第91話 真の覚醒

 それにしても女神、ストッキングはいてたんだな。

 普通、女神って言えば素足のイメージじない?

 いや俺が素足フェチってわけじゃないんだけどさ。……うん。


「さあアラタ、この女神のストッキングを破りなさい。そしてその頭にかぶるのです。さすれば、あなたは飛躍的にパワーアップし、魔王もを倒せることでしょう」


 え……、これ破るの?

 そしてかぶるの!?


 そんな犯罪チックなこと、やっちゃってもいいのだろうか。

 ええい、迷ってる時間はない! もう何でもやってやる!!


 俺は女神のふとももに手を伸ばし、ストッキングを引っぱった。

 うん、さらさらしててイイ感触…………じゃねえだろ。


 ストッキングが、ビリビリっと音を立てて破れていく。


「ん……っ、あ、だめ…………!」


 おい女神、色っぽい声を出すんじゃない!

 だめとか言いやがって、やれって言ったのお前じゃねーか!!

 このあとはかぶらなきゃいけないらしいので、縦じゃなくて横に引きちぎっていくのだが、これがなかなか難しい。


 破れた部分が、女神のふとももを一周する。

 そしたら俺は、するするとストッキングを脱がせた。

 女神の肌はすべすべだった。いけないと思ってもドキドキしてしまう。


 そんな俺たちを、魔王は律儀に待ってくれていた。

 神妙な面持ちで、腕組みをしながら俺たちを見守っている。

 あの……、そんなにジッと見られると、恥ずかしいんですけど……。


 やっとストッキングが全部脱げた。あとはかぶるだけ。

 俺は一度ためらってしまうが、ストッキングを思いっきり伸ばすと、思い切ってガバッとかぶった。


 あ、女神のぬくもりが残ってる……じゃなくて。


 何だこれ、目が開けにくいし呼吸もしにくんだけど!?

 こんなんで俺、本当に強くなれるのかよ!!


「かの者の眠れる力よ、目覚めなさい。女神の加護――やぶれかぶれ!!」


 女神の声と同時に、俺の全身が発光する。

 力が……みなぎってきた!!


 俺はそのまま魔王へと攻撃する。

 そのスピードは、まるで光のようだった。


「な……っ!?」


 魔王の顔色が変わる。

 魔王もスピードを上げて、俺の剣をよけた。

 しかし俺はさらにスピードを上げて、魔王に攻撃をしかける。

 だがそれは、惜しくも魔王の髪をかすめたにすぎなかった。


 魔王はいったん下がって、俺から必要以上の間合いを取る。

 俺は肌で実感していた。次は今よりさらに速い攻撃が繰り出せるはずだ。

 目覚めたばかりの力をもてあました攻撃でも、今のような速度が出せたのだ。



 慣れれば確実に――魔王を超えることができる。



 だけど俺は、素直に喜べなかった。

 だって、カッコよく剣を構えた俺はストッキングかぶってるんだぞ。

 銀行強盗も笑い出すくらいにシュールなんだろうなあ。

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