第3景 高いところへ登る

人間が高いところを好むのはなぜか。


古来より人間は地上で生活してきたし、「地に足がつく」ということわざもある。もちろん、安定しているという意味で。


人類進化の過程において、ヒトは木に登りやすいような腕を獲得したり、空を飛べるよう軽量化したりするような、身体的な変化はみられなかった。

本能的に人間は高いところに臆するはずだ。

にもかかわらず、山があれば登り、高層マンションに住みたがる。

なぜなのか。


東京には高いところがたくさんある。

東京駅のオフィス街、都庁ビル、東京タワー、スカイツリー、六本木ヒルズ。

皆こぞって登りたがる。

時に安くないお金を払い、長い行列を作って、上へ上へ。

上京して様々なタイミングで、東京タワー、スカイツリー、都庁ビルなど高いところへのぼる機会があったが、ことごとく心惹かれるものではなかった。

落ちたらどうしようと考えておそろしいし、綺麗な景色は5分もすれば飽きてしまう。

おお、これをつくった人はすごいなぁ、と感心するしか、楽しみ方がわからないのだ。


幼いころ、母は私をよく高いところへ連れて行った。

曰く、「将来、綺麗な夜景なんか見せられて変な男の人にコロッといっちゃわないようにね」と。


なるほど、そういう考えもあるのか。


今でも高いところへのぼると、母のお茶目な笑顔が浮かぶ。

高いところに行く理由なんて、それくらいでいいのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る