第98話 決着

 赤玉――打ち止め、の意。

 射精のしすぎで精力が尽きると、最後に出てくると言われている。


 昔のパチンコ屋では、すべての玉を打ち尽くしたときには、最後に赤い玉が出る仕様になっていたという。射精のしすぎで精力が尽きてしまったとき、そのパチンコの打ち止めとかけて、最後に赤玉が出るなんて都市伝説があるのだが……。

 そこはやはり都市伝説であり、現代の医学では赤玉なんてものは実際には出てこないとされている。

 やりすぎは尿道が切れて血が出る危険性もあるよ、くらいの意味合いなのだ。



 それなのに――

 何で実際に赤玉が出てきちゃってんだよ!?


 こうなったら斬撃が出るまで、何度でもやってやる!!



「居合ヌキ!!」


 ぽんっ。


「居合いヌキ!!」


 ぽんっ。


「居合いヌキヌキヌキヌキ!!」


 ぽぽぽぽんっ。



 何度やっても赤玉しか出てこない。

 そのうち俺の股間がヒリヒリとしてきた。

 くそっ、もう限界なのかよ! 魔王を倒せるとこまで来てるのに!!


 その魔王はというと、キョトンとした顔で俺を見ていた。

 決定的瞬間を逃した俺に、さぞあきれているのだろう。

 俺は諦めて、居合ヌキする手を止めていた。


 その直後――

 魔王が体をくの字に曲げて全身を震わせる。


 そして堰を切ったように――――突然、笑い始めた。



「うはははははっ! あははっあはははははっ!! 何コレ!! 赤玉が本当に出てくるなんてっ、あり得ないでしょっ!! あはははお腹痛っ――あはははっ!!」




 今まで我慢していたのを爆発させたように、全力で笑っていた。

 それを見て、今度キョトンとするのは俺の方だった。


 この笑い方は、魔王のものじゃない。





 ――花梨の笑い方だ!!





「あははははっ、新太ってばこんなに笑わせないでよもぉー」

「しまった! 花梨とやらの欲求不満が解消されてしまう――!?」


 花梨と魔王、2人の言葉が同じ口から発せられる。


「あはははははは――っ!!」

「ぬおおおおおお――っ!?」


 花梨の笑い声と魔王の叫び声が、周囲に響き当たった。





 次の瞬間――

 花梨の肉体から、魔王の精神体とおぼしきものが抜け出ていく。


「し、しまった……。妾の体が……っ!!」



 すぽん、と花梨の体から魔王の精神体が飛び出した。

 魔王は、妙齢の女性の姿をしていた。

 色っぽい魅力をふりまく全身が、半透明に透けている。


 花梨はというと、魂が抜け落ちたようにその場に横たわっていた。

 同時に、菜々芽に絡まっていた触手が消滅する。菜々芽はふわりと地面に倒れて、花梨と同じように横になっていた。


「花梨! 菜々芽!」


 俺は急いで駆けつける。

 2人とも安らかな寝息を立てていた。

 目立った外傷はなく、特に問題はなさそうだ。


 俺はホッと、息をついた。




 それにしても……これはいったいどういうことなのだろうか。


 俺のエロ魔法を見て、大笑いした花梨。

 魔王が憑依できなくなったということは、花梨の欲求不満が解消されたということなのだろう。


 でも、わからないことがある。


「何で今のが、花梨の不満解消につながったんだ……?」


 花梨は俺の下ネタが嫌いだったはず。

 むしろ怒って、ますます不満を高めそうなものなのに。


「それはな、花梨とやらが心から愛しているのじゃよ。――貴様の下ネタをな」



 そう答えてくれたのは、半透明な姿の魔王だった。

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