第99話 勝利、そして……

「花梨が……、俺の下ネタを好き…………?」


 魔王から発せられたのは、驚きの言葉だった。

 あいつ、俺がエロいことするといつも怒るんだぞ。

 それに中学のときも、陰核爆発って言った俺を冷たくにらんでたのに。


「信じられぬか? アラタとやらよ」


「そりゃ、まあ……」


「だったら、本人の口から聞いてみるのだな」


 魔王が花梨を見る。

 同時に、花梨がゆっくりと目を開いた。




「ん……、あれ? あたし……?」


「花梨、だいじょうぶか?」


「新太……、そっかあたし、魔王に……」


 花梨は魔王の精神体を見る。俺もそっちに目を向けた。

 魔王は不敵に笑うと、体がさらに透明になっていく。


「さて、妾は眠りにつくとするかの。花梨とやらに匹敵する欲求不満な人間は他におらぬし、久々に全力を出せて妾もすっきりした。アラタとやら、手土産に貴様が出した赤玉をもらってゆくぞ」


「…………え?」


 俺は驚いて、さっきまでいた場所を見た。

 地面に落ちていた赤玉が、いくつか消えている。


「魔王、それいったい何に使うんだよ?」


「……じ、自慰に決まっておろうが」


「――――は?」


「痴れ者が。そんなに何度も言わせたいのか……?」


 魔王がかわいらしく、顔を赤らめている。


 つーか何?

 俺の赤玉ってそんな需要があるの!?


「はぁはぁ……、この赤玉の匂い、感触……興奮するのう。貴様らが合体魔法を使ったときの光景が鮮明に思い出せるぞ。まるで性行為をのぞき見しているかのような興奮があったのう」


 や、やめてええええええっ!!

 すごく恥ずかしいだろ!! うわあああああっ!!



「……ではさらばだ。骨のない箇所で、骨のある魔法を使う人間よ」



 最後にひと言言うと、魔王は完全に姿を消した。

 悔しいことに、うまいことを言うなあと感心してしまった。


「えっ? 新太のアレって骨がないの……?」


 そう反応したのは、目を覚ましたばかりの花梨だ。

 つーか花梨さん、俺だけじゃなくて、みんな骨はないからな。



「ねえ新太、あたし魔王に乗っ取られてたのよね?」


「ああ。花梨、体に変調はないか?」


「それはだいじょうぶ。合体魔法を使いまくった新太よりは、ぜんぜん元気だと思うし」


「確かにあれは疲れた……。ってか、合体魔法のことを覚えてるのかよ。花梨、憑依されてた間の記憶が残ってるのか?」


「うん、おぼろげだけどね……」


 それなら話は早い。

 今までのことを花梨に説明する手間がはぶける。

 俺はすぐに、思いきって聞いてみることにした。


「なあ花梨。魔王が言ってたんだけど、お前、俺の下ネタが好きなのか?」


「…………うん、好き」


 花梨が絞り出すように、小さな声で答える。


「魔王、嘘を言ってたわけじゃないんだな……。でもさ、いつも俺がエロいことするたびに、怒ったり殴ったりしてきたわけじゃん? 中学のときに、俺が陰核爆発って言ったときだって――」


「ぷっ、くくく……っ、い、陰核が爆発…………っ」


 いきなり、花梨が腹を抱えて笑い始める。

 あれ? どうして今回はにらんで来ないんだ……?


「あははは……っ、ごめん新太。真面目な話してるのよね。でもそのギャグ、今聞いてもすごくおもしろくて……っ、あのときもガマンするのつらかったのよ」


「ガマン……? それ、どういうことだ?」


「だって、女子なのに下ネタで大笑いできるわけないでしょ?」






 ――――へ?


 まさかそれが…………欲求不満の原因なのか??

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