第5話

「んっ…」


どういうことなんだろう。

俺は未だ夢を見ているのだろうか。

ああ、夢であってくれ。

こんな、こんなことって。



ゆっくりと乾いた唇が離れていく。

あの生意気な後輩の顔が離れていって…

そう、今こいつは俺に何をした?



「お…まえっ!い、いま…何を!」



あまりに動転して俺はまともな言葉をしゃべることができなかった。


おい、なんか言えよ。

何か言ったらどうだ。無断で俺にあんなことしやがって。



そして後輩はその形のいい唇をゆっくりと開いた。



「キス…です。あなたに、キスしたんですよ!」

「…っ!」



そんな顔されたら、責めるに責められないじゃないか。


なあ、なんでそんな…そんなに切ない顔をしてるんだよ。



「桂木…おまえ…」

「すみません、でした…」



え。

こいつさっきから突然すぎないか。


先ほどから桂木の知らない顔をたくさん知っていってる。



それを少し…

嬉しいだなんて感じ始めているなんて嘘だ。




「もう…先輩は帰った方が、いいですよ」

「…は?」

「送り、ます」



目の前のイケメンはなぜか淡々と言葉を発している。

ちょっと待てよ、どういうことだ?



突然すぎる後輩の提案に俺はついていけない。

寝起きの俺には無茶ブリすぎる。



ちょっと待てよ。待てって。



腰を上げようとする後輩を俺は…


気づいたら押し倒してたんだ。

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