第100話 花梨の秘密

「あたしね……下ネタが好き。新太の下ネタは、特に大好き。いつも新太の隣にいて、新太と一緒に下ネタで笑っていられるのが、あたしの幸せだった」


「……お前、そこまで俺の下ネタを評価してくれてたのか?」


「当然でしょ? あたし以上にあんたの下ネタをわかってられる人間がどこにいるっていうのよ。あたしは、あんたの……幼なじみなんだから」


「花梨……」


 花梨が言った通り、花梨は中学時代まで、ずっと俺と一緒にいてくれた。

 俺の隣で、いつも楽しそうに笑ってくれていた。

 今思えば、あの頃の俺が一生懸命たくさんの下ネタを考えたのも、花梨のためだと言っても過言ではないくらいだ。


「でもね新太、あたしは思春期を迎えた。いつまでも子供のままじゃいられなくて、女の子らしくならないといけなかった。もう下ネタで、無邪気に笑ってはいられなくなったのよ。だから……新太から距離を置くようにした」


「そうだったのか。俺はてっきり、異性だから何となく気まずくなって――って、幼なじみによくある理由なのかと思ってたよ」


「あたしと新太の関係が、そんなつまらない理由でなくなるわけないでしょーが。で、あたしはそうして下ネタを完全に断ち切った。でも日数が経過するにつれて、禁断症状が出てきたのよ。『下ネタで笑いたい! 思いっきり笑いたい!』って。そんなときに聞いたのが、あの陰核爆発だったの。あの瞬間、おもしろすぎて頭が真っ白になっちゃった。このままじゃ笑っちゃう。もうどうしていいかわからなくなって、その結果――あたしは怒ったの」


「……怒った?」


「そうよ。何に怒ったのかはわからない。無理に我慢してる自分に怒ったのかもしれないし、あたしの気持ちも知らないで下ネタ言ってる新太にかもしれない。それとも女子は下ネタを笑っちゃいけないっていう世間の常識にかもしれない。とにかく怒った。怒って怒って怒ったら……笑いたいっていう感情がなくなってた」


「それであのとき、あんなに俺をにらんでたのか……」


「それからあたしは、新太の下ネタを聞いたときは怒ろうと決めたのよ。でもまさか、あれから新太が下ネタをまったく言わなくなるとは思ってなかったけど。新太、あのときは――本当にごめんなさい」


「いや、俺の方こそ悪かったよ。花梨がそんな気持ちを抱えてるなんてぜんぜん知らなかったしさ。でもそしたら……何で花梨、BL好きになってたんだ? エロいもんから距離置こうとしてたんだろ?」


「――――っ!? な、何で新太がそんなこと知ってんのよ!? ああもうっ、あたしBLなんて好きじゃないもん!! BLなんて、BLなんて……っ!! …………ああ、そんなっ!! 新太×武器屋の主人がそれぞれの棍棒を……はぁはぁ」


「おま――っ、とんでもないカップリング作ってんじゃねーよ!!」


 花梨め、嫌いと言っておきながら自分から妄想始めやがった……!

 

「ご、ごめん新太……。あたし、下ネタを我慢しすぎておかしくなりそうだったときに、BLと出会ったの。BLは女子がたしなんでも変じゃないエロネタ。下ネタの代わりに楽しむには、格好のジャンルだったのよ!!」


「そう……なのか」



 俺は度肝を抜かれてしまった。

 確かにつじつまは合っている気がする。

 でも……とんでもない方向に屈折しすぎだろうが。



 花梨とはずっと一緒に過ごしてきたし、大切な幼なじみとして花梨のことは何でも知っているつもりだった。でも、そんな考えが甘かったことに気がついた。


 いつの間にか、俺が知らない花梨になっていたんだな。

 まあ、今後も知ろうかどうか、ためらってしまうところジャンルではあるんだけど。

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