第87話 魔王復活④

「まさか、花梨が魔王になっちまうなんて……」


「カリンはこの世界で、もっとも欲求不満だったというのか?」


 俺とシェリルは、困惑を隠せなかった。

 そんな中、女神だけが魔王に対して反論する。


「そうです! カリンが魔王になってしまうなんてあり得ません!!」


「……ほう、貴様はなぜそう思うのだ?」


 魔王が女神に、興味津々といった様子で聞いてくる。


「なぜならカリンは、昨晩1人になったあとお布団の中で…………あっ!?」


 女神はしまったという顔をしていた。

 おいおい、いったい何を言おうとしてたんだよ。

 そりゃ1人で欲求を発散するって言ったら、だいたい想像ついちゃうけど。


「……おい、そこの貴様」


「えっと、俺のことですか?」


「そうだ。そこのアラタとかいう人間」


 魔王が俺を名指しで呼ぶ。いったい何をされるのだろうか。


「そこの女が言ったことは忘れてやれ。それが男の優しさというものだ」


「……はい、わかりました」


 あれ? 何かこの魔王様、常識的で優しいぞ?

 しかもほんのりだけど、頬が赤く染まってるし。

 俺の名前を知ってたことからも推測すると、花梨の記憶をのぞいたりできるんだろうな。ってことは昨晩の花梨は本当に……って、考えちゃダメだっつーの!!


「それにしても、この女のカラダはなかなかにいい……」


 魔王がその場で、手をグーパーさせたりシャドーボクシングを始める。


「さて、それでは……準備運動といこうかな」


 そう言うと、魔王はグッと握り拳をつくった。

 それと同時に――――ドカアアアアアアアアアアアンッ!!

 遠くの方で盛大な爆発が起こった。俺は爆風で吹き飛ばされないよう、菜々芽を抱きしめてその場に伏せた。これは――魔法なのか!?


「ぎゃああああああああっ!! なぜです、魔王様あああああ――っ!?」


 上空に映っていた魔軍参謀が、断末魔の声を上げて消滅した。

 映像の背景が火に包まれている。モンスターたちの悲鳴も聞こえてくる。

 そういえば、爆発が起きたあの方向は――魔の山がある方向じゃないか!?


「おや、準備運動にしてはやりすぎてしまったかな?」


 魔王が作った握り拳は、ただの拳ではなかった。

 人差し指と中指の付け根の間から、親指の先がぴょこっと突き出している、俗に言う女握めにぎりというものだ。形が女性器に似ていることから、女性器を表現するときに使うらしい。


 上空の映像が、プツリと途切れた。

 あの様子だと魔王軍の本拠地は壊滅、生き残りはほぼいないだろう。


「まさか、呪文なしでここまでの魔法が使えるとは――――」


 シェリルが真っ青になっている。それほどまでに、魔王の魔法は強いのだ。

 それにしても、なぜ魔王は仲間であるはずのモンスターたちを……?


「妾が宿るはずの肉体を壊したのだ。配下とはいえ、その罪は万死に値する」


 そう言って、ニヤリと笑う魔王。


 常識的で優しいだなんて、とんでもない。

 俺の背筋に、恐ろしいまでの悪寒が走っていた。

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