1:この世界は面白くないⅡ

的確に笑った本人を見つけ、胸倉を掴み上げる。本格的な騒動となり悲鳴を上げる女性もいた。


「ち、違っ……」


 標的にされたのは、メガネをかけた太った中年男性だ。本人は否定しているが、興味本位のためか前に出ていたのは運が悪い。私でも間違いないと分かった。


「ちょっと来いよ」

「た、助け……」

「ち、ちょっ…」


 流石に周りの人たちもやばいと思ったらしく、連行されかけた中年男性を止めに入る人が出てきた。


「灯。やめな」

「でも恭子さん」

「いいから。余計ややこしくなるだろ」

「はい……」


 恭子という金髪煙草に諭され、しぶしぶ茶髪は従う。それでも収まらなかったのか。離すと同時に蹴っ飛ばしていた。


「ひ、ひぃ」

「ハ、情けない」

「灯。もうやめときな。悪いな神條。今日はケチついちまったからな。次覚えとけよ」


金髪は私を指差してはっきりと名指しした。


「じゃあな」

「次は潰すからな」


 事の展開を大人しく見守っていたのが悪かったようだ。そんな勝手なことを言って、赤い蠍とかいう集団は去っていってしまう。いったい何なんだ。とんでもない非行者と、馴染みがあるかのように見せられた周りは、私を見る目も気分が悪いものだ。居心地も悪くなる。さっさと離れることにしよう。


 学校をサボることは別に珍しくない。だからといって、特にやることがあるわけはないが、暇潰しくらいは見付けていた。まぁ殆ど惰性に近いけど。

 都会には程遠い街だから、遊び場なんてもんも限られてくる。カラオケ、ボーリング、ゲーセン、バッティングセンター、ビリヤードとか色々。そういったもんが一緒くたにされてるこの辺に来れば、時間を潰すには持ってこいだ。まぁ逆に此処しかろくなもんがない街とも言える。

 それに私の場合、選択肢はさらに絞られる。まずカラオケは無理。一人で歌うってのが自分で引くし、誰かの前で歌うのはさらに無理。つーか、一緒に行くような奴はいない。ボーリングはまぁ練習してるように見えるから、まだ抵抗はない。受付の時の店員の目がムカつくけど。バッティングセンターはその点一人でいる人も他にいるし、比較的マシに思える。ホームランを打ったらスカッと出来るのも良い。けどまぁ、今日は体を動かす気分じゃないし、ゲーセンにでも行くとしよう。


 入るゲーセンは殆ど変らない。この辺だと一番大きいとこだ。三階立てで地下もある。私がやるのは大体音ゲーか、格闘か、麻雀だ。マイナーなジャンルではない分、一通り揃っていた。

 

 入店してすぐ、何の集団か分からないが、若い女が何人かでプリクラの前に集まっているのが目に入る。たかが写真を撮るのに、何がそんなに楽しいのか全然分からないけど。

 昼だけあって人は少ないが、私と変わらないくらいの年齢のもちらほら目に入る。皆同じようなものだ。


 とりあえず今日は気分的に格ゲーでも久々にやろうかと思う。そろそろ新キャラも導入されてた気がするし。


 地下に降りたら台に数人固まっているのがいた。しかもちょうど、私がやりたかったところに。

 正直邪魔でしかない。プレイしないならちゃんと空けろ。仲間内で盛り上がってるから全く気付いてないときている。最悪だ。マナーが悪すぎる。

 わざわざ声を掛けないといけなさそうで、面倒なことこの上ない。ちょっと時間を於いても事態は一向に変わらない。仕方ないと観念した。


「空けてもらっていいですか」

「ん? ああ……」


 風貌からして面倒臭い連中だと思ったけど、意外にも席を占有していた坊主頭にピアスの男はどいてくれた。まぁ、ごねる理由もないはずだ。


 コインを投じてスタート。久々だから腕も落ちてるはずだ。持ちキャラを選択しようかと思うけど、私の知らない内に新キャラが確かに導入されていた。これは新キャラを使うしかない。


 今度の新キャラは包帯男か。ほぼ全身に包帯を巻いているくせに、妙にかっこ良いキャラだ。鋭い眼光で射抜くように睨みをきかせている。フードのような服に身を包み、攻撃技には雷を使うらしい。凄い設定だと思う。

 もともとこの格闘ゲーム自体、魔界から妖怪みたいなのがうじゃうじゃやってくるから、人間や同じ魔界の奴が戦うストーリーになってる。このキャラだけが別におかしいわけじゃなく、新キャラも変わらず厨二病全開だった。面白いからいいけど。


 いじってみるつもりで新キャラを選択する。強そうなビジュアルだが実際使ってみたら弱いなんてことはよくある。さてこのキャラはどんなもんだろう。相手はコンピューターでよく知っているキャラ。相手の強さも普通にしたからよっぽどでなければ負けることはない。いざジャンプして攻めようとした時、画面が切り替わる。ニューチャレンジャーの文字が現れた。タイミングが悪すぎる。


「へへ……」


 別に対人戦は構わない。タイミングが悪いこともある。けど今回は違うようだ。最初に固まっていた集団に、嘲笑う空気が漂っていて大体把握出来た。これは、完璧にカモにされてる。

 私の隣に集団の内の二人。向こう側(相手側)に残りの二人が位置付く。出来たら返り討ちにしてやりたいけど、まだ何も試してないキャラで勝てるわけがない。しかも相手は強キャラの黒炎使いか。はっきり言ってこれは無理。一応奮闘してみるものの、やっぱりあっさり負けてしまった。


「弱っ」

「雑魚すぎじゃねぇか」

「負けたんだからさっさとどきな」


 負けた私は追い払われてしまう。が、このまま引き下がるほど私は人間が出来ていない。

 決めた。こいつら殺そう。

 両替機でコインを調達して、私はさっきの席まで戻る。仲間内で対戦をしていたようだが、対戦が終わったのを見計らって私は近付いた。

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