第90話 女神の加護

「くそっ、当たれ……、当たれよっ!!」


「ほれほれ、どうしたアラタとやら。粋がった割にはその程度か?」


 俺は何度も攻撃を繰り出していた。

 ところが魔王は、余裕の表情でひょいひょいよけていく。

 魔法剣には制限時間があるってのに、こんな調子じゃ……!!


「――――ぬっ!?」


 そのときだった。魔王の足がもつれて体勢を崩す。

 チャンスだ! 俺はその隙を逃さず斬りかかった!

 だが、魔王が笑みを浮かべたかと思えば、余裕でかわされる。

 そして――鞭のようにしならせたしっぽの攻撃が、俺の背中にヒットした。


「が……っ、は…………!!」


「残念じゃったな。クククッ、妾のムチの味は痛かろう?」


 今の体勢崩したの、わざとかよ……。

 それにしても、魔王のしっぽは痛いなんてもんじゃなかった。

 全身がバラバラになりそうだ。それでも俺は何とか立ち上がる。


「ほう、立ち上がるか。その気概はなかなかのものじゃな」


「……うるせえ。勝負は始まったばっかだろうが」


「いいぞいいぞ、もっと妾を楽しませよ。しかしガッカリなのはそこの巫女じゃのう。てっきり妾の尾撃を防御魔法で防いでくると思っていたのだが。それを予期して、もう一手先まで予想を立てていた妾の計画が台無しになったではないか」


「…………っ」


 魔王の言葉に、シェリルが真っ青になっていた。

 俺は知っている。シェリルが処女膜の魔法を使おうとしていたことを。

 それでも使えなかったのだ。先ほどのスライム戦のときのように。


「アラタとやらもかわいそうじゃのう。こんな使い物にならない巫女が仲間だとはな。――おお、ひょっとして貴様ら、昨日の晩に馴れ初めを致したのか? 処女ではなければ、処女膜の魔法は使えぬからのう。クハハハハッ、これはこれは傑作だ」


「し、してるわけがないだろう!! そんな、アラタがわたしと……」


 シェリルは顔を真っ赤にすると、そのままうつむいてしまった。


「てめえ、シェリルを馬鹿にすんじゃねえ! 彼女は最高の巫女だ!!」


「ほう、それなら……妾に勝ってみせるのだな」


「く……っ」


 どうする……?

 今のままでは魔王には勝てない。

 魔法剣のリミットも、すぐそこまで迫っている。


「これは――わたしの出番ですね」


 そう言ったのは女神だった。

 次の瞬間……女神の全身が、まばゆく光り輝く!

 純白の翼を大きく広げ、清らかなドレスを身にまとう姿に変身した。


 受付のお姉さん姿を捨てて、女神本来の姿を現したのだ。

 神々しい光を放ちながら空を飛び回ると、俺の目の前で止まった。


「さあアラタ、いまこそ女神の加護を受け取るのです。あなたの潜在能力を引き出すので、存分に戦いなさい!!」


 おおおおおおおおおおお――っ!!

 ここで来たか覚醒イベント!

 女神、やればできるじゃねーか!!


「馬鹿な……。女神が人間のメスに化けていただと……!?」


 魔王も目を見開いて驚いている。

 これは……、期待できるぞ。この女神の加護ってヤツ!!


「さあアラタ、受け取るのです! この女神の――ストッキングを!!」


 女神がドレスの裾をめくると、ベージュのストッキングに包まれた御御足おみあしが現れる。見惚れそうなほどのスラッとした美脚だ。


 それはいい。とても目の保養になるんだけど……。




 何でこのシリアスな場面で、女神の加護がストッキングなの???

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