第69話 シャンプー

「すっごーい! リンお姉ちゃんのおっぱい、また大きくなったんだね!」


「ナナメの肌はスベスベだな。いつまでも触っていたいぞ」


「何言ってるの。シェリィの髪こそサラサラでうらやましいわよ」



 風呂から女性陣のにぎやかな声が聞こえてくる。


 台所で火にかけられた鍋を、ジッと見ている俺。

 ぶしゅううううう!

 おっと、火を弱めないと。

 そしてまた、鍋をジッと見ている俺。



「やっぱり3人だと、かなり窮屈ねえ」


「でもみんなと引っついていられるから、すごく楽しい!」


「こらこらナナメ、そんなに抱きつくと危ないだろう」


「えへへー、シェリルお姉ちゃんもリンお姉ちゃんも大好きー!!」


「もう、菜々芽ちゃんったら……やだ、どこ触ってるのよー」



 …………。

 にぎやかだなあ。

 声だけ聞こえてくると、余計に気になっちゃうなあ。



『アラタ、のぞきには行かないのですか?』



 ば、ばか! お前、何言ってるんだよ!!

 んなことしたら怒られてヘンタイ扱いされるに決まってるだろ!!



『あらあら、アラタは何もわかっていないのですね。女というのは、こういうときはイヤと言いながらも、本心はのぞかれたいと思っているものなのですよ』



 マ、マジでか……!?


 ――って、嘘に決まってるだろ!

 そうやって俺を騙しては、楽しもうとしてるってわかってんだからな!


『…………ちっ』


 女神の舌打ちが聞こえた。

 こいつ、ほんとにタチ悪いな。

 でもだいじょうぶ。ちょっと心が揺らいだけど、俺はのぞきなんてしない。

 いいか、平常心だ。平常心……。


「ねえ、すごいよシェリルお姉ちゃん! リンちゃんお姉のおっぱい!」


「こ、これはすごいな! ナナメの腕が間にすっぽりとはさまってしまうとは!」


「ちょっとやめて……! あっ、上下に動かさないでってば……!!」


「おっぱいってすごいなあ。すっごくやわらかいよ。ふにふにだあ」


「素晴らしい感触だ。水に浮くというのは、都市伝説ではなかったのだな」


「あ……、やだぁ、んンっ……!」


「ねえ、このシャンプーボトルははさまるかな?」


「おお、とても興味深い試行だな」


「ちょっ、ええっ!?」



 …………。

 平常心、平常心……って、無理だろこれ!!

 あいつら、いったい何やってんだよ!!


『むふーむふー! これはすごい会話ですね、アラタ!』


 いやいや、お前の鼻息も結構すげえことになってるよ?


『くぅ~、私もカリンのおっぱいをいじってみたいです! これはナナメがとてもうらやましいですねぇ。こうなったら少しイタズラしてしまいましょうか』


 イタズラ? いったい何やらかす気だ……?

 次の瞬間、ポンッという音とともに菜々芽の悲鳴が聞こえてきた。


「きゃあ!!」


「ナナメ、どうした?」


「いきなりシャンプーボトルが破裂したわ」


「むうう~。シャンプーがいっぱい顔にかかったぁ~」


「不思議なことがあるものだ。ケガはないか?」


「うん、だいじょ~ぶ~」


 風呂の中を直接見に行くことはできないけど、今の会話を聞いた限り、どうやらボトルに入っていたシャンプーが、菜々芽の顔にかかってしまったようだ。

 何だ、それだけかよ。ビックリしたじゃねーか。



「たいへん、菜々芽ちゃんの顔中に白い液がかかっちゃってるわね」


「お口に入ったぁ。すっごくニガいよぉ。それにヌルヌルする~」


「これは……い、急いで洗わないとな」





『はぁはぁ、これぞようじょのガンシャ顔ですね……』



 てめええええええ!!

 菜々芽に何てことしやがるんだあああああ!!


 菜々芽がどんな顔になってるのか、すっげー気になるぅぅぅっ!!


『ほらアラタ、お風呂場を見に行きましょう!』


 だから、行かねーって言ってるだろーっ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る