暗夜行


 ……リンねえは、言った。

 僕があきらめたら、負けたら全部終わってしまうんだって。

 僕は一度、死んだ。そして、二生の盾によって黄泉返った。

 二度目は、ない。蘇生という奇跡は、一回きりなのだ。


   ◇   ◇    ◇


 生まれて初めて、牢屋敷の外観を見た。ここへ放り込まれる前にも見たかも知れないけれど、記憶にないので、あえて初めてと言っておこう。

 ねえやの遺体をととのえ、ばあやの骨を掘り起こし、牢屋敷の外へ埋葬する。

 四角の空でなく、もっと広い空をあおげる場所に。

「皇子……陛下、あなたのばあやは、どんな乳母やでしたか?」

 小さな骨のひとつをつかんで、スヴェンが、僕に問いかけた。

「ベラは……。優しくて、厳しくて、いい人だったよ」

 ばあやがいなかったら、僕はとっくの昔に死んでいただろう。

 いくら、リンねえがしっかりしていても、赤ん坊を育てた経験は、ない。

 だからこそ、終の盾の一族のうち、ばあやのベラは生かされ、僕のそばに置かれたのだ。

「僕は、マデリンかあさまの記憶がないから、僕にとっての母親は、ベラだ」

「母親などと、そのようにおっしゃっていただけるとは。彼女も彼岸で喜んでいることでしょう」

「ごめんね。スヴェンのおばあさんを、僕がとってしまって」

「終の盾の本望にございます」

 そして、ほっと息を吐いている。筋肉のついた肩が、少しだけ、なで肩になった。

「陛下が、終の盾の末路、その真実を知っていてくださった……胸のつかえが、ひとつ、とれました。祖母の骨ひとかけ、お譲りいただけますでしょうか?」

「スヴェンの親族なんだから、僕にことわる必要ないよ、もちろん」

「ありがとうございます。……おそらく、これで全員。一族郎党の骨を回収できました」

 僕らの十二年も長かったが、スヴェンの十二年も長かったのだろう。

 ――できるだけ遺体の汚れをぬぐって、ねえやたち一人一人を横たえる。刎ねられた首には布きれを巻いて、断面を誤魔化し、小指の爪ほどもない小さな花を、首飾りの代わりに置いた。

「スヴェン、土をかぶせるのは、俺たちでやるから。きみ、厩舎から馬と馬具をとってきて。かなり無駄な時間をくっている。いそいで」

 先生の指示に、スヴェンが、僕の顔をうかがった。

 うなずいたら、彼は、すぐに牢屋敷のなかへ入っていく。

 あとはふたりで、土をかぶせた。

 首都まで連れて行ってあげたかったけど、それは今は無理な話だと、つっぱねられた。なぜなら、

「十二年の内戦状態で、造反組……自称・正統派三元老たちのお膝元でも、さすがに不満が噴き出してね」

 ギル先生(と呼ぶことにした)が、移植ごてで土を均しながら、説明してくれる。

「とにかく、マルセルくん自身を確保しなくちゃならなかった。そこで少数精鋭、敵地に侵入して、かたっぱしから捜索していたんだが。おかげで、足がついたから、ここも早々に去らなくてはね」

「皇帝を、廃することは考えなかったんですか?」

 年上の彼に対して、できるだけ丁寧語で話しかける。

 スヴェンも丁寧語、と思ったけど、当の本人から断固拒否されてしまった。唯一無二の主君が、臣下にそのようなことは、なさらないでください、と。

「そういう意見も、あった。しかし、そうなると次の王将をどうするかで、またもめる。結局、きみが皇帝のままで在ることが、最良の選択だ」

「陛下! スヴェン、ただいま戻りました」

 姉三人分の土まんじゅうができると同時に、スヴェンが戻ってきた。

 太い脚の馬二頭を、手綱だけで、よく連れてこられたものだ。

「乗馬なさったことは?」

「ないよ」

 馬は、せいぜい遠目に見たくらいだ。ここの馬は昼間、それこそ、この場で放牧されていたはずだ。

「では、私がお乗せいたします。陛下は、その……華奢でいらっしゃるので、二人乗りでも平気でしょう」

「先生は?」

「おれ? まあ普通に乗れるよ。好きじゃあ、ないけどね」

 馬の背に手をかけ、先生は身軽に足をあげた。ひょいと飛び乗るというのは、こういう感じだろうか。

「王将は、王にして将軍。将軍が馬も乗れないというのも、なんだから、落ち着いたら乗馬訓練をした方がいいね」

「陛下、お手をどうぞ」

 スヴェンの指示通りにやると、初心者の僕でも、馬に乗ることができた。

 目線が高い。ぐんと背が伸びた気分だ。おしりが痛むのが難点だけど。

 最後に牢屋敷を一瞥して、目線を前へ。馬は、かつかつと歩き出す。

 ……ここでの生活の結末は、本当にひどいものだったけど。ねえや、ばあやが守ってくれたから、食べ物以外で、いやな思いをした記憶は、ほぼなかった。

 落ち着いたら、もう一度、ここに戻ってこよう。次は、三人とも首都に連れて帰ってあげるんだ。

「鞍の前がやや反っているでしょう? たてがみではなく、そこをかるくつかんで、姿勢を安定させてください。おつらいでしょうから、私に背をあずけてくださって、かまいません」

