第88話 戦闘開始
「さて、この肉体の主の友人である人間どもよ。妾の邪魔をしないのであれば、貴様らに危害を加えるつもりはない。それは他の人間どもも同様だ」
「え……? 魔王って人間滅ぼしたりするんじゃないのか?」
「久々に現界できたのだ。妾はさまざまな場所に行き、おいしいものを食べて、美しい風景を楽しめればそれでよい。人類を滅ぼすことに何の意味があろうか。妾が満足したら、この花梨という娘も返してやろう。もちろん無事に生きている状態でな」
「花梨は……無事なのか!?」
「今は花梨の精神体が体内で眠っている状態だ。妾が出ていけば、自然と目が覚めて以前と同じように生きていけることだろう」
そうなのか……。俺はホッと息をついた。
「だがアラタとやらよ。まず、やっておかねばならぬことがある」
魔王の声のトーンが、一段階下がった。
周囲の空気が一気に冷たくなる。
そして魔王が、中指を立ててファックユーのジェスチャーをした。
次の瞬間、触手が地中から突如出現し――菜々芽を宙づりにする。
「な、何これ!? お兄ちゃぁぁぁぁぁ――ん!!」
「菜々芽っ!!」
何本もの触手が絡み合い、うごめきながら菜々芽の体をはいずり回る。
菜々芽は全身を縛られてしまい、身動きひとつ取れなくなっていた。
「クックックッ、いい気味だ。小娘よ」
魔王が笑っている。
これはどういうことだ!? 魔王の仕業なのか!?
次の攻撃が来るかもしれない。俺やシェリルは身構える。
ところが、俺たちに攻撃は来なかった。
もしかして――菜々芽だけを狙っているのか?
「魔王、菜々芽を離せ!! 何で菜々芽だけに攻撃するんだ!?」
「アラタとやら、妾はこの小娘だけは許せぬのだ。妾が入る予定だった肉体を壊した、この小娘だけはな。さあ、妾の魔法に悶絶するがよい!!」
くっ、そういうことか……!
「うおおおおおっ!! 菜々芽にいやらしいことするんじゃねええええ!!」
俺は棍棒を振りかぶって、魔王に殴りかかった。
突っ立ったままの魔王の頭に、俺の棍棒がヒットする!
しかしそれと同時に、魔王が呪文を唱えた。
「…………
魔王の前に、シールドが張られる。
それにぶつかった棍棒は、まるで腐っていたかのように根本からぐにゃりと折れてしまっていた。魔王にダメージはない。
「そんな……!?」
「感謝するのだぞ、アラタとやらよ。妾が魔法を使っていなければ、この花梨とやらの体は、見るも無惨な姿になっていたことだろうな」
「あ…………!」
そうか、ヤツの体は花梨のものなのだ。
攻撃を加えれば、花梨にダメージがいってしまう。
いったい、どうやって倒せばいいんだ……!?
「それにしてもアラタとやら、貴様もとんだ軟弱者よのう。行為の最中に棒が折れてしまうとは、まるで中折れではないか。ほれ、もっと妾を楽しませてみい」
そして何事もなく下ネタをはさんでくる、この余裕。
これぞ魔王の威厳…………なわけあるか!!
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