第67話 はじめての料理
帰り道は何事もなく進み、30分で家に着くことができた。
「たっだいまー!」
「おじゃまするぞ」
菜々芽とシェリルが一緒にウチに入って行く。
いやー、半日だけだっていうのに、久々にウチに帰ってきたような気がするなあ。それだけファンタジー世界が新鮮だったってことだろうけど。
「…………」
「ん? 花梨、どうしたんだ?」
「うっさいわね! その……おじゃまします」
来るのが久々だからなのか、遠慮がちに入っていく花梨。
何だよ。何年か前までは毎日のように来てたんだから、今さら遠慮なんかしなくていいのに。前は「おじゃまします」なんて言ってなかっただろ。
「ねえリンお姉ちゃん、さっそく夕食に取りかかろうよ」
「そうね。菜々芽ちゃん、調理道具の配置とかは前と一緒?」
「うん、リンお姉ちゃんがここで料理してくれてたときから変わってないよ!」
「そっか。あ、あたしのエプロンもあるんだ。……よし」
花梨が昔使っていたエプロンをつける。
その姿は、キッチンに主が帰ってきたという感じだった。
ウチは母親の帰りが夜遅くなることが多い。そんなとき、よく花梨が食事を作りに来てくれていたのだ。その味はまさにおふくろの味で、俺や菜々芽は母親よりも花梨の料理の方が好きだったくらいだ。
花梨が俺と疎遠になってから、その役は菜々芽に変わったわけだけど。
「久々にリンお姉ちゃんと一緒の料理だね! あたしけっこう上達したんだよ!」
「ほほう。じゃあその腕を、ぜひとも見せてもらおうじゃないの」
「えへへ、望むところだよ!」
2人ともすごく張り切っていた。
こりゃ夕食が楽しみだ。
「じゃあ俺は、風呂でも入れてくっかな。あ、シェリルはゆっくりしててくれ。でも家の中をあさるのだけは勘弁してくれよな」
「…………あの」
「ん、どうした?」
「わたしも、してみたい。その……料理を」
今にも消え入るような、シェリルの声だった。
「い、いや! わかってはいるのだ! わたしは今までモンスターと戦うだけの生活を送ってきたし、料理をやったとしても上手にできる自信はない。……うん、やはりわたしは手伝わない方がいいな」
花梨と菜々芽がにやりと笑うと、シェリルの腕をつかむ。
「できるかどうかは関係ないわ。大事なのはやりたいかどうかよ」
「シェリルお姉ちゃん、一緒にやろう!」
「……う、うむ」
シェリルは恥ずかしそうに、キッチンへと連行された。
3人はそれぞれ分担を決めて、料理に取りかかったようだ。
「待ってシェリィ。包丁を使うとき、左手はネコの手にするのよ」
「ネコ……? こうか……にゃあ?」
「いやいや、別に言葉までネコにしなくていいのよ」
「シェリルちゃん、昼間のリンちゃんみたいだね!」
「ちょっ、あのときのことは言わないでよ! もう忘れて!!」
「えー、リンちゃんかわいかったのにー」
「確かに、あのネコ耳カリンは、すごくかわいかったな」
「ちょっと、シェリィまで何言ってるのよ! もー!!」
3人一緒の料理は、すごく楽しそうだった。
これならシェリルもだいじょうぶそうだな。
俺は安心すると、風呂掃除に向かった。
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