第2話 ラストバトル・後半

 神速の手業フィストファックは、手の周囲に魔法の力をまとわせて、突きを強化する魔法だ。


 花梨はひび割れたわずかな隙間から強引に腕をねじこみ、魔王のバリアを貫く。

 ガラスが割れるような音を立てると、バリアは粉々に砕け散った。



「ぐ、ぐわああああああああああああっ!!」



 魔王はというと尻を押さえてうめいていた。

 ……うん、痛いだろうなあ。


 一方の花梨はというと、顔を真っ赤にしてその場にしゃがみこんでいた。



「もおおおおっ! 何であたしがこんなエロい言葉、叫ばなきゃなんないのよおおおおおおっ!」



 わかる。……エロ魔法は恥ずかしいよな。

 でも俺に、花梨をフォローしている時間はない。

 魔王を倒す機会は今しかないのだ。


 俺は立ち上がると、最強の武器を手に取る。

 それは――男性器をかたどったバイブレーダーだった。



「食らえ魔王! ――精剣せいけんエクスカリ肉棒バー!!」



 ヴィィィィィィィィィ――ン!!

 バイブの先っちょの切れ目から伸びたのは、まるでライトセーバーのように白く輝く刃だった。

 これぞ俺の必殺技、魔法剣だ。


 攻撃力は――むげん


 俺は魔法剣を振りかぶると、魔王に向かって斬りつける。



【アラタの攻撃! 魔王に99999のダメージ!】



 たった一撃で、魔王の体を一刀両断。


「ぐああああああああああああっ!!」


 魔王の断末魔が周囲に響く。

 俺は見事、魔王を討ち果たしたのだ。


「……ぐっ、なぜだ。なぜ魔王である我が、こんな人間どもに!」


 俺は精剣を収めると、背を向けてその問いに答える。


「魔王、ひとつ教えてやる。――イッていいのは、イカせる覚悟のあるヤツだけだ」


「そうか。我の魔法は、欲望に任せた独りよがりなものだったということか」


「その通りだ。エロとは、互いの心が通じ合ってこそ成り立つもの」


「フッ、フハハハ……ッ。我の、完敗だ……」


 魔王――マラの王は、息を引き取ると全身が灰になって消滅した。

 俺はひとつ息をつくと、天井に顔を向ける。

 長く、壮絶な戦いだった。





 …………わけがない。



 い、いいのか?

 ラストバトルがこんなにもくだらない戦いで――



 本当にいいのかああああああああああああああっ!?








 この物語は、異世界に転生した俺が魔王を倒すまでの冒険だ。

 話はちょうど1年前、現世で死んだ俺が女神と出会うところまでさかのぼる。

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