第15話 頬笑み
クロダがササキに報告していた情報とは違い、浜辺にはヤドカリやワタリガニが歩いていた。
「誰かいるかもしれない」
サトルはこの島が見えた時から行きたいと思っていた、天空にそびえる塔を目指すことにした。
ブロックキーは守られたのだから、もう王族街の住人が手出しをしてくることはない。冒険をやり直そうと思っていた。
サトルはワイヤーを掴もうとしてジャンプするが届かない。
「あのねサトル、ここは不殺生国ではないから、あの塔まで行きたいのなら歩いていけばいいでしょ」
呆れた様子のアカネに、
「関係ないよ。ここがどこかなんて。誰も殺したくないから」
とサトルはワイヤーに向かってピョンピョンに跳ねる。
ブントルがサトルを掴むと、ワイヤーに届くように体を持ち上げてやる。
「ありがとう」
サトルはワイヤーを掴むと、腕をプルプル震わせながらなんとかワイヤーの上にあがるが、バランスを崩して落ちてしまう。
慌ててブントルがサトルをキャッチする。
「あっ、ありがとう」
「だから言ったのに。何よ、何見ているのよ」
「蚊が…」
アカネの胸に蚊がとまっていた。
「イヤッ!」
アカネが蚊を叩こうとすると、ブントルが腕を掴んで止める。サトルは、蚊に手を近づけて、逃がしてやる。
「あなたたち最高に面倒くさいわね」
サトルはアカネを無視して、もう一度ワイヤーに向かってジャンプする。やはり届かないので、ブントルがワイヤーの上にあげてやる。
サトルはバランスをとって、ワイヤーの上で腰掛けようとするが、また落ちてしまう。先ほどと同じようにブントルがキャッチする。
「ありがとう。ブントル、悪いけど練習に付き合ってくれるかな?」
ブントルは笑みを浮かべて頷くとサトルとアカネをワイヤーの上にあげる。
「ちょっと、何で私まで…」
「ワイヤーの上でバランスをとれるようになっていたほうがいいよ」
岩陰からヘビが姿を現していた。
「そうね……」
サトルとアカネはワイヤーの上でバランスを取ろうとするが、やはり落ちてしまう。ブントルが器用に二人をキャッチする。
「それで、練習をするとして、どこで眠るのよ?」
サトルはブントルに目をやる。
「…イヤよ、私はイヤだからね」
夜になると、ブントルの大きな腕に包まれてサトルとアカネはワイヤーの上で寝ていた。月明りとさざ波の音が、ひと時の癒しを与えていた。
ブントルに続いて、サトルとアカネがワイヤーを伝って森の中を進んでいる。
「ああ、お腹空いたー。人間って本当に最悪ね。ねえ、ブントル、もうちょっとスピードを落としてよ」
ブントルはワイヤーの上にあがって、サトルとアカネが追いつくのを待つ。木の上にジャガーが潜んでいたが、逃げ出して行く。
「ブントルを見ただけで逃げて行くんだから。ブントルは世界最強だわ」
アカネがそう言っていると、地面が揺れ出す。
「な、なに…」
「一旦、上がろう」
「う、うん」
サトルとアカネがワイヤーの上にあがり腰掛ける。まだぎこちないが、バランスをとれるようになっていた。そして、大きな足音を立てて、スピノサウルスが姿を現す。
「ウソでしょ…」
さっきまで余裕の表情だったアカネの顔が一気に青ざめる。
「ブントル、逃げよう」
サトルがそう言うが、ブントルは首を横に振る。ブントルは自分より強い相手と闘ってみたいと興奮していた。
スピノサウルスが大きな口を開いてブントルに噛みつこうとする。
ブントルはジャンプして避けると、そのままスピノサウルスの頭部を殴るが、スピノサウルスにダメージはない。
その拍子に、アカネがバランスを崩してワイヤーから落ちそうになり、助けようとしたサトルもバランスを崩してしまうが、何者かが二人をワイヤーの上に引きあげる。
ワイヤーの上に着地したブントルは、スピノサウルスに左腕を食いちぎられてしまう。次の瞬間、ブントルが手刀をスピノサウルスの喉に突き刺そうとするが、指の骨が折れてしまう。
「ブントル!!」
サトルとアカネがそう叫ぶと、ブントルは振り返って笑みを浮かべる。
そして、ブントルはスピノサウルスにお腹を噛まれ、そのまま持ち上げられてしまう。
サトルとアカネは言葉を失う。
そこに、ティラノサウルスが現れ、スピノサウルスからブントルを奪い取ろうとする。スピノサウルスは逃げて行き、ティラノサウルスが追いかけて行く。
「なんなのよ…なんなのよ…」
アカネの目から涙がこぼれ、体が小刻みに震えている。
「ブントル、笑っていたね」
サトルはそう言うと、そっとアカネの肩を抱いてやる。
擬態していたブントルの分身が姿を現す。大きさはサトルとアカネよりも小さくなっていた。
「助けてくれてありがとう、ブンジロウ」
サトルは礼を言うと、そう名づける。
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