第3話
ついに明日が婚姻の儀式の日だ。俺はようやく自分の妃になる人に会える。一体どんなお姫様なんだろう。この世界の人達は誰も彼も美形揃いだから、きっと絶世の美女に違いない。俺は緊張して、いても立ってもいられなかった。
城中は明日の準備で忙しなくなった。俺の結婚式なのに、他の人達が忙しそうに動きまわっていた。俺と姫のための新しい部屋を用意したり、参列者にお出しする食材を調達したりしていた。
「私にも手伝えることがあったら、何でも言ってくれ」
俺は少しでも役に立とうと言ったつもりだったが、召使い達は血相を変えた。
「いけません、坊ちゃま。あなた様は何もなさらなくて結構なのですよ。これは私達の仕事ですから、坊ちゃまはお好きな事をなさっていてください」
召使いは言い終わるや否やさっさと作業に戻ってしまい、俺は庭に一人取り残された。
「わかったよ、じゃあ、部屋で勉強でもしていようかな」
俺は仕方なく自室に戻った。でも、勉強する気にはなれない。明日の事で頭がいっぱいだ。ちゃんと誓いの言葉が言えるだろうか。お姫様に会ったら、その美しさに見惚れて頭が真っ白になってしまいそうだ。自分の妃になる人と会えないことがこれほどもどかしいとは!
部屋でうろうろしていると、机に脚をぶつけ、一冊の本が落ちた。この国の歴史の本だった。俺はそれを拾い上げた。
この本の内容は大体覚えている。家庭教師が王になるために必ず知っていなければならない重要事項だと言って最初に俺に教えた本だった。この本には、俺が昔、高校の授業で聞いた国や王の名前は一つも書いていない。何もかもが向こうの世界とは違っていて、無関係だ。俺も完全に別人になった。
でも、何だろう。今、俺は懐かしいある気分を味わっていた。
翌朝、俺は早くに起こされて、儀式用の服を着せられ、細々した段取りを説明され、アーチへと向かわされた。俺は流れ作業のように行われていく一連の作業を他人事のように感じた。召使い達は当然のように俺にああしてこうしてと頼み、俺はその通りにした。
儀式が始まってもすぐに姫と顔を合わせる事はできなかった。両国の王が同盟に関する条項を読み上げたり、俺の母親である王妃が祝辞を読み上げたり、召使い達が音楽を演奏したり、料理が出されたり、様々な事が行われてやっと、俺と姫が対面する時が来た。
二人を隔てていた白い布が取り払われ、俺は姫と対面した。姫は俺と同じ金髪に青い目をした、美女だった。姫は俺を見つめ、微笑んだ。俺も微笑み返す。
なんてかわいい人だろう……!
俺はしばし姫を見つめて固まっていた。
神父が俺と姫の目の前に出てきて、婚姻の契りを交わすように言った。俺と姫は同意して、永遠の愛を誓い合った。
婚姻の儀式が終わると、俺と姫は新しく用意された二人の部屋に通された。今までより少し広くて、二人で生活するには十分なものが揃っていた。
俺の妃になった人は椅子に座ってひと息ついていた。俺は何か気の利いた事を言わなければいけないと思った。
「あの、誰かに頼んでお茶でも持ってきてもらおうか?」
姫の返事は素っ気ないものだった。
「いいえ、結構ですわ」
「ああ、そうかい」
俺は緊張しつつも、次の言葉を探そうと頭を巡らせた。すると、妃の方から俺に声をかけてきた。
「サウロス王子、わたくしは王子であるあなたに嫁いだ身です。あなたが次期王に相応しくないと思ったら、いつでも国に帰るつもりです」
俺は意外な発言に言葉を失った。
「ああ、そうだね。私はもちろん、立派な王になるように日々精進しているよ」
やっとのことで絞り出した言葉はなんだか自分のもののようではなかった。
それからというもの、俺はいつも妃に監視されているような生活を送った。いつでもサウロス王子として、次期王に相応しい男として振舞うように要求された。召使い達が俺を王子として扱うのとは明らかに異なっていた。召使い達は俺のために何でもしてくれるが、妃は自分の母国とこの国のため、俺に何ができるかを四六時中問いかけてきた。
俺は正直に言ってそれに窮屈さを感じていた。妃の態度は、この結婚が小国同士の同盟のための政略結婚だとはっきり示していた。妃は本当にかわいい人だったが、それだけで大目に見ることができる限界を超えていた。
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