第21話 A202型

国王の寝室に、将軍率いる反乱軍が突入する。そして、ベッドで寝ている国王に向かって一斉射撃を行う。

「これでカジキマグロを食べられるぞ!」

将軍がそう言うと、反乱軍の兵士たちは歓喜の声を上げる。

しかし、将軍が掛け布団をめくると、ベッドで横たわっていたのは、数匹のカジキマグロだった。

「何だと!国王はどこだ!」

将軍がそう叫ぶと、物陰に潜んでいた国王軍が出て来る。


圧倒的に数が多い国王軍を見て、反乱軍の士気が一瞬で下がる。

「愚か者め。食い意地ごときで反乱を起こすとは、万死に値する」

国王は姿を現さず、天井から冷徹な声だけが聞こえる。

反乱軍の兵士たちは、武器を捨ててひざまずく。

「おのれ…」

将軍は拳を震わせ、悔しさを露わにする。

国王軍の兵士たちが、引き金を引こうとしたその時、サトルたちが入ってくる。

「お前たちは…どうやって牢から…あれは…」

国王軍の隊長が、国王の妹に気づく。

サトルたちは反乱軍の前に立ち塞がる。構わずに国王軍の兵士たちが撃とうとすると、

「撃つんじゃない!ミラ姫様もおられる!」

と国王軍の隊長が制止する。国王軍の兵士たちが銃を降ろすと、ブンジロウが瞬く間に兵士たちの銃身を曲げて、使えないようにする。同時に、レインボーが窓ガラスを割って糸を出しながら飛び降りる。

「早く逃げてください!」

サトルが誘導し、窓から城外に張られた糸を使って、反乱軍を逃がしてやる。

「この恩は忘れぬ」

将軍もそう言って、窓から城外へ出て行く。

追いかけようとする国王軍の兵士たちを、ブンジロウが次々に気絶させる。

「驚いたな…こんなに強いのか…」

「さすがブンジロウ!恐竜だって一撃なんだから!」

なぜか、アカネが得意げにヒロシに自慢する。


「僕らも逃げよう!まずはアカネから」

「そうよね。まずは、か弱い女の子からよね」

アカネは上機嫌に、蜘蛛の糸を伝って城外へ出て行く。

「今みたいに、しっかり掴まって降りたら大丈夫だから」

「わかりました…やってみます」

サトルに言われた通りに、ミラ姫が窓から城外へ降りて行く。

ヒロシは飛んで出て行き、最後にサトルとブンジロウが、糸を伝って逃げて行く。


「ミラ姫様!こちらへ!」

城外へ出ると、ミラ姫を助けに来た猫人間のくノ一、サーラが待っていた。サトルたちはサーラが用意した小型ジェット機に乗り込む。

「サトル、さっき私を一番先に逃がして、お姫様のための様子見に使ったでしょ!」

アカネがサトルに食ってかかる。

「そ、そんなことないよ…」

サトルは否定するが、アカネはじーっとサトルを見て目で責める。

「しっかり掴まっていてください!」

サーラが小型ジェット機を発進させる。

捕まえようとする国王軍がレーザーネットを発射してくるが、サーラは機体を斜めにして巧みにかわし、城から離れて行く。

「ミラ姫様、ご無事で何よりです…」

サーラの目から涙がこぼれる。

「サーラと、この方たちのおかげです」

ミラ姫はサトルを見てそう言う。


「僕の名前はサトルです。そして、肩に乗っているのがブンジロウ。それから、零壱人のアカネと鳥人のヒロシ、七本脚のレインボー。僕らのほうこそ、ミラ姫様のおかげで、無駄に命が奪われるのを防ぐことができました」