「うん、ありがとう、スヴェン」

 振り仰いで、お礼を言ったら、スヴェンの顔が明るくなった。

「はいっ、このスヴェンにできることならば、なんでもいたします」

 二之旗本スヴェンという人は、真摯で実直な、背格好も立派な武士だった。……二之旗本の元老領では、武官や武人、騎士のことを、武士と呼ぶらしい。

 この武士と、僕は昔、会ったことがあるそうだけど、僕はとんと思い出せない。

「ひさしぶりに会った僕がこんなで、スヴェンは幻滅しなかった?」

「皇女殿下や乳母やは、礼儀正しく、お優しくあるよう、お育てになったのでしょう。私は、先帝陛下を思い出しました」

「とうさまは優しい人だったって、聞いたよ。優しすぎるから、だめだったって話も」

「根業矢の性根が腐れきっていただけです」

 スヴェンは、即座に吐き捨てた。

「スヴェンも、根業矢が嫌いなんだね」

 僕は記憶にないけど、名前を聞いただけで、リンねえが泣き狂っていたくらいだから、よっぽど、いやな奴だったんだな。

「この手で、あのたぬき爺を八つ裂きにできなかったことが、現在唯一の心残りです」

「根業矢が摂政だったのって、最初の三年くらいだっけ」

「裏切り者は、かならず裏切られる。そんな疑心暗鬼が徒党を組んだわけですからね」

 失礼します、とことわって、スヴェンが僕の頭を撫でた。

「この十二年、私は生きていても、死んだような気分でした。手元に二生の盾があっても、不安ばかり募り……。陛下と、あの脳足りん虫けらどもを発見したとき、もう世界ごと滅んでしまえばいいと思いました」

