第68話 フレンチ

「おーい、風呂わいたぞー」


 俺がキッチンに戻ると、料理をしていた花梨が、ちょうどひと息ついているところだった。

 この匂いは……肉じゃがかな?

 すごくいい匂いに、急にお腹が減ってくる。


「こっちもだいたい終わったわよ。あとは火をかけておくだけ」


「じゃあ先に入ってこいよ。俺が見ておくからさ」


「ええ、そうさせてもらうわ」


 花梨がエプロンを外すと、その腕に菜々芽が抱きついてきた。


「ねえリンお姉ちゃん! あたしも一緒に入りたい!」


「え……? まあいいけど、だったらシェリィも一緒ね」


「カリン? わたしは別に1人でも……」


「あたしたちの世界のお風呂、入り方知らないんじゃないの?」


「あ、そうだな……。ではすまないが、一緒に入らせてくれ」


「やったー! シェリルお姉ちゃんも一緒だあー!!」


 菜々芽がすっげー喜んでるけど、それって窮屈じゃないのか?

 ウチの風呂は、ごく普通の一般家庭用の広さなんですけど。

 だがそんなことは気にしてない様子で、3人はとても楽しそうだ。


「新太、ちゃんと汁が噴かないようにしておくのよ!!」


「へいへーい」


「『はい』は1回……って『はい』とすら言ってないじゃないの!」


「そう言うと思ったからこう答えたんだよ。ほら、さっさと行けって」


「……ふん!」


 花梨はむっとした顔で、脱衣所に消えていった。

 ったく、いちいち言われんでもわかってること言うからだろ。


「……ん? どうしたシェリル」


 すでに菜々芽と花梨は行ってしまったというのに、シェリルは動かない。


「鍋が、噴く……のか?」


「そりゃ、火にかけていればな」


「そうか。それは…………いや、何でもない」


 素っ気なく答えると、シェリルは菜々芽と花梨を追いかけていった。




 

 うーん……。

 何か、今のシェリルの様子……ちょっとおかしくなかったか?


 てっきりいつもの調子で『火にかけられて汁を噴くとは、この鍋はとんだマゾだな!』って、ドヤ顔で言うと思ってたのに……。

 そういや棍棒見せたときも、結局何も言わなかったしなあ。

 男根の棒でこん棒、絶対に言うと思ってたのになあ。



『あらあら。そんな下ネタを考えるなんて、アラタはとんだハレンチさんですね。それはまるで、濃厚なハレンチトーストのように』



 め、女神!

 お前はまた、タイミングよく俺の心を読みやがって……!

 あとそれから、フレンチに今すぐ土下座しなさい!!


 しかし今日の夕食が、フレンチじゃなくてよかったぜ……。

 ハレンチドレッシングとかすげーよな。顔にかかったらやばいぞ。

 他にもハレンチレストランとか、ハレンチキスなんてのもあるのか。


 ど、どんなキスなんだ…………ゴクリ。




 あ、フレンチさんごめんなさい。

 俺も一緒に土下座します。

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