5.仲間Ⅲ

 町長の家を後にして、アニータ、ドゥーガルとは別れることになる。アニータは同行できる仲間を募る。ドゥーガルはセネガルさんと協力して町の復興や警護に当たる。そして、私とアルは魔法の習得を試みるために、町のはずれにやって来た。





 小さい丘のようになっているが平原とも言える。何本か確認できる木々には見たこともない青い鳥が留まっていた。





「ここなら魔法が暴発してもまずは問題ないはずだよ」





 アルが自信満々に話す。復興も行っている町中で魔法を無闇に使うわけにもいかないだろう。場所を変えたのは当然だと、私もそこまでは納得が出来る。


 ただ、理解するために確認しておきたいことがある。





「それは分かるけど、町の方は大丈夫なの? 聖騎士が私を狙っているの状況は分かってるつもりだけど、逆らったことには違いないし、あの町は危ないんじゃないの?」


「……そうだね。正直全く問題がないわけじゃないが対策はある。今以上に重い税を課されても大丈夫なくらい蓄えはある。それに、もし力を行使するというのなら、それ相応に反撃をするさ」





対策もしてる。いざという時のための想定もあった。それでも、アルの表情は決して明るくない。自分が飛び出したから、その対策が早期に必要になったことは否めないと自分を責めているのだと思った。





「あいつが逆らったりするから」





 町の人が、アルを責める言葉を吐いていたのを思い出す。でも、アルが手を出さなければ確実に犠牲者が出ていたのは間違いない。私は……何て言うべきだろう。いや、あいつなら何て言ったんだろう。





「だから、アヤメが心配しなくても大丈夫だよ」


「っ」





アルの言葉で現実に引き戻される。ブンブンと首を振り意識をはっきりさせた。





「そう」





 無理矢理納得することにして私は話を終わらせた。





「それより、魔法のことを教えるよ」


「……うん」





 やはり魔法という半信半疑の代物を習うことに違和感を覚えてしまうが仕方ない。





「まず魔法にはいろんな種類があるんだけど、どんな魔法でも魔力が必要になる。魔力がないと魔法は使えなくなるんだ」


「私にもその魔力があるってこと?」


「そうだよ。どんな魔法が使えるかは持ちうる魔力によって変わってくる。魔力の質も量も人それぞれだから、実際に使う魔法も人それぞれなんだ」


「つまり、私も自分だけの魔法は使えるってこと?」


「その可能性があるってことだ。もう少し詳しく説明しよう」





 アルが細かく魔法の概要を述べる。この世界における魔法にはランクが存在する。主に低級、中級、上級といった具合だ。低級であれば魔力にかかわらず誰でも使えることが多い。逆に上級になればなるほど、自分の得意な魔法しか扱えなくなる。


 アニータの「棍双龍ドラゴンダイブ」やドゥーガルの「鉄人形クレイマン」も上級魔法として固有に近い魔法だそうだ。





「俺の重力を操る魔法「重力支配グラビティ」も同じようなもんだよ。使える者は限られている」





 アルの魔法が強いのは何となく分かっていた。今までの戦いでもそうだったし、よく格闘ゲームとかでも、重力を操るキャラは強キャラだと相場が決まっていた。





「魔法で大事なのは理解することと想像力だ。自分の魔法を理解し、それをどこまでイメージして具現化できるかだ。アヤメには自分の魔力を理解してもらう必要がある」


「具体的には?」


「魔力を視認できるようにする。心を落ち着かせて自分の手を注意深く見るんだ。手は魔法を操りやすい部位だから、一番視認しやすい」


「分かった」





 言われたまま、自分なりに実践してみる。これで何か起こるのか半信半疑だったが、妙な感覚だった。自分の二の腕を何かが纏わりついているように感じる。手首、肘、二の腕も視界に留めると、うっすらとぼやけた光が見えた。





「これが……?」


「見えたみたいだね」





 認識できると、徐々にはっきりとした光となる。それでもぼんやりしたものに変わりはないが、十分超常現象だと思う。





「何か意外に簡単なんだけど」


「本来なら魔力を自覚させるために時間をかけるものだけど、アヤメは異世界から来たからかな。この世界に来た反動で、蓋がされていた魔力が無理矢理こじ開けられてる。だからあっさりしたものだよ」


「ふぅん、そうなんだ」





 もっと漫画にある修行みたいなことがあるのかと力んでいた分、若干拍子抜けだ。けど、アルからすればまだまだ初期段階に過ぎないらしい。





「今は魔力を認識できただけだ。実戦には程遠い。ただそれでも、魔力は戦闘における基本事項だ。魔力がないと魔法は使えない。逆に魔力があれば最低限身体能力をブーストさせる程度は可能だよ」


「つまり、アルやエルムの動きが凄いのは……」


「もともとの身体能力に加えて、魔力を使用しているからだよ」





 つまり私にも同じようなことができるかもしれない。実感できると少しだけ嬉しくなる。どうせ魔法が使えるなら、もちろん強いほうがいい。





「アヤメ、俺を見てくれ」


「うん?」





 呼ばれたためにアルに視線を移す。すると、魔力が認識できるようになったためか、アルの身体が朱い光に、いや朱い魔力に包まれていることが分かる。私と違い、力強い光だった。





「それがアルの魔力……」


「そう。俺の魔力も見えるようになっているなら話は早い。基本の戦闘において、魔力の流れを掴むことはとても大切だ。予備動作って言葉は知ってる?」


「ある動きを行う前に行う事前の動き」


「そう。例えば物を遠くに投げる時には、後ろに一度引く必要がある。これが予備動作だ。魔力も同じで、魔力の流れを読むことで相手の動きを把握することもできる。コツはいるけどね」


「まずはそれを読めるようになれってこと?」


「察しが良くて助かるよ。それじゃあ、俺と実戦をしようか」

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