「ぼく、死んでいたらしいから、死後に何があったか、よくわからないのだけど、」

「皇子は、思い出さなくてよいのです。とりあえず皆殺しにしてやりましたが、スヴェンは腹立ちがおさまりません」

「スヴェン、尊称」

 馬を並べていた先生が、指摘した。

「先生、僕は気にしていません」

「だめだ。俺は別勘定だが、臣民はかならず臣民としてあつかいなさい」

「でも、」

 そもそもスヴェンは、僕の世(あ)話(に)役(や)になるはずだったんだ。他人行儀でも困る。

「きみは、この国の頂点に立つ男だ。臣下に、へこへこするな、あなどられるな。また根業矢のような者に、隙をあたえる」

「………………」

「傲慢になれとは言わない。が、王(お)将(う)としての礼節、臣(しん)民(か)としての礼節。このふたつを軽視する国は、滅ぶよ」

「陛下、このスヴェンがいけないのです」

 スヴェンにまで言われたら、あとは黙るしかなかった。

 それに……以前、リンねえに言われたことを思い出した。

 どれだけ、おなかが空いていても、監視兵に頭をさげ、恵んでもらってはいけないと。

 あれって、つまり先生が言ったことと同じ意味なのかも知れない。

 考え事をしつつ、馬に揺られていると、そのうち眠たくなってきた。

 まぶたと下あごが自然に落ちる。

「……スヴェン、」

「お疲れになりましたか?」

「うん」

「このスヴェンがささえております、お休みください」

「うん」

 背中をあずけて、目を閉じる。



 ――ばしゃんと水のはねる音がした。

『アクセル。また、あなたのしわざですか?』

 暗い視界に、枝葉の立派な大木が浮かぶ。

 木の根元には、無数の泉が点在していた。泉の色は金色で、小さな光がゆっくりとした速度で明滅している。

 そこに、おばあさんが一人、立っていた。

『あなたは何回、死者を呼び戻せば、気がすむの? もう此岸のことは、新しい玄女にまかせなさい。旧世界の者が、新世界に干渉すべきでは、ない』

 おばあさんは僕にむかって、しかるような口調で話しかけている。

『アクセル。さあ、その霊宝をこちらへお寄越し。アクセル』

 アクセル……誰だ? 僕は、マルセルだ。アクセルって名前じゃ、ない。

『きかん坊め! いい加減に、しないと、』

 突然おばあさんの唇がつりあがり、そのまま口角からこめかみにむかって裂けた。

 頭から角が生える。手足がゆがんで、背がおそろしく伸びた。

 たてがみをはやした蛇……とかげのようなものに姿が変わっていく。

 輝く鱗と対照的に、目は井戸を覗きこんだような闇になる。

『そちらに黄龍を差し向けますよ!?』



「――陛下! マルセル様!」

 スヴェンの呼びかける声で、目が覚めた。

 はっと息を吐き出す。びくりと首を震わせる。

 服の下、汗がべたついていた。

「スヴェン……?」

「はい。ここに」

「……ああ」

「夢を? うなされていらっしゃった」

 僕は外套を毛布がわりに、スヴェンの脚を枕に、野外で横たわっていた。

 ここは、あの大木の根元でも、あの牢屋敷の寝台でもない。

 雑木林と河原が接している薄暗がりの場所。太陽はもう沈んでいるようだ。

「……ねえ、スヴェン。コウリュウって、知っている?」

「コウリュウ……亢龍。ギルベルドどのの、あだ名となった想像上の獣のことでしょうか?」

「そう、なのかな?」

 コウリュウ。夢のなかのおばあさんとは、微妙に発音が違う気がするけど。

「龍とは、たてがみや角、手足のはえた大蛇だとか」

「それ、どうして先生のあだ名に?」

「古代、伏龍とあだ名された軍師がいたそうです。この由来から、優れた賢者、軍師でありながら、隠遁する者を指す言葉になりました」

 そして逆に、とスヴェンが続ける。

「亢龍とは、天に登りつめた龍のこと。ギルベルドどのは、ご高名でいらっしゃるから、亢龍とあだ名されたのでしょう」

「そんなに有名な方なの?」

 僕は全然、知らなかった。どうしよう、彼に失礼なことを言っていたら……。

「この十二年、国外では、島国同士の対戦が頻発しておりました。亢龍どのを招いた国は、かならず勝利しているそうです。その噂を聞きつけ、三元老がお招きしました」

 語るにつれ、スヴェンの声の調子がだんだん下がる。

「我が国は、陛下が白宮殿……首都から遠ざけられたことで、他国から宣戦布告されずにいたのです。陛下が白宮殿にお戻りになられたと知れたなら、対戦を申し込まれることでしょう」

 なるほど。宣戦布告の正式な手続きって、王将のやりとりで成立するんだっけ。

 つまり僕が首都におらず、監禁されてきたから内戦になったけど、代わりに外国との戦争は回避できていた……。

「その前に、亢龍を手元におくべきだ、との判断です」

「でも僕たちの国って貧乏だよね。有名な軍師をやとって、お金はだいじょうぶなの?」

 彼は一瞬、虚を突かれた顔をし、それから小さく笑った。

「……なんで笑うの?」

「おかわいらしいことをおっしゃるから。つい」

「とても切実だと思う。貧乏」

「さようでございますね。――亢龍どのとは、みっつの要求、報酬と引き換えに、おむかえいたしました」

 スヴェンが指を折って、数えてみせる。

「ひとつ。必要最低限の衣食住の保証すること」

「たしかに、おなか空いてたらなんにもできないよね」

「ふたつ。霊宝武具あるいは霊宝道具の譲渡すること」

「レイホウ……えっと、魔法の武器とか道具?」

 確認すると、スヴェンが哀しそうな顔をした。

「我々の手元にあり、かつ危険でない霊宝は、二生の盾のみ。私は断固拒否したのですが……その。陛下の蘇生後であれば、という条件づけで。申し訳ございません」

「それはスヴェンの家の宝物でしょう? 僕に謝ることはないよ。残りの要求は、お金かな? 百億とか、一兆とか、」

「いえ、金銭では、ありません。――みっつ。マルセル様の帝師、つまり家庭教師を自分にやらせてもらいたい、と」

 ん? あれ? ちょっと待って?

「それは先生側からの要求……つまり、こういう待遇をしてくれたら、ヨルムンガンド帝国の軍師になっても、いいよってことだよね」

「はい」

「僕の、家庭教師になる……? 僕って、よその国で有名だったの?」

 十二年間、牢屋敷に閉じ込められていたのに。国内ならともかく国外、つまり外国人が、わざわざ生徒として僕を指名するかな?