サトルとミラ姫はじっと見つめ合う。

「アホくさ…」

その様子を見たアカネがそう言うと、サトルとアカネの体が白く輝きはじめ、やがてサトルは不殺生国にいた頃の体型に戻り、アカネも球体ロボットに戻る。

「キャー!やったー!零壱人に戻れたー!」

球体ロボットの体に戻ったアカネは、アームを出してバンザイをする。

「これが、サトル様の本当の姿なのですね…」

ミラ姫がサトルの手を握って見つめる。

「はい…」

サトルもミラ姫の手をやさしく握る。

「こいつ、お姫様に惚れちまいやがった…それが、俺らの未来に影響したんだ…」

ヒロシがそう言うと、アカネがアームを使って、サトルとミラ姫の手を離す。そして、アカネはミラ姫を睨んで、

「あのね、サトルは私の彼氏なの!手を出したら許さないわよ!」

と顔を真っ赤にして怒る。

「お前さっきまでサトルをバカにしていたよな…」

ヒロシだけでなく、ブンジロウとレインボーもアカネに引いている。

「それはE58型のサトルでしょ。私はこの姿のサトルが好きなの!優しくて強いし!本当に最高の彼氏だわ」

アカネがサトルに抱きつくが、

「僕はアカネのこと好きじゃないよ」

とサトルに言われてしまう。

「何ですって?」

「アカネのこと好きじゃない」

アカネはドタッと床に落ちる。

「おい大丈夫か、しっかりしろよ」

ヒロシが抱きかかえるが、アカネに反応はない。

サトルとミラ姫はじっと見つめ合っている。

「やれやれ…今後が思いやられる…」

ヒロシはため息をつかずにはいられなかった。


滝をくぐって、サーラが操縦する小型ジェット機が秘密基地に帰還する。

「ここはどこなんだ?」

ヒロシが尋ねると、

「人間との戦争に参加しなかった反戦派の居住地兼基地です」

とサーラが答える。

「おお、ミラ姫様だ!」

ミラ姫が小型ジェット機から降りて来ると、反戦派の猫人間たちが喜びの声を上げる。サトルたちも降りて来ると、

「誰だ、あいつらは…」

猫人間たちは変わった姿をしている来客を見てざわつく。


秘密基地の中には畑や果樹園もあり、猫人間たちは自給自足の生活をしていた。

奥へ進むと、警備が厳重な部屋に辿り着く。

「ミラ姫様をお連れしました」

サーラがそう言うと、警備していた猫人間が一礼してドアを開く。

狭い部屋の中には、背丈が小さく、指が極端に短い人間の老婆、フジワラがいた。

「A202型の人間だ…戦争を起こせないように自ら指を退化させたんだ」

一目見てヒロシがそう説明する。

「お母さん…」

ミラ姫が膝をついて、フジワラに抱きつく。

「ミラ、よく帰って来てくれたね…」

フジワラはミラ姫の頭をやさしくなでる。

「お母さん?」

アカネが首を傾げると、ミラ姫が涙を拭いて説明をする。


「ご存知かもしれませんが、人間たちは戦争の兵器にするために言語を理解する動物をつくりだそうとしていました。しかし、実験は思うように進まず、私と兄のライアも、失敗作として捨てられたのです」

「どこの時代に行っても、人間はろくなことしてないな…」

ヒロシが冷ややかな目でサトルを見る。

サトルは寂しそうにうつむくが、ミラ姫がサトルの手を握ってなぐさめる。

「でも、私たちは失敗作ではなかったのです。兄のライアは言葉が理解できないふりをしろと私に言いました。それは、純粋を私を守りたかったからだと思います。もし、言葉を理解できることが人間たちにわかったら…」

「ひどい実験が待っていたのね…」

アカネはそう言いながら、ミラ姫の手をサトルの手から離す。

「兄と私は、街から街へさまよっているうちに、捨てられた動物たちを手厚く保護している富豪の噂を知りました。そして、噂を辿ってその富豪が暮らす屋敷を見つけたのです。噂通り、傷ついた私たちにとてもやさしくしてくれました。兄は、そのやさしさにつけこんだのです」

「あの国王が何をしたの?」

そう尋ねたアカネをはじめ、サトルたちはミラ姫の話を神妙な面持ちで聞いていた。


「兄は、その富豪に言葉を理解できることを明かすと、さらに進化するために実験器具を用意させました。すでに私たち兄妹の知能は人間より高くなっていたので、兄はあっという間に2つの進化システムを開発しました」

「そういうことだったのか」

「なるほどね」

ヒロシとアカネは何かを察した表情を見せる。

「まず1つ目の進化システムは、人間が戦争を起こさないように、体を小さくして指を短くするものでした。富豪はその進化システムを心よく受け入れ、世界中に普及させました。殆どの人間が平和型に進化すると、兄は2つ目の進化システムを富豪には秘密裏に世界中に普及させました」

「それが、猫を人間型にする進化システムだったのね」

アカネがそう言うと、ミラ姫がフジワラを一度見てから悲しそうに頷く。

「人間型となった猫たちは、人間が使わなくなった武器を手に取り、たったの49日間で殆どの人間を殺して支配者となったのです。私たちを救ってくれたお母さんを騙して国王となった兄を私は…私は許せません…」

体を震わせて涙を流すミラ姫を、フジワラがやさしく抱きしめる。


「感動の再会のところ悪いけど、早く私たちの未来に帰してもらえない?」

空気を読む気もないアカネがそう尋ねると、

「すまんのう。ここにタイムワープできる宇宙船はないのじゃ」

とフジワラが謝る。

「ウソでしょ!それじゃどうするのよ!」

とアカネがフジワラに詰め寄ると、サトルがアカネの体を掴んで引き離す。

「僕たちが国王を助けます」

サトルがそう言うと、

「…ありがとう」

と言って、フジワラも涙を流す。


サトルたちはサーラが操縦する小型ジェット機で国王のいる城へと向かう。ミラ姫とフジワラが祈るように見送っている。

「国王を助けるじゃなくて、倒すでしょ!」

アカネがボディを真っ赤にしてサトルに詰め寄る。高所恐怖症のサトルとブンジロウは硬直して座っている。

「まあ、あの城にもう一度行くことには、俺も賛成だ。あそこには、王族街の住人がいた。将軍が俺を殴ろうとしたのを止めてくれた。王族街の住人が何をしているのか気になるからな」

ヒロシがサトルを擁護する。

「何も今、戻ることないじゃない!せっかく逃げることができたのに!」

アカネが怒りの余り、蒸気を出してサトルに詰め寄る。

「いや、行くなら今がいい。多くの兵士が俺たちを捜しに出ている今なら、城に残っている兵士も少ないはず…」

またもヒロシがサトルを擁護する。

「カラスはもっと賢いと思っていたけど、あんたはバカなのね!数が減っていると言っても、ミラの話では2万人の兵士が残っているのよ!しかも、人間よりもずっと強い猫人間の兵士がね!」

アカネが標的をヒロシに変える。

「大丈夫だって」

「何が大丈夫なのよ!」

「ブンジロウを見てみろよ」

アカネが視線をブンジロウに移すと、いつの間にかブンジロウはパンチやキックの素振りをしている。


「ブンジロウが19,900人を倒す。そして、俺とレインボーで残った100人を倒す。最後に、サトルが国王を助ける。何の問題もない」

「だから、国王を助けるってどういうことなのよ!」

「そんなこともわからないなんて、お前は本当に零壱人なのか?」

「はあ、何ですって!」

アカネとヒロシがにらみ合う。

「着陸しますので掴まっていてください」

サーラがそう言うと、アカネとヒロシは仕方なく席に着く。

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