第7話

俺の耳はおかしくなってしまったのだろうか。

ああ、きっとそうに違いない。

だって、今、この後輩は何と言った?

可愛い、だと…?



「そんな可愛い顔でこっちを見ないでください、誘ってるんですか」

「はああ!?」


やっぱりおかしい。おかしいのは、桂木だ。


さっきのことといい、今の発言といい…

謎が多すぎてもはや俺の脳内は処理が追いつかなくてパンク寸前である。



「もう…本当は段階を追うはずだったのに、僕としたことが情けない」

「あの…桂木くん…どうしたの」

「だからそこで首を傾げるだなんて…誘ってるんですかそうですか」

「…お前誰だよ…」



いつものストイックな印象の綺麗な顔をした部下はどこへいったのか。

不思議そうに俺は彼を見ていると、ぐいっと桂木が顔を寄せてきた。

ち、…近い!!



「昨日…楽しかったです、飲みに行けて」

「は、はい、それはよかった、ね」



眼前に綺麗なお顔があることで、俺はなんだかドキマギした。

あれ?なんでドキマギするんだ…?



「昨日から今朝までで、分かりました」

「な、なにが…?」



そう問いかけると、無表情だった彼は、一瞬口角を上げ、微笑んで見せた。

その顔があまりに綺麗で、妖艶で。俺は目が離せなかった。



「僕にも入り込む隙は十分にあるということがです」

「…はい?」

「覚悟してて、くださいね」

「…っ!」



耳元に囁かれた声に、俺はびくっと肩を震わせてしまった。

だって…コイツ無駄にいい声なんだからな!


声に反応したことに気付いたのか、桂木は満足そうに笑みを深めると、「もうこんな時間ですね」とさっさと俺から離れて出勤の準備を始めたのだった。


「桂木さんも、早く支度した方がいいんじゃないですか」


仕事モードの雰囲気にいち早くチェンジした桂木は、俺に冷たい口調で言い放った。


けれど、その雰囲気は…どこか柔らかいような、そんな気がした。




何に対しての覚悟を桂木がしたのか。

それを俺が理解するのは、それから間もなく、否が応でも思い知らされることになるとは、今の俺には知る由もなかった。




END

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扱いにくい部下の扱い方 @mochikov

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