第20話 時空賊とカジキマグロ

サトルとアカネは、ワイヤーを伝って森の中を進んでいた。サトルの肩にはブンジロウが乗っている。

赤い塔に登り、約1年間も高所トレーニングをしていたようなものだったサトルとアカネの身体能力は、格段に向上していた。

鳥人のヒロシと、翼を手に入れたレインボーは飛んでサトルたちに続く。

しばらく進むと、ツタが巻きつき朽ち果てた宮殿に辿り着く。


サトルとアカネはワイヤーの上に腰掛け、様子を伺ったが人影はなかった。

「宮殿がこんなに朽ち果てるまで、赤い塔を登り続けていたのね…」

アカネが視線でサトルを責める。

「ごめんなさい」

「私のおかげで助かったんだから感謝しなさいよ」

「ありがとう」

「おい、サトル、しっかりしろよ。すっかり、タロウの尻にしかれちまいやがって」

「アカネだって言っているでしょ!今、わざと間違ったわね!カラスはいつも上から見下して来るからイヤな感じだわ」

「なんだと!人間のくせに!」

「人間じゃありませーん!私は零壱人でーす!」

「今は、立派な人間だろうが!」

「もうサトル!この俺様カラス野郎になんか言ってやってよ!」

「サトル!この元零壱人をどうにかしろよ!」

板挟みにあい、サトルが耳を塞ごうとすると、空間がピカッと光って、30隻ほどの宇宙船が現れる。


最も大きな宇宙船から、猫人間の将軍が降りて来る。

「やっと見つけたぞ。悪党共め。大人しく降伏しやがれ」

猫人間の将軍がそう言うと、宇宙船から猫人間の兵士たちが出て来て、銃口をサトルたちに向ける。

「なんなのこれ、私たちが何をしたっていうのよ!」

アカネがそう言うが、

「とぼけてもムダだ!」

と猫人間の将軍は聞く耳を持たない。


「どうするサトル?敵の数はざっと1000人くらいか…あの偉そうにしている奴を捕まえれば勝機はあるぞ…」

ヒロシが冷静に進言すると、サトルは首を横に振る。

「ダメだ。ここで戦うと、たくさんの生き物たちが巻き込まれて死んでしまう…」

森の中にいるシカやキツネ、ネズミ、カマキリ、アリたちを見て、サトルはそう言う。

「人質を取るなんて卑怯だぞ!」

ヒロシが猫人間の将軍を罵る。

「人質だと?何のことだ?こいつらをさっさと捕らえよ!」

猫人間の将軍がそう指示すると、サトルたちはなす術もなく兵士に拘束され、宇宙船に乗せられる。


船内に入ったサトルたちは、小さなブンジロウも逃げられないようにレーザー光線の膜で囲まれた檻の中に閉じ込められる。

「ちょっと、誰かと間違っているんだって!」

アカネがそう言うが、見張りの兵士たちはまったく耳を貸さない。

やがて空間が歪み始め、宇宙船がタイムワープする。



2829年-


猫人間が支配する地球。

やけに階段の多い城の広間に、ぶくぶくに太った国王の猫人間が鎮座していた。

両手をレーザーの縄で縛られたサトルたちが連れてこられる。

「陛下、“金色の時空賊”を連行して参りました」

猫人間の将軍が、サトルの顔を国王に見せて報告する。

「だから、誰かと間違っているんだって!金色の時空賊って何のことよ!」

アカネが誤解を解こうとすると、

「もちろん、今は何も知らない。お前らはこれから先の未来で、ある秘宝を盗む時空賊になるのだ。そして、そんなお前らにカジキマグロが53兆匹買えるほどの懸賞金がかけられたのだ」