「軍師というものは、あらゆる情報をかき集め、策を練るそうですから、我が国の情報もある程度、把握していたのでしょう。陛下のことも、もちろん」

「……ああー。そっか」

「亢龍軍師の知略を、陛下ご自身がご習得なされば、国家安泰と。三元老は、みっつの要求を飲みました」

 たしかに知識や情報って必要だ。

 そういえば昔、栗をそのまま焼いたら爆発するって知らなくて、かまどの前で大騒ぎしたことがあった。

 僕が驚いて、騒いだものだから、双子に徹底的にからかわれて、わーわー泣いて……。

「陛下?」

「ああ。ねえやたちを思い出しただけ」

 死んだら、もう、きょうだいげんかも、できな――

「ふぇっくしん!」

 脈絡なく、鼻がむずむずして、くしゃみが出た。

 それだけで、スヴェンが、うろたえ出した。

「お寒いのですか? しかし、ここには風呂も布団も……えい、かくなる上は、私が人肌で、」

 がさがさと茂みが鳴って、そこから先生が顔を突きだした。

「スヴェン。ジゼルさんと連絡がついた。もう、すぐそこまで――どうした?」

「陛下が、お風邪を、」

「ただのくしゃみだよ」

「寒い? しかし、ここじゃ火は焚けないのだよね。牢屋敷との距離が、まだ近い」

 ちょっと待て、と。先生は茂みのなかに消え、またそこからにゅっと顔を出した。

「こっちの林の奥に、温泉があったよ。まったく都合のよいことにね。ちょっとマルセルくんを温泉にいれてこよう」

 先生は、僕にむかって、手招きした。

 温泉って、地面から直接お湯が出る、天然のお風呂のことだ。話には聞いていたけど、実際どんなだろう? 興味津々で、スヴェンのそばから立ちあがった。

「では、私が、お背中を、」

「きみは身を休めておけ、スヴェン。マルセルくんが馬から落ちないよう、ひどく気をつかっていただろう」

「そうか。ごめんね。僕だけ寝ちゃって」

「いえ、私は、」

「温泉、先生と行ってくるから、スヴェンは心配しないで休んでよ」

 釘をさすと、スヴェンは衝撃を受けたようだった。

 たちまち大きな体を丸め、寂しそうに三角座りしている。

「……すぐ戻ってくるから」

「どうか、ごゆっくり……はやく、お戻りください……」

 スヴェンが矛盾めいた哀願をしてきた。

「――スヴェンは、ずいぶんと、きみに依存しているようだね」

 服を脱いで、湯に足をつけていたら、先生にそんなことを言われた。

「スヴェンが、僕に? 逆ではなくて?」

「うん」

「……ぼく、とても頼りにしていますよ?」

「そういう形の依存もあるということだよ」

 さあ入った入った、と背中を押され、湯気の立つ泉に肩までつかる。

 わあ……なんか体がふわふわして、あったかい。

 それに、こんなたっぷりのお湯、はじめてだ。いつも、たらい風呂だったもの。

 嬉しくなって、温泉という名の泉で、ばしゃばしゃ暴れる。

「俺は、そこの木陰で休んでいるから、のぼせない程度に温まるといい」

「はーい」

 ほんと、気持ちいい。体がさっぱりすると、心もさっぱりするものだ。

 ねえやたちと一緒だったら、よかったな……。

 手で、体の垢をこすり落とす。知らぬ間に全身、擦り傷を作っていたらしく、ちょっとだけ痛かった。

 首の後ろから、のどをこすると、みみず腫れが目立っているような気がした。みみず腫れは、首をちょうど一周している。

