第13話 3種

研究室ではサトルがアカネに責められていた。

「サトルのせいだからね」

「ごめんなさい」

「殺されたらどう責任とってくれるのよ」

「ごめんなさい」

「ごめんなさいしか言えないの?」

「…すみません」

「サトルのせいだからね」

「ごめんなさい」

アカネが責めて、サトルが謝る。そんなやり取りが続く。


その様子を隣の部屋で二人の研究員が見ている。

「もう11時間も同じことばっかり言ってやがる」

「…なあ、一服しに行こうぜ。一人で休憩行くのも飽きた」

「でも、監視をしていないと…」

「こんなのずっと見ていても何の役にも立たないって。一服するくらい平気さ」

「…そうだな。こんな会話をずっと聞いていたら頭がおかしくなっちまいそうだ」

二人の研究員は席を立ち、部屋から出て行く。


研究室では、まだサトルがアカネに責められている。

「サトルのせいだからね」

「ごめんなさい」

「本当に反省をしているの?」

「ごめんなさい」

すると、サトルを繋いでいた鋼鉄製の留め具が外れる。

「ちょっと、なんでサトルから助けるのよ。ふつー、レディーファーストでしょ」

擬態していたサトルの分身が姿を現す。分身のほうはE58型の体型にはなっていない。サトルの分身が檻を曲げて、アカネを出してあげる。


「アカネも人間だったのですね」

サトルがそう言うと、

「はあ!?私を下等な人間と一緒にしないでくれる!」

とアカネは顔を赤くして怒る。

「でも…」

「私は、零壱人(ゼロワンビト)なんだから!」

「零壱人?」

「そう。いい、不殺生国には3つの人類がいるの。まず、ほっとくとすぐに殺し合うし、自然を壊してしまうサトルたち人間。そして、肉体を捨てて、プログラムとして永遠に生き続ける道を選んだ私たち零壱人。私たちは、人間と違って一切殺生をしないわ」

アカネはサトルとサトルの分身を軽蔑した目で見ている。

「それから、王族街に住んでいる…」

そうアカネが話そうとすると、

「その話は聞きたくない」

とサトルが止める。

「そうね、人間は知らないほうがいいわね。で、サトル、この後はどうするのよ?」

サトルとサトルの分身が同時にアカネに目をやる。

「あのね、私が今聞いたのはこのやせっぽちのサトルのほうよ。もう、面倒くさいわね。やせっぽちがサトルで、分身のほうはブントルね。サトルの分身だからブントル。オッケー?」

頷くサトルとブントル。


「で、ここからどうやって出るのよ」

「迎えが来るから」

「迎えって、私たちの未来から誰かが助けに来てくれるの?」

「未来じゃないよ」

「え?それじゃ誰が来てくれるのよ?」

すると、研究室のドアが開いてクロダが入って来る。

「念の為、カギを取ってきましたが、やはり必要なかったみたですね」

とクロダはカギを見せると、ポケットにしまう。

「アカネさん、これにお着替えください。不殺生国でも使われている素材でつくった服です。消臭性、速乾性に優れていて、水で洗うだけで簡単に汚れが落ちます。他にも自然環境を破壊しない素材でつくった女性用品や、オーガニックシャンプー、オーガニックコンディショナー、オーガニックソープを入れてあります」

クロダが服などが入ったバックパックをアカネに渡す。

「…ありがとう。気がきくわね。でも、どうしてあなたが不殺生国のことを知っているのよ?」

「後でお話ししますから、早くお着替えください」

クロダがアカネに背を向ける。

「あなたたちも早く後ろを向きなさいよ」

サトルとブントルも慌てて背を向ける。

「まったく気がきかないんだから」

アカネは新しい服に着替え始める。


「あのタイミングで分身をつくるとはさすがです」

クロダにそう褒められ、サトルは照れ臭そうに頭をかく。

実は、サトルが鋼鉄の板から離されて、アカネが檻から出された時、ササキの前に出たクロダが、サトルに手の平を見せていた。そこには、アリほどの小さな字で『迎えにくる』と書かれていた。

そして、クロダがササキの視界を遮っている隙に、サトルは細胞分裂によって分身のブントルをつくり、ブントルはすぐに擬態していたのである。そのことは球体ロボットだったアカネも気付いていた。


アカネは着替え終わると、借りていた上着をサトルに投げる。

「消臭性抜群の服を、よくこんなに臭くできたわね」

サトルは返してもらった上着を着て匂いを嗅ぐ。確かに臭いかもしれないけれど、冒険の跡が詰まったこの匂いをサトルは気に入っていた。

「この服、肌の露出が多くない?」

アカネが不満そうに言う。

「この時代では珍しい素材なので、それが精一杯でした。それにアカネさんにお似合いですよ」

「そ、そうかなー」

アカネはまんざらでもなさそうである。

「では、参りましょう」

とクロダに先導され、サトルたちは研究室から出て行く。

外では見張りの兵士が倒れていた。


一行は、究施設の最上階までエレベーターで上がると、空飛ぶ車に乗って研究施設から出て行く。

廃墟化した街を見て、アカネはため息をつく。

「人間って本当にバカね」

「それがいいところでもあるのですが、こうなってしまうと反論できません」

クロダは追手を警戒しながら運転をしている。

「こんなことしてあなた大丈夫なの?」

「未来No.U872569851に戻る前に、一緒に食事をしましょう。向こうでは、食べられないおいしい食べ物がありますから」

クロダはアカネの質問を無視して、サトルたちを食事に連れて行く。

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