4:凶行Ⅴ
敵は牙を剥く。得意気な顔を見せ付けるアニータに吠えていた。
「ハッタリだ」
「本当にそう思う? なら、試してみれば?」
そう言ってアニータは構える。まるで威嚇するように棍棒の赤い先端部分を向けたのだ。同時に、白い龍は姿を消す。スゥと、光の粒子となって消滅した。代わりに、紅い龍がより煌々と燃え上がる。牙を向け、爛々とした眼まなこを光らせた。
「く、くそっ……」
男は駆ける。退くことを知らず、刃を向けた。先程と同じように剣と棍棒の激しい打ち合いが繰り広げられる。動きに勢いを見せるのはやりアニータのほうだ。そのまま相手を圧倒する。が、その折またも妙な感覚に囚われる。桃色の花弁が視界で舞ったかと思うと、突如アニータの動きが静止した。
「これで……」
「だから、それはもうきかないって」
動きを止めたのは一瞬、炎を纏ったアニータが素早く攻撃態勢に持ち込む。上から振り下ろされる剣戟を躱し、紅く燃える一撃を敵に叩き込む。その様はまるで、炎の龍が牙を向けたように映った。
「だあぁ!」
炎に包まれながら敵が吹き飛ぶ。凄まじい一撃を見舞われた敵は、そのあと立ち上がることはなかった。ドゥーガル同様、一撃で決めてしまったアニータに私は驚きを隠せない。これが魔法か。
「いえーい、勝ったよ」
軽快ににVサインを見せるアニータ。私はどう返したものか戸惑ってしまう。
「あ、それより、あいつの魔法って何だったの?」
「ああ。きっとこの花びら。この花びらが刃の代わりをして、動きを封じる役目もしていたんだ」
アニータは事も無げに言いのける。私と同じように、親指と人差し指で挟む桃色の花弁を視線を落とす。小さな刃になる花びらを集約して剣と化して、身体の動きも一時的に止められてしまうということか。
「だから私は、炎でこれを焼いて封じられた動きも問題なかった」
アニータに説明をされて私もようやく納得することが出来た
そこまで見抜いていたことに驚いてしまう。魔法そのものを深く理解していない私だけど、そんな複雑な使い方も出来るなんて。漫画やアニメに多いファンタジー要素ではあるけど、いざそれを目にして、その奥深さに舌を巻いた。
そのタイミングで、既に敵を倒していたドゥーガルが小言を吐いた。
「手間取りすぎだ」
「うっさいなぁ。勝ったんだからいいでしょ」
対してアニータが不満そうに返す。その折、手にしていた武器は一瞬にして消え失せる。何処に行ったのか不思議だが、よくある出し入れが自由自在なんだろうと予がついた。
「それより、あとはアル……」
勝利の余韻もそこそこに、アニータは顔を向けた。敵は三人いたのだ。残りあと一人。アルが相手をしたいたはずだ。私も習ってアルの戦いに目を向ける。だが……。
「が……く、くそっ……」
勝負は既に決していた。ドシャッと黒髪の男は前のめりに崩れる。その真ん前で、アルは無傷で直立していた。疲弊もなく、汗をかいている様子もなく、ただただ敵を圧倒していた。その姿、いや、敵が倒れるのを見つめるその視線と表情に私は少しだけ背筋が凍った。
私はエルムの言葉を思い出す。
「けど、あんたどうやら只者じゃないっぽいね」
「多分アルは手を抜いてたよ」
兎どころか、とんだ狐なのではないかと感じてしまった。
「さすがだな。うちの大将は」
「ホント。仲間で良かったと思うね」
ドゥーガルとアニータもそれぞれ感嘆する反応を示す。私から見てもそうだが、同じ魔法を使う人間から見ても、やはり底知れぬ強さであるらしい。
「な、何を倒れているのだ馬鹿者どもがっ!」
大声を上げるのはブルトスだ。部下三人に指令を出し、凶行に及んだ道化である。偉そうにしていたこともあり、もしかしたらブルトスも強力な魔法を使うのかもしれないと考えを巡らす。けど驚くべくことに、ブルトスは倒れている部下の元に近付くと、何とか起き上がらせようと蹴りを入れ始めた。
「立て! ぼ、僕に恥をかかすのか。いったいお前らにどれだけ払ってやっていると思っている。こんな子供に負けるなど許さん! 立てと言っているだろ!」
「止めろっ」
見ていて気分の良いものではない。斬り掛かってきた敵だったとはいえ、目の前に起こる凶行を見過ごせるものではなかった。いち早く、アルはブルトスに一声をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます