出会い

第10話 またも夢じゃない

「……ちゃん、起きて。…………お兄ちゃん」


「ん……?」


 体を揺すられて目を覚ます俺。

 目の前には、俺の妹――菜々芽ななめがいた。


 まわりを見てみると、ここは見慣れた俺の部屋だった。

 俺はベッドに寝ていて、いつもの朝と同じように妹に起こされている。


 あれ……? 俺、異世界に来たんじゃなかったっけ?

 ここ俺の家だし、しかも菜々芽がいるし……。




 ということは――




「さっきのモンスターは夢だったのか! いやー、妙にリアルな夢だったな! 転生も女神も魔法剣士も夢だったんだなー。ほーらやっぱりな!!」


「何を言っているのだ。夢なわけがないだろう」


「え……?」



 俺に答えたのは、さっき防御魔法を使っていた聖職者風の少女だった。


 改めてその少女を見る。

 身長は低め。スラッとした細身の体型で、胸の大きさは割とひかえめだ。

 年相応の幼さを残しながらも大人びた端正な顔立ちに、凛としたたたずまい。

 そして、ツンととんがったエルフの耳。



「……………………っ」



 俺はほんのわずかな間、そんな彼女に見とれていた。

 正直なことを言うと、俺がいた学校の、どの女子よりもかわいい。

 それも……とびっきり。


 彼女がここにいるということは、今までの一連のできごとは、やはり夢じゃなかったのだろう。

 よく見ると、脇腹に空気の刃で着られた傷が残っていた。

 包帯を巻いてきちんと処置がしてある。この子がやってくれたのだろうか。



「そうか、夢じゃなかったのか……」


「その通りだ。きみが夢を見ていた形跡はないからな」


「え……? 何でそんなことがわかるんだよ」



 彼女はふとんがはいであった俺の下半身を、ちょっと顔を赤らめながらも、ズボン越しにまじまじと見ていた。


 そして、ドヤ顔をしたと思ったら――



「それはきみが、夢精をしていないからだ」


「夢を見るたびに夢精するわけじゃねーから!」


 もしそうなら、世の男はとっくに枯れ果てて絶滅してることだろう。


「そうなのか!? すまない、勘違いをしていたようだ」


「いや、謝ることじゃないから……」



 ああ、この子もこういう下ネタ発言するんだな。

 エルフに抱いていた俺のイメージが、どんどん崩れていく。

 


 すごくかわいいのに、もったいない……。

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