第9話 はじめての魔法

 風の刃が、俺に向かって飛んでくる。



 一本目の刃は――幸運にも軌道がずれていた。

 

 俺の体をかすめただけで、森の奥へと消えていく。

 脇腹を見ると、ジャージがぱっくりと切れて鮮やかな切り傷ができていた。

 痛みはあるものの、幸運なことに致命傷というほどではない。


 ――た、助かった!


 だがしかし、二本目と三本目がもう目前に迫ってきている。

 しかも今回は、俺の体の真っ正面から飛んできていた。

 このままでは、体が真っ二つになることは間違いない。

 その切れ味は、一本目で体感済みだ。




 おいおい、今度こそやばいんじゃないのか……!?

 どうしよう。せっかく転生したってのに、何もできずに死んじまうよ!



 まだ剣も手に入れてないし、魔法も使ってないんだぞ!

 少女の前に飛び出しておきながら、守ることもできないなんて。

 ――カッコ悪いにもほどがあるだろ!!




 と、そのときのことだった。

 少女があるものを取り出し、俺の目の前に投げる。


 それは白くてふわふわでやわらかそうな……。

 たまにテレビのCMで見るくらいだが、俺でも知っているものだった。



 えっと、あれだ。

 その――生理用品のナプキンだ。



 でも…………何で? 

 俺がポカンとしていると、少女は呪文を唱えた。




「――夜のわたしは防御ガードが固いのっ!!」




 すると、いきなりナプキンが大きくなった。

 俺たちを守るように、すべての刃を吸収してくれる。

 まるで巨大な盾だ。


 おお、これなら攻撃が多い日でも安心……なわけあるか!



 これがこの世界に来て、俺が初めて目にした魔法だった。



 鳥型モンスターは驚いたのか、反対方向へと逃げていく。

 

 俺はそれを見て、ホッと息をついた。

 すると、一撃目で食らった脇腹の傷がいきなり痛み出す。

 これは意外にも、傷が深かったのだろうか。

 やばい、もう立って……られない……。


 フッと意識が遠のいていって――――


 ――――バタッ。



「おい、だいじょうぶか? ……しっかりしろ!!」



 少女の声が、ものすごく遠くで響いているような気がした。

 ああ、俺はこのまま死んでしまうんだろうか。



 それにしても――

 今は夜じゃなくて昼なんだけどな。



 意識を失う直前、俺が考えていたのはそんなくだらないことだった。

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