第62話 解毒魔法①

「すまないアラタ。わたしも確率成功だとは知らなかったのだ……」


「それよりシェリル、解毒魔法は使えないのか?」


「ああ、すぐに準備をしよう」


 おお、あるのか……。

 さすがは巫女。これでひと安心だ。

 シェリルは大量の水を出すと、一気に飲み始める。


「あの、シェリル。それ何の準備……?」


「今から聖水を作る。それを直接かければ毒が治るぞ」


「聖水……? すげー嫌な予感がするんだけど」


 水を飲んで聖水作るってことは、黄金水が出てくるよな?

 そんなの、絶対にかけられたくないんだけど。


「なあ、他の方法はないのか?」


「……そうだな。口で毒を吸い出す方法もあるが」


 心臓付近の皮膚に口を当てて、魔力を使って吸ったあと外に吐き出すのだという。

 この方法もあまり喜ばしくはないが、おしっ……聖水をかけられるよりはよっぽどマシだろう。いやまあ、聖水がそうと決まったわけじゃないんだけどな。


 でも……聞くのは怖い。


「じゃあ、吸い出す方法で頼む」


「わかった。じゃあ服を脱がせるぞ」


 恥ずかしいが、体が動かないのだから仕方がない。

 シェリルにされるがまま、服が脱がされていく。

 しなやかな指が当たってくすぐったいが、ドキドキする余裕はなかった。


 俺の上半身があらわになると、シェリルが顔を近づけてくる。

 だが、その途中でピタリと止まってしまった。

 そのまましばらくの、シェリルが動かない。


「……シェリル、どうした?」


「い、いや……何でもない、何でも……」


 そう言って、シェリルはふたたび顔を近づけようとする。


「シェリルちゃん、ちょっと待って」


 しかし、それを止めたのは菜々芽の声だった。


「あたしがやっちゃダメかな。お兄ちゃんを助けたいの!」


「まあ、魔力がある者なら誰にでもできるはずだが……」


「だったらお願い!」


「……わかった」


 シェリルは俺と菜々芽を交互に見たあと、俺から離れた。

 そのときの表情が少し残念そうに見えたのは、俺の気のせいだろうか。


「じゃあお兄ちゃん、行くよ」


「ああ、頼む」


 妹にやってもらった方が、変にドキドキしなくてすむかもな。

 そう思ったのだが、すぐにそれは間違いだと気づいた。

 なぜなら俺は、重度のシスコンだったからだ。


 な、菜々芽が……俺の胸を吸っている……!


 毒を吸われているという、奇妙な感覚が俺を襲った。

 あーこれ、ちょっと気持ちいいかも。


 んあー。

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