 ……ぼく、本当に死んでいたんだなあ……。

 ふと、さっき見た夢を思い出した。

 あれはひょっとしたら、死後の記憶ってものでは、ないだろうか。

 黄色の泉、おばあさん……黄泉、老婆。

 先生は、死後の記憶は持ち込むべきじゃないと言っていた。

 考え込んでいたら、がさごそと、茂みが鳴った。

 先生……それともスヴェンかな? 思いの外、時間が経っていたのかも知れない。

 あわてて立ちあがるのと同時、その茂みから、ひょいと顔が覗いた。

 ――女のひと、だ。

 湯気越しに、ばっちり目が合ってしまった。

 女性は、赤い目を丸くし、僕を上から下まで、しげしげ見た後、

「うわあああ……!」

 細い悲鳴をあげて、茂みのなかにしゃがみ込んだ。

「ちがう! ちがうんだ! 私は痴女ではない! やましい気持ちは、これっぽっちも!」

 女のひとは、ひとり、わーわーとわめいている。

「あ、ごめんなさい!」

 きっと男の裸を見て、気持ち悪くなってしまったんだな。ねえやたちが泣き狂って、いやがっていたくらいだ。

 通りすがりの女性に、ひどいことをしてしまった。

「いったい、なんの騒ぎ、」

「先生、あの女のひとが、」

「皇子っ、皇子おぉぉぉ!?」

 最初に先生。

 次にスヴェンが駆けてきたかと思うと、彼は一人だけ足をすべらせ、そのまま温泉に落ちていった。

「なに? 何が、あった?」

 さらに、のっそり熊があらわれた。

「スヴェン。ギル。……だれ?」

 熊の毛皮をかぶった、巨大な女性が、僕を見て、小首をかしげる。

 先生が、深々と息を吐いた。

「スヴェン、オニグマ。それと、ジゼルさん。それ以上、大声を出すのは禁止だ。……ここが敵地だってことを忘れていないか、きみたちは」

「――私のことは、ジゼルと呼んでくれ。やとわれ軍医をしている。今回の別働隊のひとりだ」

 温泉から場を移して、野営地に落ち着くと、赤目黒髪の女性が自己紹介してきた。

 軍医って、軍属のお医者さんのことだっけ。

「仮にも、医聖と呼ばれた女が、小娘のように騒ぐのは、どうかと思うね」

 きりっと居住まい正した彼女に対して、先生があきれ顔で釘をさす。

「あの……変なもの見せて、ごめんなさい」

 僕が平謝りすると、ジゼルは手を振った。不思議な形に結った黒髪が、ゆらゆら揺れる。

「いや、大声を出して、すまなかった。死体や、けが人の裸は老若男女、見慣れているのだが……なにかこう、不覚に、むらむらっと、」

「医聖どの。陛下は、いずれ高貴の姫……たとえば、元老の一族の姫とご結婚なさるのです。女心とやらは胸に秘めていただきたい」

 着替えたスヴェンが、木の枝に服をかけつつ、ジゼルに噛みつく。

 ふたりのやりとりをじーっと、熊の女のひと――オニグマが見守っている。しかし、飽きたのか、不意にこっちを見た。

「………………」

 じーっと。じいいい、と。こっちを見ている。

 視線をそらすこともしない。獲物を狙う熊って、こんな目だろうか。

 浅黒い肌、焦げ茶色の髪や体毛。

 四肢は太く、人間に比べて腕がかなり長い。

 耳は、頭の横ではなく、ほぼ頭頂についている。

 あまり、しげしげ見てはいけないと思うのだが……オニグマってば、熊の毛皮以外、服を着ていないじゃないか!

