ風宇宙人が歩いていたりしてた。これは、別の
だが、
「おまえ、……もっと人目の無いところに行こうか」
「わ、……我?」
そうだ、お前だよ!
俺は、別の
「確かに、……なんか私たち周りの人から避けられているような感じがしますね」
修道女リリィ——中の人は天使、じゃなくて麻生百合ちゃん——が言う通りであった。
「こんな真昼間の街中の天下の大通りにそんな強面魔王様が現れて、みんな引きまくってるじゃないか!」
「…………?」
ピンと来ていない下北沢花奈であった。こいつは極度の天然女なのでたぶんさっぱり気づいていないのだと思うが、レベル99カンストで怪しげな呪いのアイテムを体いっぱいにつけた魔王が聖都の中心部までズカズカと歩いて来たのだとすると街は相当の混乱が起きていたのだと思う。
実際、周りの街中のびびりかたは相当なものだ。俺らの周りからはさっと人気がなくなってしまい、間違って近寄って来てしまった村人……じゃなかった都民Aさんなど腰を抜かしてしまい、
「種もみだけは、……この種もみだけは」
なんでそんなものを持ってるんだと思うようなものを守ろうと必死だが、
「ふふ、我、……なおさらその種モミを食いたくなったぜ」
「たのむ後生じゃ、見逃し……」
「はあ、我、聞こえんな……」
「種もみが希望じゃ、……今日より明日なんじゃ」
「ふふ、我、汚物は消……」
……そろそろか。
「——どこの世紀末だ!」
ノリノリでモヒカン悪党の小芝居をする魔王に、聖剣でなぐってツッコミをいれる俺であった。
*
「向ヶ丘くんひどいです。あれでHPごっそりもってかれましたよ」
いやいや、聖騎士小隊長の本気の斬撃でコブ作るくらいですんでるお前が異常だ。さすが魔王である。俺が何人いてもこいつを倒せる気はしない。聖騎士全員でなんとかというレベルかもしれない。
一対一で魔王フラメンコ——下北沢花奈と戦えるのは、聖都では聖女ロータス様かその従者エチエンヌ、魔法帝国側でも支配者ブラッディ・ローゼかその作り出した
いや、俺のびっくりですめば良いが、この魔王フラメンコ——下北沢花奈の登場は、
で、そんな
「なるほどフラメンコ様は、
「うむ、我、友に呼ばれここにやって来た」
「ほう、ランドのご友人でしたか……」
ひっ! 通された神殿の豪華な迎賓の間で、上司にあたる騎士大隊長のランスロットさんにジロリと睨まれる俺であった。その目は、明らかに、面倒事を持ち込みやがってと非難する様子である。それでなくても魔法帝国の進行が間近と噂される忙しい時期に、魔王などという余計なものの対応が必要となり、日頃の心労で薄くなり始めた髪を更にぼりぼりとかきむしりながら、恨みがましい表情をする俺の上司であった。
ただ、魔王フラメンコが来たのが一方的に悪い事かといえば、
「それでは、ぜひ今後、御身とは友好的な関係でありたいですな」
「うむ、我、魔王とはいえ話はわかる方であるぞ」
要は使い方である。
この魔王フラメンコをうまく取り込めば、魔法帝国と聖騎士団で拮抗するこの世界のパワーバランスをうまく崩すことができるかもしれない。つまり来たる対戦の際に聖都側に魔王についてもらおうというのである。そして、もしその調整をうまくできたならば、魔王との交渉にあたったランスロット大隊長の手柄になる。
それなら……。
——魔王来訪という、起きてしまったことはもうどうしようもない。でも、やって来た危険はできる限り有効に利用してチャンスに変えていこう。そう考える、できる男ランスロットなのであった。
しかし、
「なるほど、それは僥倖。で、……この世界では何がご入用で」
「? ……好物はメンチカツだが?」
どうにもいつもの老練の交渉術が魔王フラメンコには通じない。
「またまた、——ご冗談を。そんなものならいくらでもですが、本当の目的は何なのでしょうか」
「本当の目的?」
「この世界にきた目的ですよ」
「? そこの向ヶ丘……でなくて、ユウ・ランドに我は呼ばれて来ただけだが」
「またまた、——失礼ながら
「ん?
「いやいや、あなたは、自分が世界を渡ることの重大さをわかっておられるでしょう。自分が現れた世界にどんな影響を及ぼすか。たかだか知り合いに請われて来るような安易な真似を……」
「…………(汗)」
突然現れた魔王フラメンコの真意をはかるのに必死な
というわけで、路上で、魔王出現の大騒ぎになっているところを通報されて、現れた聖騎士の精鋭部隊に問答無用で本部の城塞神殿まで連行され尋問中の俺たちであった。
魔王出現の騒ぎが、だんだんと、シャレにならないくらい大きくなってきた街中から、さっさと逃げ出さねばとは思っていた俺であるが、種もみじいさんとノリノリで世紀末ごっこしている魔王フラメンコへツッコミしてたりするうちに、いつの間にかこの聖都でも有数の強さを誇る騎士達に囲まれていたのであった。
もっとも、いくら選りすぐりの聖騎士でも、魔王が暴れ出したらどうしようもないのであるが、本当に俺に呼ばれてやって来ただけの
俺にしても、今はこの世界を
なので俺は魔王——下北沢花奈に素直に連行されて、事情聴取に応じるように頼んだのであったが、
「……と言いましても、具体的に要求をいただかなければ、こちらも何をすればよいのか」
「…………(ギロ!)」
「はは! 魔王に意見するなど、不敬な言葉、まことに申し訳なく存じます!」
単に、
このままだといつまでたっても話がまとまりそうにない。
俺にはそんな風に見えたのだったが、
「ランスロット、魔王殿のお相手、あなたには荷が勝ちすぎます。ここからは私に任せなさい」
進まぬ交渉現場にじれったくなったのか、部屋の奥の一段高い台座の向こうからはなたれる声。そして、この部屋とつながる、神像の間とのあいだを隔てる薄いベール越しに浮かび上がるシルエット。
ん? その天上から鳴り響くかのような美声と、女神のようなその美しい体のライン。これは、
「ここからはこのロータスに任せなさい!」
聖騎士の頂点に立つ、この世界最高の霊力の使い手、聖女ロータス様の登場であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます