第14話 ゴクゴク
荒れ果てた道路の先にあるトンネルの入口に外壁がつくられている。クロダが運転する空飛ぶ車がやって来ると、外壁が開いて中へ入れてくれる。
トンネルの中には、数十件の屋台が営業していた。クロダはラーメン屋の前に空飛ぶ車を停めると、サトルたちを店に案内する。
「いらっしゃい!」
店主が元気よく迎えてくれる。
「いつもの4つください」
とクロダが注文する。
「へい!」
と店主は返事をすると、麺をゆで始める。
「これを食べたら、私たちの未来まで送ってくれるのね?」
「はい。準備はできていますから、安心して食べてください」
「ところで、食べるってどうしたらいいの?」
アカネの発言に、サトルとブントルが驚く。
「アカネさんは初めての食事ですよね。今から出てくる料理は、まずスープを飲んで、それから麺をすすって、噛んで、飲み込んで食べるのです」
「人間たちがそうするのを見てはいたけど…できるかな…」
「へい、お待ち!」
店主がラーメンを運んでくる。
「何、この匂い…」
アカネの口からヨダレが垂れる。
「おいしいそうな匂いということです」
クロダがハンカチでアカネのヨダレを拭いてあげる。
「よしてよ!子どもじゃないんだから!」
サトルとブントルは待ち切れず、スープを一口飲む。
「おいしい!」
そう同時に言うと、サトルとブントルはプラスチックの箸を使って麺を勢いよくすすってたべる。ラーメンを食べたことはないが、うどんやそばは食べたことがあった。
アカネもスープを一口飲む。
「……」
一言も喋らず、アカネはスープをゴクゴクと飲み干す。
「これは、何?」
そして、チャーシューを一口食べる。
「豚の肉です」
とクロダが言うと、
「ゲホッゲホッ!」
アカネはむせて、チャーシューが喉に詰まりそうになり、慌てて水を飲む。
サトルとブントルはチャーシューを恐る恐る食べる。もう殺されているから、食べてやったほうが豚にとって幸せなことだと思ったからである。
「チャーシューもおいしい!」
と同時に言うと、サトルとブントルはスープを一滴も残さず完食する。
店主はアカネの器にスープを足してやる。
「ありがとう!」
アカネがまたスープをゴクゴク飲みだす。
「うちのスープは、豚骨と鶏ガラ、あとニボシにハマグリ、昆布、鰹節を何とか集めてダシを取っているんだ」
「とんこつ?」
サトルが店主に聞き返すと、
「知らないのかい?豚の骨だよ」
と店主が教える。
それを聞いたアカネが「ププーッ」とスープを吐き出す。
「なんですって?」
「豚の骨や小魚を干したニボシを贅沢に使った絶品のスープなんです」
クロダはそう説明をすると、スープを一口飲み、
「うーん、やはり最高においしいですね」
と幸せそうにほほ笑む。
「いつもありがとうございます」
店主も笑みを浮かべる。
「ちょっと待ってよ、このスープにいったいどれくらいの命が使われているのよ?」
とアカネに聞かれた店主は頭をかきながら、
「えっ?そんなこと考えたこともなかったな…そうだな、100は使っているかな」
「ひゃ、100ですって!食べる為に100もの殺生を…オエッ」
アカネは思わず吐き出しそうになる。
クロダは麺をすすり、またスープを一口飲んでから、
「これだけおいしい食べ物に生まれ変われたら、豚や鶏や魚たちも幸せではないでしょうか。はたして、すべての殺生が本当に悪いことなのでしょうか」
「当たり前じゃない!殺されて幸せなんて誰が思うのよ!」
アカネが顔を赤くして、テーブルを叩く。
「サトルくん、ブントルくん、おかわりはいかがですか?」
「お願いします!」
サトルとブントルは器を店主に差し出す。
人間街で決められた食事ばかり食べていたサトルは、生まれて初めてのおかわりに興奮していた。
「もう、こんなに惨い料理をおかわりなんかしないで、さっさと私たちの未来へ帰りましょうよ」
とアカネが言うが、
「マスター、今度はチャーシュー麺にしてやってください」
クロダはアカネを無視して注文する。
「あいよ。いつもよりたっぷり入れますから」
店主は張り切ってチャーシュー麺をつくり始める。
サトルとブントルは目をキラキラしてチャーシュー麺を待っている。
それを見てアカネは呆れる。
「あなたもよくのん気に食べていられるわね。あのオネエにばれたら、すぐに殺されちゃうでしょ」
「そうですね」
アカネの心配をよそに、クロダはラーメンを味わって食べている。
「そうですねって…で、どうしてあなたが不殺生国を知っているのよ?」
「私も不殺生国から来たからです」
「えっ?」
アカネは驚くが、サトルとブントルはやはりそうだったのかと思う。
だから、普通の人間では読むことができない小さな字で、手の平に『迎えにくる』と書いていたのだ。
「不殺生国から来たって…人間なの?零壱人だったの?それとも…」
「私はブロックキーを守る為に派遣された、不殺生国のスパイです」
クロダはアカネの質問を無視して話し始める。
「私が知る限りで、ブロックキーは4つまで絞られていました。その1つが、サトルくんがアカネさんを抱きしめた瞬間です。あの瞬間を守ることができたので私の任務は終了です。ササキに殺されようが、後はどうなっても構わないのです。マスター、生ビールと蜘蛛入り餃子を4皿ください」
「あいよ」
店主はジョッキにビールを注ぐとクロダに渡す。クロダはグビグビと音を立てて半分ほど飲む。
「プハーッ。任務完了後の一杯は格別ですね」
とクロダは幸福感に包まれている。
「へい、チャーシュー麺、お待ち」
店主がサトルとブントルの前に、チャーシュー麺を運ぶ。しかし、サトルとブントルは食べようとしない。
「そうよ、そんなの食べないいいのよ」
とアカネが言うと、
「アカネさんは黙っていてください」
とクロダに叱られる。
「サトルくんが今、思っていることは、半分は正解です」
サトルは、自分の冒険がブロックキーを守る為に、王族街の住人たちに仕組まれたものだったと思い、愕然としていた。
ヒロシもレインボーも、サルたちの温泉も、イカダも、自分をここへ進ませる為に、王族街の住人たちの仕業だったと思うと、悔しくて涙こぼれてきた。
自由に冒険をしてきたつもりが、王族街の住人たちの手の平で踊らされていただけだったのだと虚しくなった。
「さあ、食べてください。このチャーシュー麺に罪はありませんから。食べてやってください」
とクロダに促され、サトルは泣きながらチャーシュー麺を食べる。それを見て、ブントルもチャーシュー麺をおいしそうに食べる。
「不殺生国で飲んでいた進化薬と、ササキが投与した薬の影響でしょうが、ブントルくんは完全なクローンというわけではないようですね」
クロダはサトルとブントルの様子を見てそう判断する。
「任務終了なら、あなたも一緒に不殺生国に帰ればいいじゃない」
もう喋ってもいいだろうと思ったアカネがそう言うと、
「いえ、私はこの世界でもう一つやりたいことがありまして…」
「やりたいこと?」
「この世界では、このまま争いが続くと、あと51日でオゾン層が消滅し、地上に生物が住めなくなってしまいます」
「なんだ。それなら今すぐ争いをやめればいいだけじゃない」
「それが難しいのですよ。世界各国が拳銃を向け合っているような状況で、平和を訴えて武器を下ろした瞬間に殺されてしまいます」
「人間ってとことんバカね」
「しかし、まだ希望はあります。世界各国が同時に武器を捨てればいいのです」
「ふははははっ。ムリに決まっているでしょ。仲間を殺しまくっていたあのオネエがそんなことをするとは思えないわ」
「そうですね。だから、私がこの国のトップに立って、他国に向けた拳銃を降ろそうと思います」
「えっ!?あなたが?」
「失う物は何もありません。それなら、この世界が助かる可能性に賭けてみたいのです。革命軍の同志たちとクーデターを起こし、ササキを総司令官の座から引きずり降ろします」
「そんなことでき…」
アカネが否定しようとすると、
「僕も参加させてください!」
とサトルが力強くクロダに頼む。
「それはダメです」
クロダはあっさり拒否する。
「どうしてですか!僕だって役に立てるはずです!」
とサトルは食い下がる。
「サトルくんは、冒険の真実を知った今、やけになってクーデターに参加して自ら死ぬことを望んでいる。それも立派な殺生です」
「……」
サトルは反論できなかった。
クロダはビールを飲み干すと、
「では参りましょう」
と席を立つ。
「えっ!?蜘蛛入り餃子は?」
「あれは、念の為の合言葉です」
「どうぞ、こちらへ」
店主はそう言うと、立っていた場所の扉を開く。
そこには地下へと続く階段があった。
「あなたも仲間だったのね…」
「エヘヘヘヘ。代々受け継いできた味を、俺の代で途絶えさせるわけにはいかねえ」
クロダに先導され、サトルたちは地下へ降りて行く。
店主は扉を閉めると、再びラーメン屋の営業を続ける。
階段を下りて、地下道を進んで行くと、宇宙船や戦闘機が並んでいるターミナルに出る。ターミナルにいる革命軍のメンバーは、クロダを見ると作業をやめて敬礼をする。
「クロダさん、こちらに用意しております」
革命軍のひとりが、飛行準備を整えた宇宙船まで案内する。
クロダが運転席に座り、サトルたちは後部座席に座る。
「ちょっと、あなたお酒飲んでるのに大丈夫なの?」
アカネが心配をすると、
「はい。あれはノンアルコールなので。おいしいお酒を飲めるようになるにはもう少し時間がかかりそうです。それでは、出発しますよ」
サトルたちを乗せた宇宙船が宙に浮くと輝き始め、未来No.U872569851へとタイムワープする。
E58型の兵士に捕まった島の浜辺に宇宙船が着陸すると、サトルたちが降りて来る。
「どうして人間のままなのよ!」
アカネが顔を真っ赤にして怒る。
「未来が変わったからです。どう変わっているのかは、ご自身の目で確かめてください。ここが王族街の住人たちが守ろうとしている世界です」
クロダはそう言うと、アカネ、サトル、ブントルの目をそれぞれ見る。
「それでは、冒険の無事をお祈りします」
「ク、クロダさん!」
宇宙船に戻ろうとしたクロダをサトルが呼び止める。
「あの時代の皆を助けてあげてください!」
「希望が先か、勇気が先か…」
クロダは小声でそう呟くと、
「わかりました。またどこかでお会いしましょう」
とサトルに答える。
そして、島の奥にある赤い塔をチラッと見てから、宇宙船に乗ってもとの時代へと戻って行く。
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