1:この世界は面白くないⅢ

「終わったんならどいて」

「あ? お前何割り込んでんだ」

「別にいいじゃん。こいつ超弱いし」

「待ってろ。すぐに終わらすわ」


 内心、こいつらよく言ったとある意味で褒める。ただ勝つだけじゃ生温い。とことんまでボッコボコにしてやるしかない。手加減なしで臨むべく、私は自分の持ちキャラである双銃使いを選択した。


「うそ、だろ……」

「何かの間違いじゃねえ?」


 少しスッキリした。久々にやるとはいえ、こいつらには負けないと感じた通りだった。両替して待ってる間にこいつらの対戦を見てたが、動きが下手くそ過ぎる。強いキャラを使って、ただ強い技を出してるだけだ。コンボもなっちゃいないし、防御も脆い。まさかノーダメージで勝つとは思わなかったが、こんなもんだろう。


「お前手抜いたのかよ」

「え、いや……」

「俺がやってやるよ」


 別の奴がコインを投入したようだ。またニューチャレンジャーの文字が画面に浮かぶ。そして、今度の相手のキャラは風を操る女の子だった。


「……おいおい」


 またノーダメージで勝つ。正直相手が中堅キャラになった分、楽だったと思う。その後も、次の奴が髑髏の仮面を被ったキャラを選択する。最後の奴も雪女で挑んで来たが大差はなかった。


「くそっ!?」


 いつの間にか画面には十九連勝の文字が表示されている。一通りボッコボコにしてやったのはいいが、最初に黒炎使いのキャラを使ってた奴が凄い執念を見せていた。ここまで来れば無駄な努力とも言える。接戦してるならまだいいが、その域にも達していないとなると、正直こっちとしても、さすがに飽きてきた。

 ここまでやれば実力の差は明確で、固執する一人以外も諦めている節が窺えた。


「ちぃっ……」

「おい、もうやめとけよ」

「うるせえ」


 さすがにこれ以上付き合う義理もない。再び挑んで来たので、私は持ちキャラとは違う槍使いの女キャラを選択した。


「……っ」


 選んだ槍使いも、ある程度使い慣れているキャラには違いなく、仮に負けてしまってもいいかくらいに考える。そんな目論見だったが、実際にはなかなか良い勝負を展開した後、私が勝ち越す。これならまぁ一方的になるよりは良いだろう。まだ続けるというなら、持ちキャラではなく、槍使いを選んだ方が良さそうだ。そう思った矢先、向かい側で大きな音が響く。明らかに何かを叩いた音だ。


「ふざけやがって!? 人のこと舐めんのも大概にしやがれ!?」


 騒がしいゲーセンでも聞こえるくらいの大声で、しつこかった相手がキレていた。モヒカン風の男がズカズカと回り込んで私の横に立つ。薄暗い店内でも、怒りに満ちて見下ろすように睨んでいるのが分かってしまった。

 内心、舌打ちする。気分を良くするために此処に来たのに。余計気分を害する結果になってしまった。


「お、おい……」

「何だ、ビビったのか。黙ってねえで何とか言ったらどうだ?」


 面倒なことに巻き込まれるのが嫌なだけだ。もうコンピュータとの次の戦いが始まったし。まぁ、そんな言い分が通じる相手とは思わないけど。

 だからと言ってどう対応したらいいのか分からない。キャラを替えただけで舐めプレイだと怒る相手に、下手に出ていいものかと思うし、強気に出ても引き下がるとは思えない。


「こっち見やがれ!」

「別に舐めてなんかなかったですよ」

「ふざけんな!?」


 考えた末の返答だったが、火に油を注いでしまったらしい。力任せに私が座っていた椅子に蹴りを入れてきたので、不意を突かれた私は椅子ごと転倒してしまう。


「……った」

「何か言ったか?」


 私が転んだことで、このクソ野郎は少し調子づいた様子で嘲笑った。上等だと胸に秘めて私はまずは立ち上がる。


「痛いって言ったんだよ!」


 ゲーム台にあった灰皿を掴み取り、男の顔に向かって投げつける。大して距離がなかったから、避ける暇もなく、顔にカーンッとぶち当たる。怯みはしても、それが痛手にはならない。よりヒートアップする要因となっていた。


「てめぇ!?」


 公共の場であることも忘れて、男は乱暴に握った拳を伸ばしてきた。ゲームも弱いけど、喧嘩も知らないのか。


 いなすように軽く弾いて、私は懐に潜り込む。

伸ばしきった右腕の袖と襟元を掴んで投げ飛ばす。投げた瞬間、周りを確認してなかったことを思い出すが、今更制御は効かない。


「ぐぁっ!?」


 まともに受け身も取れず、男は強く背中を打ち付けたようだ。そのまま私は男の腕を両手で捕まえて、巧妙に捻り上げる。関節にだけ痛みを与えるように、あらぬ方向へと腕を曲げた。


「いででででっ!? ま、待て、やめろ!?」

「この野郎!」


 さすがに折るつもりはなかったが、大袈裟に痛がる様子に、仲間もやばいと思ったらしい。技を極める私に、他の仲間も参戦し始めた。


 さすがに男数人相手に勝てるわけがない。仲間の声に反応して、捕まるまいと体をひねってその場を離れる。距離を離すと、そのまま他の男たちが向かってきた。


「こいつっ!」


 いちいちやられるのなんか待ってられない。私も同じように仕掛けていく。殴られる前に速攻で殴ってやる。勢いがありすぎたか、見事に茶髪の男の顔に命中すると、男はそのまま態勢が崩れた。その間に二人目のスキンヘッドが腕を上げていたので、飛び退くように後退しつつ、腕の振りを避わす。大振り過ぎて隙だらけの男の顔に、下から掌底をぶちかます。顎を押し上げるように突き上げると、男は後ろに重心を取られて転倒した。


 息をつく暇もなく、最後に金髪の男と、茶髪の男が同時に仕掛ける。さすがにそれは無理だ。私が座っていた左手のゲーム台に対して、通路を挟んだ向かいのゲーム台に備えられた灰皿を素早く手に取り投げつける。


「ちっ」

「てめっ」


 その隙に私はきびすを返す。多人数なんか相手出来ない。逃げるに限ると颯爽と走り去ろうとしたが、目の前に大きな壁が出現してぶつかってしまった。


「っ……。な、何?」

「お客様。いったい何事でしょうか?」

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