と将軍が説明する。

「ふざけんな!まだ何もしてないのに、何で捕まらないといけないんだよ!」

ヒロシが怒るが、

「秘宝を盗まれてからでは遅いのだよ」

と言って、将軍がヒロシの頭を踏みつける。

「猫野郎が、覚えていろよ…」

「ゴミ食いのカラスが生意気を言いおって!」

睨みつけてきたヒロシを、将軍が殴ろうとするが、どこからともなく風が吹くと、将軍は落ち着きを取り戻し、ヒロシから離れる。

「ごくろうであった」

国王は一言だけ褒めると、召使いが運んで来たカジキマグロの丸焼きにかぶりつく。

将軍は思わずヨダレを拭く。


城の地下牢に、サトルたちは幽閉される。

ここもレーザー光線の膜で覆われているため、小さなブンジロウでも出ることができない。

「いったい何がどうなっているの?秘宝を盗むなんて真似、人間しかしないでしょ。サトルのせいよ!」

アカネは体を揺らしてレーザーの縄を解こうとしながら、サトルを責める。

「猫に顔を踏みつけられるなんて一生の不覚だ。サトルの仲間になっちまったばっかりに最悪だぜ」

ヒロシもアカネに続くようにサトルを責める。

「ごめんなさい」

ヒロシはそう謝るとうなだれる。

ブンジロウとレインボーが、励ますようにサトルに体を当てる。


夜になり、アカネとヒロシはぐっすり眠っていた。サトルとブンジロウとレインボーは、鉄格子のすき間から見える月を眺めていた。

すると、空飛ぶバイクに乗った猫人間の兵士たちが月を遮って城に向かって来る。

間もなく城内が騒がしくなる。

そして、鉄格子のすき間からレーザーナイフが放り込まれる。サトルはそれを口にくわえると、ブンジロウの手足を縛っていたレーザーの縄を切ってやる。

自由に身動きがとれるようになったブンジロウは、レーザーナイフを使って、サトルたちの手足を縛っていたレーザーの縄をあっという間に切る。

「アカネ、ヒロシ、ここを出るよ」

サトルがアカネとヒロシを起こす。

「何の騒ぎよ…」

「クソッ、カジキマグロを口に入れる寸前だったのに…何で起こすんだよ!」

「ごめん」

その間に、ブンジロウは前を塞いでいたレーザー光線の膜も切って地下牢から出られるようにする。


サトルたちが地上に上がろうとすると、泣き声が聞こえてくる。サトルが立ち止まると、

「何しているのよ、早く行くわよ!」

とアカネがサトルの腕を引っ張る。

しかし、サトルは泣き声が聞こえてくる地下牢の奥のほうへ向かって進む。

「バカ、そんなのほっといて、さっさと逃げようぜ!」

ヒロシがサトルを呼び止めるが、サトルは聞く耳を持たない。

ブンジロウとレインボーもサトルについていく。

アカネとヒロシは目を合わせると、ため息をついて、サトルたちを追いかける。

地下牢の奥には、レーザー光線の膜で三重に塞がれ、鉄格子もなく一際厳重につくられた牢があった。

そして、中には猫人間の女が入っていた。

「どうして泣いているのですか?」

サトルがそう聞くと、

「大勢の兵士が殺されてしまうからです…」

と猫人間の女が答える。


「…一緒にここを出ましょう」

サトルはそう言うと、3重に張られていたレーザー光線の膜を切って、猫人間の女を牢から出してやる。

「どこでその特殊ナイフを?」

レーザーナイフを見て、猫人間の女が不思議そうに尋ねる。

「鉄格子のすき間から、誰かが入れてくれたんです。多分、あなたの仲間でしょう」

サトルがそう答えると、猫人間の女はゆっくり頷いた。

「もう、早く行くわよ!」

アカネがサトルの腕を引っ張って、地上に続く階段へ向かって進む。サトルたちが地上にあがると、

「カジキマグロを一人占めしている国王を捕らえるのだ!」

と猫人間の将軍が声を荒げていた。

「クーデターか…。まあ、カジキマグロを一人占めしている外道なんて殺されて当然だ」

ヒロシがそう言うと、

「助けないと…」

とサトルが反乱軍を追いかけようとする。

「ちょっと待ってよ!」

アカネがサトルの腕を掴んで止める。

「一つもないよ」

「えっ?」

「殺されて当然の命なんて、一つもないよ」

サトルにそう言われ、アカネは掴んでいた腕を離す。

「まあ、国王を助ければ俺らの未来に帰してくれるかもな…」

ヒロシも理解を示す。

「ありがとう」

とサトルは笑みを浮かべる。

「違います…」

猫人間の女がそう言うと、「えっ?」とサトルたちは困惑する。

「殺されるのは、将軍たちのほうです」

「どういうことなの?」

とアカネが尋ねると、猫人間の女は声を震わせ、

「兄は、猫を被っているんです。カジキマグロばかり食べて、表向きには政治に興味を示さず、バカなふりをしていますが、実際は…」

「兄って、あなたはもしかして国王の妹なのか?」

ヒロシが驚きながらそう言うと、猫人間の女は悲しそうに頷く。

「兄がクーデターに気付かないわけがありません」

「それなら、将軍たちを助けに行こう!」

サトルは、銃声のするほうへ向かって走って行く。

ブンジロウとレインボー、猫人間の女もすぐに後に続く。

「サトル、何か作戦があるんでしょうね!」

文句を言いながら、アカネとヒロシも追いかけて行く。

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