鎌倉魍魎戦記外伝・北条まさこの日常

天下無敵の無一文

序章・北条まさこの朝

北条まさこはウィザードである。


昔は尼将軍やら八百比丘尼 やらと呼ばれていた頃もあったが、昨今の時流からすると現在はこの呼び名が良いのだろう。うっかり長生きしてしまったせいで年齢などすでに忘れてしまったから、何かの時は年齢不詳で通すことにしている。


普段は主に、鎌倉に住まう魑魅魍魎と寺社神仏との間を取り持つ調整役のようなことをやっている。霊的事件に事欠かないこの街を守る鎌倉探題の首座になって久しいが、というか鎌倉時代に組織を立ち上げてからずっとなので久しいもくそもないのだが、それなりに忙しく雑事にかまけ、程よく退屈な日々が送れているのは、悪い事ではないのだろう。


ウィザード達とは妖怪退治の依頼でかかわることが多いので誤解されるが、まさこは妖怪たちともそれなりに仲良くやっている。というか、まともに立ち向かったらそこらのウィザードが一個大隊ぐらい束になってかかっても太刀打ちできないような者達なのだ。無闇に調伏しようと躍起になるのは疲れるばかりで益がない。


鎌倉に住まう妖怪には、ロンギヌスとかいうぽっと出のウィザード連中が警戒する魔王級エミュレイターなど歯牙にもかけない様な連中がごろごろいる。何事もなく済むのであればそれが一番良いのである。そもそも妖怪たちにとって、人間などは路傍の石か偶にうるさい羽虫程度にしか意識していない。積極的にかかわってくるのは力の弱い新参者か、一部の変わり者である。


表向きは、鎌倉小町通に開運グッズの店を構え、店主の占い師として活動している。ネット通販などもしているが、最近ではリアル店舗よりも通販の方が売り上げに占める割合が高くなっている。


昨今インターネットなどの電脳空間で起こるウィザード事件も増えてきたので情報収集がてら始めてみたのだが、こうなってみると長年リアル店舗を切り盛りしてきた身としては少々寂しい気がしなくもない。まあ不老不死の身の上とはいえこの現世を生きるには何かと先立つものが必要になってくるので、売り上げが上がることに越したことはないのだが。


さて今日も日が昇る刻限である。新しい朝が来た、希望の朝だ。


今日はどんな一日になる事やら―――

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