「マル、セ、」

「え? はい?」

「マ、マ、……まるぅ?」

 舌足らずに名を呼ばれて、思わず頬がゆるむ。

「僕は、マルセル、です」

「まるせる」

「うん」

 うなずくと、無表情っぽかった顔が、無邪気な笑顔に変わる。

 なんだか、スヴェンに似た笑顔だ。

「オニグマ。敬語と尊称」

 僕らのやりとりに、先生が口をはさむ。

 しかし、まったく気にしないオニグマは、手と膝をついた状態で、こっちに近寄ってきた。

「マルセル。ハラルの九十九番目の、息子」

 つぶやいて、僕の頬に、鼻先をすりつけてくる。

 僕の匂いを嗅いで、何かの確認をしているらしい。かすかに開いた口から、人間よりもとがった歯列が見えた。

 ハラルって、たしか僕の一番最初の、ご先祖様の名前だ。

 その息子……ってことは始祖帝ハラルから数えて、九十九番目の皇帝って意味かな? ……あれ? ちょっと待って。それでは計算が合わない。

 ハラルを一代目として数えるのなら、僕は九十八番目の息子といわれなければならないはずだけど。慣例的な言い回しなのかな。

「ジャンババットから、すこし話、聞いた。スヴェンからは、たくさん聞いた。スヴェン、毎日、毎日、マルセルのことばかり」

 毎日、話して聞かせるほど、僕とスヴェンの間に、逸話があったのだろうか。

「だから、ちっちゃいころ。マルセル嫌いだった」

「え?」

 なんだか、どきりとした。

 ……きっと、ねえやたちに大事にしてもらったからだ。

 僕は、他人からの嫌悪や悪意に不慣れなのだ。

 監視兵は、あの日まで、僕らの生活に、特に干渉してこなかったし……。

「スヴェン、とられたみたいで、かなし、かったから」

 でも、と。オニグマは、また顔をすり寄せ、鼻のてっぺんをひくつかせる。

「いいにおい、する。このにおい、好き。きっと、ハラルのにおい」

 よかった。今は、嫌われていないみたいだ。

 彼女の頭を撫でてみると、オニグマは、僕の脚に頭をのせ、ごろんと転がった。

 ううーん……そんなふうに仰向けになられると、目のやり場に困るというか。

「……あ? あああっ」

「オニグマ! 皇子に、膝枕させるなど、」

「きみたち、漫才は、もういいから。しばらく黙ってもらえないか」

 先生が、血相変えたふたりを制した。

 叱られたスヴェンとジゼルが、ぴたと口を閉じた。

 オニグマは、僕のそばで、ごろんごろんやっている。

 もはや僕らの引率係というべき先生は、巾着袋から取り出した硬貨を宙に投げ、ぱっと両手のなかに閉じ込めた。そして、手のなかから一枚ずつ取り出し、地面に並べている。

 裏表を確認しながら、先生はスイテンジュとつぶやく。

「……大川(たいせん)、渉(わた)るに利(よ)ろし。……君(くん)子(し)もって、飲(いん)食(しよく)歓(かん)楽(らく)す」

 なにかの詩を口ずさむと、先生は硬貨を袋のなかにしまった。

「雨を待って、すぐそこの川を越える。あの牢屋敷が、領境に近くて助かったな」

「陛下がいらっしゃるのに、じかに川を越えるのですか? しかも雨天に」

 スヴェンが顔をしかめる。

「脱出行で、正直に、ご立派な橋を渡る気? 警備の頻度、視界を考えるなら、川だ。雨が降れば霧も出て、視界は悪くなる、発見される確率を低くできる」

「しかし、いつ降るかわからない雨を待つなど」

「降る。絶対に」

 先生が断言した。

「軍師を名乗る人間が、天候くらい読めなくて、どうする? かの伏龍だって、東南の風を起こしたというじゃないか」

 そして、彼は、すぐそばにいたジゼルの肩を叩く。

「まあ、実際は、ジゼルさんがやるのだけどね。彼女は雨乞いの達人だから」

 急に話を振られて、ジゼルは赤い目を丸くした。

 それから、ちら、と僕をうかがい見る。

「……マルセルは、雨が降って欲しいのか?」

「えっと。そうだね。ここから逃げ出して、安全な場所へ逃げられるというなら」

 牢屋敷に詰めていた監視兵は、僕らの生首(あたま)を塩漬けにして、どこかに送るという話をしていた。

 その命令が完遂されなければ、僕が逃げ出したことがばれるだろう。

 僕の首が必要なんだから、追っ手がかかることは明白だ。

「そうか……。おまえがそう言うなら、きっと雨は降るだろう」

 ジゼルはうなずき、先生に向き直って、手を差し出す。

「ギル! 雨乞いとやらのためにも、卵か苺のおそなえを要求する!」

「はいはい。これをどうぞ、お嬢さん」

 先生が、背嚢のなかから、瓶詰めの干菓子を取り出した。

 赤い果実を乾燥させ、砂糖漬けにしたものらしい。

 ……僕が、最後にお菓子を食べたの、何年前だったかな?

「それ、そんなに美味しいの?」

 ジゼルは、もぐもぐ噛んでは、うっとりため息をついている。

「苺と卵と水は、私た……私の大好物なのだ」

 この様子では、ひとつ分けてなんて言えない。

 ジゼルってば、リンねえと同い年くらいなのに、雰囲気が正反対だ。

 リンねえは静かで、強くて、本当はもろくって。

 ジゼルは、えーっと……やや落ち着きがないというか。外見を見る限り、スヴェンやオニグマと同年代かな。でもオニグマは朴訥とした話し方のせいで、かなり子供っぽい気がする。

 それで先生は……。

 横目で、盗み見すると、すぐに感づかれた。それから、にっこりと笑いかけられる。

「そうだ、人間観察は大事だよ。きみはこれから、大人数を動かし、手足のように使わなくてはならないからね」

「は、い」

 うなずいて、目をそらす。

 ……びっくりした。

 このひと、僕が何をしているのか、言い当てた。

「ところで、マルセルくん。水泳はできる?」

「いえ、姉から話に聞いたくらいです」

「温泉が平気なら、水恐怖症でもないね。渡河の際は、俺がきみをかついでいこう」

「亢龍どの。それは、私の役目では、」

「きみとオニグマは、それぞれ先頭と後尾の守りだ。あと周囲への警戒」

 しょんぼりするスヴェンを見て、先生が肩をすくめた。

「どちらも、いずれ正式に護衛武官になる身。交代制になるから、今のうち、他人の手にゆだねることにも慣れなさい。毎日はりついていたら、へとへとになるだろう? 疲労は失敗や不注意を招くぞ」

「………………」

「うん、うまかった!」

 ひとり黙々と食べていたジゼルが、お菓子一瓶をからにして、げっぷをした。

「ジゼルさん、きみ、もうすこし節食というものを心がけて、」

「なに言ってるんだ。食える時に食わないで、どうするんだ」

「その言い訳は、ないだろう。もともと食いだめできる体質なのに」

 食いだめ? それ野の獣が冬ごもりですることだよね。普通の人間は、できないと思うけど。

 ふとオニグマを見下ろす。

「ひょっとして、オニグマも食いだめできる?」

「他のベルゼルクルは、できる。でも、オニグマ、したことない。二之旗本に、住んでた、から」

「食いだめができるって、いいなあ。自分で空腹感を抑えられて。うらやましい」

「二之旗本の、鮭とば、蜂蜜、うまい。おなか、すかなくても、食べたい」

「鮭と蜂蜜か。ベルゼルクルって、想像どおりの一族なんだね」

「そうか?」

 まんまる、黒い目で、オニグマが僕を見上げる。

「牢屋敷に、蜂蜜が好物の熊が主人公の絵本があって。あと鮭をくわえた、木彫りの熊の置物もね。数えたら、かるく千個あって驚いたよ」

「ベルゼルクル、ハラルの戦友。木彫り熊も、きっと、マルセルの命を守る、役目した」

 僕の身近に、熊がたくさんあったことが嬉しかったのか。オニグマは得意げに、ふんふん鼻を鳴らしている。

 たしかに、あの木彫り熊は、僕の命を守ってくれたけど。

 物資が少なかった今年の初冬、薪代わりに全部、燃やしたことは黙っておこう。

 今さらだけど、純粋なオニグマと、木彫り職人さんにもうしわけなくなってきた。

「――ジゼルさん、雨を降らせるのに、どれくらいかかる?」

 先生に質問されて、ジゼルは地面に両手をべったり、くっつけた。目を閉じている。

 そして彼女は間もなく、まぶたを開いて――と、なんだろう? ジゼルの瞳孔が、直線に近い楕円形に変化したような……?

「これは、ひどい。この土地の人間は、かなり霊宮を怒り狂わせたな。そろそろ必要最低限の加護も失うぞ」

 ジゼルが憤慨しながら、まばたきした。その瞳孔は、赤に縁取られた黒い円。

 ……僕の目のほうが、疲れているのかな?

「マルセル、すまん。私の能力だけでは、降雨に一昼夜かかる」

 彼女が、僕にむかって、頭を下げてきた。

「ううん。雨を降らせるってだけで、すごいよ。それに、うらやましい」

「うらやましい? 私のことか?」

「話を聞く限り、ジゼルは、霊宮の加護を受けられるようだから」

「加護って。霊宮は万能の神でも、なんでもないぞ。彼女らは、ただ自国内の天気や水に干渉できるだけで、私ほど、」

「それでも、うらやましい。ぼく、皇帝なのに、特別な能力なんて全然ないから」

 僕の願いも祈りも、霊宮に届かなかった。

 皇帝だといわれても、僕は無力で……無能だ。

「そんなに卑下することは、ない。皇帝家に生まれたというだけで、なかなか大したものだよ」

「先生、でも、」

 彼は、いやいやと片手を振った。

「血筋と環境は、人格、人脈に大きく関わる。なにより学問を修めるには、金と時間が必要になるが、その金と時間を捻出できるか、できないかは生まれの差だな」

 それでも僕は貧乏皇帝で、今まで専門の家庭教師についてもらったこと、全然ない。

「血筋、世襲というのは、ある意味、専門家を生み出すに最良最短の制度だ。だからこそ、位高ければ徳高きを要す、ということだね」

「スヴェンに心を砕いてもらったり、オニグマになついてもらえるのも、その恩恵ということでしょうか?」

「そう。だから、きみは皇帝家という家に生まれたというだけで、大したものだ」

 そういうものなのだろうか……?

