第95話 シェリルの恥じらい

「その……、特にアラタが見ている前では、魔法を使ってはいけないような気がするのだ。使わないといけないのは、わかっているのに……」


 シェリルは消え入るような声で、俺に説明する。

 俺はそんなシェリルの様子を見て、魔法が使えない原因がわかった。




「もしかして、シェリル――――恥ずかしいのか?」


「え……?」


「エロいことするのが、恥ずかしくなったんじゃないのか?」


「そ、そうなのか? これが……、恥じらいの気持ち……?」


 シェリルは困惑しているようだ。

 おそらく、生まれて初めて抱いた感情なのだろう。

 特に俺の前で魔法が使えないというのは、俺が異性だからに違いない。


「恥ずかしいというのは、ここまで強烈な感情なのか? だとしたら、わたしはもう二度と魔法を使うことはできない。こんな感情にあらがうなんて無理だ!」


「落ち着け、シェリル」


「落ち着いてなどいられるか!! 魔法が使えないんだぞ!?」


「だいじょうぶだ。恥ずかしいのが理由なら、もう一度使えるようになる」


「本当か? ……で、わたしはどうしたらいい?」


 シェリルがジッと俺を見ている。

 俺は慎重に言葉を選ぶと、口を開いた。


「――どうもしなくていい」


「アラタ、それはどういうことだ?」


「恥ずかしいままでいい。シェリル、エロいことしたら、恥ずかしいのが当たり前なんだ。だからその気持ちを捨てようとするな。むしろ受け入れろ」


「恥ずかしいのが当たり前……? じゃあ、アラタも恥ずかしいのか?」


「そりゃな。特に、この魔法剣を使うときは……」


 俺は、手に持っているバイブを見る。

 そして、シェリルにすべてを打ち明けようと決めた。


「このバイブはさ、その辺の店で売ってるものじゃないんだ。世界にたったひとつしか存在しないものなんだよ」


「たったひとつ……?」


「そう。実はこれ、親父が作ったものなんだ」


 親父はアダルトショップの店長でありながら、自身でグッズの開発に取り組んでいた。そのときに作った試作品が、この男性器型のバイブなのだ。


「親父は何を血迷ったのか、このバイブの型を取るときに俺のナニを使ったんだ。俺が寝ている間、大きくなっているときを狙って……。何でそんなことをしたのか問いつめたら『息子のムスコは孫みたいなもんだ。成長記録を残しておきたかった』とか言いやがった。バカかっつーの」


 あいつ、本当にどれだけクソ親父なんだよ。

 父として息子の成長記録を残したいという気持ちは、わからなくもない。

 でも残した記録がこんなものだなんて、どうかしてるとしか思えないだろ。


「まあつまり……このバイブは、俺のナニとまったく同じ形をしてるってことなんだよ。なのにそれが伝説の武器だって言われたら、そりゃ恥ずかしいだろ?」


 魔法剣を使っている間、シェリルには悟られないように、俺はずっとこの恥ずかしい気持ちを隠していた。ところどころで出てしまっていたかもしれないが。


「これがアラタのと、同じ形……?」


「ああ。でも半年くらい前だから、今とは多少違うかもしれないけど」


「そうか……さすがアラタだな。アラタのはこんなにも大きくて立派なのか」


「そ、そんなにジッと見るんじゃねーよ。その……恥ずかしいだろ」


 俺はつい、バイブを背中に隠してしまった。

 するとシェリルが、嬉しそうにほほえむ。


「ふふふ、アラタが恥ずかしがってる」


「……何、笑ってんだよ」


「だって嬉しいんだ。アラタの反応が、今のわたしと一緒だから」

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