3:荒んだ町Ⅹ
皆がそれぞれ行動を移す中、慌ててわたしもアルを捕まえる。さすがにこれ以上はアリスの振りをする範疇を超えていると思った。
「ちょっとアル。こんなことまで聞いてないんだけど」
「まさかこのタイミングでブルトスが現れるとは思わなかったんだ。それに、アヤメは何もしなくていい。見ているだけで構わない」
アルは真剣な面持ちで応えた。もしかしたら計られたのかとも思ったが、そうではないみたいだ。そのままアルはアニータを呼んだ。
「アニータ。アヤメはまだ魔法が使えない。危険がないように見てやってくれ」
「はいはーい。心配性なアルさんの頼みならちゃんと引き受けますよ。そっちも無茶はしないように。ドゥーガル。あんたがちゃんと見張ってなさいよ」
「おいおい……。俺にアルフレッドを抑えられると思うか?」
「思わないけど一応ね」
互いの心配もそこそこに、皆それぞれの持ち場に向かうようだ。アルとドゥーガルが大広間の奥に消える。
「さ、アヤメちゃん。私らも行くよ」
「あ、うん」
アニータに連れられて、私達もアルと同じ様に部屋の奥へと向かう。大広間の入り口とは逆方向であるが、大きな垂れ幕の向こうはもう一つ出入り口があるようである。
こちらは、梯子のように直通じやなかった。急な登り坂と階段で地上へ向かうようだ。アニータに遅れないよう、早足で駆け上がる。
「魔法は使えなくとも、身体能力はなかなか高いみたいね」
「え?」
アニータは走りながら振り向いて、そんなことを言った。明かりがあるとはいえ、この薄暗い通路を熟知している様子である。
「少し速く走ってるつもりなんだけど、余裕そうだから、そう思ったのよ」
「なるほど」
思った通りの言葉を吐く。アリスとして試されたということだろう。別にこれぐらいならと言った速度である。なので、特に試されたからどうこう思うつもりはない。ただ、もっと余裕そうなアニータに言われても。とは思ってしまった。
そのまま少しだけスピードを上げて地上を目指す。最後にあった梯子を登れば、何処かの倉庫に出てきた。
木箱がたくさんあり、何かを溜め込んでいるのだろうが、ちょうど隠れ蓑にもなっている。念のためアニータが確認したところ、既に到着していたアルとドゥーガルが問題ないと、上から声を掛けてきた。
「ケイムによると、ブルトスたちは大通りにいるようだ。俺たちは屋根から行く。アニータとアヤメは裏から行ってくれ」
「俺、高所恐怖症なんだけど」
「了解。急ぐよ」
ドゥーガルの泣き言は無視され、アルたちは屋根裏に向かって行く。私はアニータとともに、倉庫の裏口から出て行く。誰もいないことを再び確認してから、アニータの合図のもと、一目散に外へと飛び出す。何処に出てきたのか。まだ町の構造を把握してないけど、ちょうど大通りから少し逸れたところに出てきたようだ。少し進むとすぐに大通りに面していた。
「ここで様子を見よう」
「分かった」
大通りにまでは出ずに、裏道に放置されている積もり積もった廃棄物に紛れる形になる。少し臭うが我慢できる範囲内だ。アニータを見習って私も身を隠しつつ様子を窺った。
「相変わらずしけた町だなぁ。嫌になるよ、全く」
大通りの真ん中を牛耳るのはぶくぶくに太った男である。ちょうど屋根のない馬車から降りようとしているところだった。その馬車に向かって町人たちと思われる人たちがひざまついているという異様な光景があった。
太った男は、ちょろりと生えた黒い口髭をいじりながら、気怠そうにお付きの人に愚痴っていた。派手な衣装。濃い青のラインが走った水色の羽織りだ。また水玉模様が万遍なく施されるというある意味頭がおかしい格好をしていた。ただ本人は気に入っているのか、帽子も含めて全身統一させたコーディネイトである。
「それで、何しに来たんだっけかな」
「はっ、ブルトス様。この近辺に異世界から召喚されたアリス。またその手引きをしたと思われる兎頭の男が紛れているとの情報が入っているので、その確認のためです」
憲兵とは違った制服に身を包む部下に、ブルトスと思われる男が尋ねる。部下の一人は敬礼をしながらはきはきと述べた。
「あぁ、そうだったそうだった。ということなんだが、町長さん、知らんかね?」
部下とのやり取りの間に馬車から降り切ったブルトスが、そのまま町長を指名した。一瞬何処にいるのかと探ったけど、ブルトスの視線は下へと向いていた。何のことはなく、ひざまづいたなかにいる老人がそうだったようで、態勢を維持したまま町長が答える。
「いえ、私どもは知りません。そのようなものがいるなど」
「隠し立てはおすすめしないがね」
「まさか。滅相もない。ブルトス様に隠し立てをするはずがありませぬ」
「けどリディア様の命だからなぁ。手掛かりも何もありませんでした。という報告は出来んのだがね」
「は、はぁ……」
「探すのも面倒だし。誰か殺すか」
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