2 - トラ

 急に自分のダッフルコートが子供っぽく思えてきたのはリョータが、スーツにネクタイにしゅっとしたトレンチ着てていつもは、もっとラフっていうかビジネスカジュアルって感じだけど今日は外注先に行く用事があるからって言ったから朝、駅までいっしょかと思ったけど俺、下りの列車ちょっとギリだからごめん先急ぐねって俺と横田を残してさっさと行っちゃった。朝六時台の、歩いてる人も車もまだまばらな、住宅街を白い息吐きながら歩くなんて、久しぶりで変な感じがした。

 あの人さあ高卒で就職ってヤバくない工場とか、建設現場とかで働いてるのって横田が聞くからうーんと、コウミツって会社らしいんだけどって言ったらえーっ大手じゃんすげえコンシューマー向け製品じゃないから普通の人あんま知らないけど計測器で大手だよって横田が急にコンシューマーとか言い出して腹が立ってきてめちゃくちゃ、リョータって頭いいんだよって言ったらなんで、大学行かなかったんだろって横田が言うから二年前のこと思い出してた。もうこれ以上学校で勉強したくないし、社会でやってみたいって言ったけど母さんも、おばあちゃんもおじさんおばさんも、父さんも、自分が養子だから遠慮したんだって今でも思ってて、俺はでもよくわからない、リョータに直接聞いたこともないし。俺が進学してリョータが就職してから前みたいにあんまり会ってないし。

 就職するって言い始めたとき大人ら全員すごく怒ってるみたいに大学に絶対行けって言ったけどリョータは、困ったみたいな顔して遠慮してるとかほんとにそんなんじゃないんだけどなって全然折れずにほんとに就職した。大人らにしたら罪悪感の裏がえしで怒ってる。母さんにしてみたらリョータは、実の息子なのに、そうじゃない俺だけ進学させて悪い母親って思ってるし、父さんは本当ならリョータを引き取って息子になってたかもしれない子供なわけで、自分の息子だけえこひいきしたみたいな形になってるし、おじさんおばさんは自分達がわがまま言って引き取った子供なのに大学に行かせられなかったってメンツが立たないし、みんなリョータに復讐されたって感じしてた。そういう空気もあって俺もなんとなくリョータのこと敬遠してたみたいなとこもあるかも。やっぱ頭よかったリョータが就職して、頭わるい俺が進学したって変な感じするし。

 あのあとリョータから連絡きてめし行ってリョータが、会社のこととかいろいろ話してくれてそれ聞いてたらほんとに仕事が充実してる感じだから別に、リョータはほんとに進学したくなかっただけかもしれないと思ってリョータは、もう働いてるのに自分がこんななんとなく大学通ってレポートとかサークルが忙しいみたいなこと言ってるのなんなんだろみたいな気がした。こっちから誘ったんだしそれに、今月はボーナス入ったしって言ってリョータがめし代を払った。

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