第6景 銅像前で会おう

早稲田大学本部キャンパスに通う学生の多くが待ち合わせで利用するのが大隈銅像の前、通称「銅像前」だ。


大学の正門からまっすぐ見える大隈重信の銅像は早稲田のシンボルであり、受験時は「絶対にここに入ってやる」という気迫を込め、熱っぽく銅像を見つめたものだった。

文化祭前はビラ配りやパフォーマンス集団、自作の本を販売する人であふれるし、普段も待ち合わせと思しき学生たちがキョロキョロと待ち人を探している様が見受けられ、キャンパス内でも一際賑わっている場所だ。


入学直後、例にもれず私もこの銅像前集合にあこがれた。 銅像前で待ち合わせたい。 早大生っぽいし。なんか、いいよね、そういうの。 もう「銅像前」とさえ言えれば御の字だった。 しかし、その夢はすぐに崩れ去ることとなる。 私の入学した教育学部は、本部キャンパスの中で正門から最も離れた”早稲田のチベット”と呼ばれる16号館だった。


遠かった。学部生だけで五万人いるといわれる早稲田生の人混みに飲まれながら、銅像前まで辿り着くには途方もない労力を使うだろう。着いたところで、すぐに待ち人に会えはしない。そこには五万人の、人人人。想像するだけでぐったりした。

結局、大学生活の中で銅像前で待ち合わせたのは数えるほどしかない。


五万人の中から一人を見つけ出すことと、床に落とした爪楊枝の数を数えるのはどちらが難しいだろう?それでも銅像前を通りかかると、いつも誰かが誰かを待っている。

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