5.仲間Ⅱ
「……それはつまり、私も戦うってこと?」
「あぁ。それしかない」
話が違う。私は『アリス』として戦う気はない。言わずとも私の表情、また視線でアルに伝わったようだ。
「アヤメが考えていることは分かる。だが、さっきの聖騎士。デズモンドの狙いは君だ。どちらにせよ、身を護る力は身に付けないといけない」
「私が……さっきのと戦うっての? 冗談でしょ?」
直接やり合ったわけじゃないけど、アルが勝てないという相手だ。私でどうにかなると思えない。そして何より、デズモンドの異常性は既にはっきりと感じることが出来た。
「アリスの君なら勝てる」
「……っ」
だと言うのに、アルは確信したように淀みなく口にした。私がどう反論するか迷う間に、アルは次の段取りへと話を進めてしまう。
「仮にだ。勝てなくてもいい。俺もいるし。仲間もいる。いざって時に逃げることくらいは出来ないと魔術法帝に会うまでにやられてしまう。それは分かってくれ」
「……それは分かったけど」
腑に落ちない気持ちは否めなかった。どうもうまく流されている気がしないでもない。ただアルの言うことは分かるし正論だ。納得できない感情はあるが、自分の身を護ることを考えると、やはり魔法とやらは使えたほうがいいとは思う。選択の余地はなく、そうせざるを得ない状況だった。
「それなら早めに動いたほうがいいな。アヤメちゃんはアルフレッドが見るとして、俺らは警備班、復興班で動くとするか」
今後の動向をドゥーガルが提案する。聖騎士と呼ばれるデズモンドのことを考えるとグズグズもしていられないだろう。アルも同意して話を進めた。
「あぁ。具体的な編成はセネガルさんに聞いてくれればいいが、同行班の編成も頼む」
「同行班?」
それまで自主的に動く様子を見せたドゥーガルだが、聞き慣れない単語だったのかピタッと動きを止める。顔を上げてアルに詳細を求めていた。
「デズモンドを逃したとなると、魔女姫にも所在は伝わることになる。いつまでも此処にはいられない。俺とアヤメは早々にこの街を出る。けど二人だけというのは心許ない。ドゥーガルとアニータに加えて同行してくれる者の選抜も頼みたい」
「……俺は既に入ってるんだな?」
アルの意図を理解すると、ドゥーガルは呆れたように苦笑う。アルは即座に返した。
「嫌なのか?」
「ったく。勝手に決めるなってだけだよ。ま、そろそろこの街にも飽きてきたとこだからな。しゃーねぇ、行ってやるよ。だがアニータはどう言うか分かんねぇけどな」
「もちろん行くよ」
タイミング良くアニータが現れる。ちょうど手当が終わったのか。奥の部屋から出てきたところだった。傷を負った肩に包帯のようなものでも巻いているのか。襟あたりから白いものが見えていた。それを確認したからかは分からない。ドゥーガルが改めて意思の確認を行う。
「いいのか? 聖騎士に狙われることになるんだぞ」
「それは残ってても一緒でしょ」
アニータは強気な言葉で返す。手当ての跡を確認したアルも声をかけた。
「傷は大丈夫か?」
「平気。それより行くよ私も。聖騎士にリベンジもしたいしね」
「そう言ってくれて助かる」
「何言ってんの、仲間でしょ。他の同行できる仲間なら私が見つけとくから、街のことはドゥーガルに任せたわ」
「おう。任せろ」
善は急げという奴だろうか。皆が今後にやるべきことを即座に確認する。
「ってことでアヤメちゃん、これからもよろしくね。一緒にがんばろ」
アニータはまだ知らない。私が『アリス』のつもりがないことを。魔女姫と戦う気なんかないってことを。差し出された褐色の右手と、疑うことを知らない無垢な笑顔が向けられていた。
自分でも分からない。否定する気になれなかった。
「うん」
ただ一言、つい私は右手で応えてしまう。いや、何も一緒に魔女姫を斃そうと言われたわけじゃない。アニータやアルは、魔女姫を斃すこと。私は元の世界に戻ること。お互いの目的のために、一緒に頑張ろう。そう言われたから応えただけに過ぎない。
だから何もおかしくはないはずだ。
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