第8話 湖上バトル

サトルはワイヤーを伝って颯爽と進み、前方にいたチンパンジーの群れをあっという間に抜き去る。

木に潜んでいたジャガーに襲われても、殺さない程度に蹴り飛ばして、何事もなかったかのようにワイヤーを伝って森を登って行く。

しばらく進むと、開けた場所に出て、そこには湖があった。ワイヤーは湖の中心に通されている。湖ではワニに注意するようにと言い伝えで聞いていたが、それにしても大きなイリエワニが何匹もワイヤーに向かってジャンプしていた。


サトルがワイヤーの上でしばらく様子を伺っていると、ワイヤーに向かってジャンプしたイリエワニが何かを食いちぎった。

「ギャーーーー!!」

と叫び声と同時に、特殊スーツを着て擬態していたE58型の兵士の姿が露わになる。下半身を食いちぎられていて、また別のイリエワニに上半身を食べられる。

サトルはワイヤーの振動で何者かが近づいて来ることに気付く。恐らくE58型の兵士の仲間が擬態してまだ潜んでいるのだと察しがつく。サトルは足でワイヤーに掴まると、湖面に向かってぶら下がる。イリエワニが飛びかかって来ると、攻撃をかわして、すかさずイリエワニの腹に手刀を突き刺し、腕までえぐり込ます。腹から突き刺したイリエワニの盾を左腕につけると、サトルはワイヤーの上を歩いて進みだす。

ワイヤーの上に潜んでいたE58型の兵士が電気弾を撃ってくるが、イリエワニの盾で防ぐと、襲いかかって来たイリエワニを次々に蹴飛ばして、E58型の兵士たちに当てていく。その衝撃で擬態が解除されたE58型の兵士たちはワニたちの恰好の餌食となる。サトルはワイヤーを伝って湖面を渡りきると、盾に使っていた瀕死のイリエワニを湖に投げ入れる。瞬く間にワニたちが集まってきて共食いを始める。


逃げ場のない湖の中央でE58型の兵士たちが襲いかかってきたのは、ワニよりも強くなっていたサトルにとっては好都合だった。期待はずれだったのは、湖を渡ってもまだ球体ロボットが追尾していたことだった。

一体どれほど進めば、不殺生国から出ることができるのだろうとサトルは思ったが、不殺生国から出たいという特別な理由もなかったので、深くは考えなかった。

むしろ、不殺生国から出てしまうと、ヒロシやレインボーと会えなくなるかもしれないと心配をした。


そうなってくると、この冒険のゴールをどこにしたほうがいいのかとサトルは考えてみたが、もし不殺生国の国境線がわかるような看板があったら、そこで引き返そうということぐらいしか思いつかなかった。そして、今は山の頂上まで登って、そこからの景色を眺めることを目的に進むことにする。


再びワイヤーを伝って森の中に入って行くと、中型の宇宙船が木々をなぎ倒して着陸しており、擬態をしていないE58型の3人の兵士が見張りをしていた。

サトルだけがやって来るとは思っていなかったE58型の兵士たちは、慌てて銃を構えようとするが、サトルはすぐさま足の爪を3枚剥がして、E58型の兵士たちの目に投げつける。銃弾より速くサトルの爪が、E58型の兵士たちの目に突き刺さり、兵士たちは悲鳴を上げてのたうちまわる。


サトルはワイヤーにもたれるように倒れていた木を両手で持ち上げると、開いていた宇宙船のコックピットに思いきり投げつけて一撃で破壊する。しかし、宇宙船から火の手が上がってしまい、サトルは森が焼かれてしまうと慌てふためく。すると雷が轟き、ゲリラ豪雨になり、火は一瞬で鎮火される。

王族街の住人たちの仕業だと、サトルは空を見上げて感謝した。口を開いて雨水を飲み、水筒に水を溜めることも忘れていなかった。


一方、2078年の日本政府の司令室でも、その映像が見られていた。

「精鋭部隊を送れと言ったはずだが」

と総司令官のカワカミがテーブルを叩き、怒りを露わにする。

幹部たちの表情が一気に青ざめる。

「超特殊作戦群からさらに選抜した部隊を派遣しております。この狂暴さでは、殺さずに捕獲する為に部下を何人死なせることになるか…」

大将のキクチが沈痛な面持ちを見せる。

「いずれ同盟諸国にもこの情報は知れ渡ってしまいます。そうなる前に、この未来人を手に入れる必要があります。たとえ死んでいても、脳から情報を取り出し、こちらに都合のよいサイボーグに改造すれば問題はございません」

と参謀長のササキが進言する。

「うむ。生死を問わず、あの未来人を捕らえよ!」

総司令官のカワカミが指示すると、幹部たちは一斉に立ち上がり、

「イエッサー!」

と返事と敬礼をして、司令室から出て行く。

この時、参謀長のササキが不敵な笑みを浮かべていることに気付く者は誰もいなかった。

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