「さて。精鋭四人がそろったところで、次の行動に移ろう。ジゼルさんの雨乞いは、俺がつきそう。スヴェン、オニグマは休憩をとりつつ、マルセルくんの護衛続行。いいね?」

「馬は、どうしますか?」

 僕が内心うんうんうなっている間に、男ふたりは、今後の相談をはじめた。

 そして女性ふたりは――「ちょっと、くっつきすぎやしないか、オニグマ」

 ジゼルが、なぜか僕ににじりよってきた。

 オニグマは、彼女を一瞥したあと、ぷいと顔をそむける。

 その態度に、ジゼルが激高した。

「オニグマ、おまえ! なれなれしいぞ」

「ハラルの息子と、ベルゼルクル。二千年の、つきあい。だから、遠慮なし」

「マルセルと出会ったのは、私が先だ! 水浴びで、ばったり全裸も私が先だ!」

「そんなの。関係ない。ベルゼルクルが先」

 どういうわけか、僕の膝枕をめぐって、口論がはじまってしまった。

 なんだろう、この状況……? そして喧嘩をとめたのは、やはり先生だった。

 見た目にそぐわない怪力で、ジゼルの襟首をつかんで、引きあげる。

「先生、さっき、ジゼルさんに、なんて、言いましたっけ? 雨乞いの準備ぐらい、したら、どうですかねえ?」

「っ……しかし、この熊女が!」

「実年齢と、真名。ばらされたくなかったら、さっさと雨乞いしなさい、とっとと、やれ!」

 ぽいっ、と先生は、ジゼルをはやりの向こうに放り投げた。

「まな……?」

 ということは、ジゼルの本名は別だということだ。

 スヴェンが物言いたげな、しかめつらをしている。

「彼女のは、たいそうな理由じゃない。養母からもらった名前がかわいくない、気にくわないというだけだよ」

 僕たちの顔を見て、先生が先回りに答えた。

「そんな理由ですか?」

「そんな理由。まあ、身元は保証する。あれで医者としては優秀だ。彼女を手にした英雄が、世界を制するといっても、いいほどにはね」

「世界とは、また大きく出たものだ。まるで創世神話に出てくる玄女のようですね」

 スヴェンは、疑惑の目。

「玄女って、上帝テレシアスの奥さんのケセドのことだよね。共通歴の年号の」

「はい。上帝と玄女は、国や民族に関係ないほうの神話ですね」

 僕が、ねえやから聞いた神話だと――

『すべての島国を、自国に完全接合させて、一つ国にすると、玄女という黒髪の美女が迎えに来て、その王将を不老不死の男に変えて、夫とし、ともに天に昇る』

 およそ、そんな概要だった。

 もともとテレシアスは、普通の人間だったけど、ケセドを奥さんにすることで、不老不死の男になったらしい。

 不老不死のはずなのに、なぜかテレシアスが崩御して、統一されたはずの一つ国は、ばらばらの島国(パズル)になって、また海に投げ出された。まるで合わせ絵板(ジグソウパズル)のように。

 この奇妙な神話を信じて、戦争を起こしては国土を拡大し続け、玄女を捜す王将も過去には、いたそうだ。

 ヨルムンガンドは現在、世界一の国土面積……僕のご先祖様も、案外そういう俗っぽいことを考えていたのかも。

「もしかしたら、実際そうかもね」

 先生が笑って、スヴェンに、なにかの相づちを打っている。

「二之旗本生まれは、みな黒髪です。玄女のことも考えて、二之旗本の姫のなかから、陛下の皇妃を選ぶのも、よいかも知れません」

「さて、どうだろうね」

 ではジゼルさんを見張ってくる、と。先生は林の向こうへ姿を消した。

「……雨乞いって、どんなことをするのだろうね?」

「暗に、のぞき見するなと釘をさされました。彼らのことは、ほうっておきましょう」

「え? そうだった?」

「――これは二之旗本に伝わる神話ですが。昔、ある乙女が裸踊りをして、岩屋に隠れた太陽神を引きずりだしたとか。雨乞いも、似たようなことを行うのかも知れません」

 裸踊りって……。それは、たしかに他人に見られたくないよね。

 なるほどとうなずいて、下を向いたら、オニグマの寝顔があった。

 しかも、いろいろ丸出し状態の。

「ねえ、スヴェン。オニグマの格好は、どうにかならないの? 女性を、半裸でうろうろさせるのは大問題だよ」

「陛下。獣人は、我々と恥の文化がちがいますから」

「そりゃあ、体毛で、いくらか隠れているけど、その……おっぱいとか、むき出しじゃないか」

「いくら飼い犬がかわいくても、犬に服を着せる人間が、いましょうか?」

 ねえやたちの最期、死に様を考えると、女性が半裸でいることが、ひどく恐ろしいことのように思える。

 僕のこわばった顔を見て、スヴェンは背嚢から、大きな布と裁縫箱を出した。

「前掛けを作ります。それで、よろしいでしょうか?」

「うん。ありがとう。ごめんね」

「いえ。口答えしましたこと、お赦しいただけますでしょうか」

「僕は物知らずだから、言うべきことは、言って欲しい。落ち着いたら、先生から、きちんと一般常識を学ぶから。ね?」

「……はい」

 正座して、ちくちく布を縫うスヴェンの横顔は、なんだか寂しげだった。

「今さらですが、この十二年が悔やまれます。終の盾でなく、外部から護衛や帝師を呼ぶなどと」

 手を休めず、針を進めるスヴェンは、ばあやのベラによく似ていた。

「二生の盾のこともありましたので、私は、最近まで、前線にほとんど出されませんでした。何もできなかった自分を歯がゆく思います」

 ああ……リンねえが、彼を好きだったことは、黙っておこう。

 あんな死に方を、初恋のひとに見られるなんて、リンねえにはつらいだろう。スヴェンだって、きっと気に病む。

「でも、僕を助けに来てくれた。ありがとう。あと、ごめん。生き返ったとき、やつあたりしちゃって。僕が今、生きてるのって、スヴェンが来てくれたからだよ」

「あと一日早ければ、と私も思っておりました。もうしわけございません、陛下」

 針を止めた彼は、両手とひたいを地面につけ、頭を下げる。

「それは、うん。もう気にしなくていいよ。それより、オニグマの前掛け。ね?」

「……はい」

 鼻の頭を赤くしながら、スヴェンは針仕事を再開した。

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