→いいえ

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 天の声がきこえた。

 ……気がした。


 うん。だめだよね。


 ぼくは「いいえ」と――。

 はっきりと――。


 口に出して言うかわりに、首を横に振って、返事をした。


「え? ちょ? 貸してあげるわよ? なんに使うか、べつに言わなくてもいいから――。べつにイジワルしてたんじゃないんだからね? あとべつに不機嫌だったわけでもないし。〝なんの用〟っていうあれは単なる社交辞令っていうか常套句っていうか挨拶みたいなもんだし。あたしべつに怒ってないし。虫の居所も悪くないし。むしろ暇なときに来てくれてよかったっていうか、あたし、最近店番あるから全然遊べないから。あんたのほうから来てくれて嬉しかったっていうか」


 キサラは、なんか、いっぱい喋った。


「おい。おい。――キサラ。はみだしてるってば」


 マイケルが笑っている。


「うるさいな。あんた、どうでもいいんだから黙ってなさいよ。マイケル。カエルにするわよ」


 キサラは、ぎろりとマイケルをにらんだ。

 カエルと言われて、マイケルがぎくりとする。

 カエル……。カエル……。うん。カエルはいやだよね。大変だったよね。


「ねえ。ほんと貸すよ? 貸すから。いくらだっけ? 371Gっ? ――あん、もう、意地張ってないで! 素直に借りなさいよ! ワガママ禁止ぃ!」


 キサラは言う。

 ぼくはワガママなことにされている。


 ちがうんだけどね。

 そういうんじゃないんだけど。


 キサラにあげる誕生日プレゼントを、キサラに借りたお金で、買ってくるというのは……。


 なんか、それはちがう気がしたんだ。

 天の声がきこえたようなきがした。「いいえ」って。力強く。うん。90%ぐらいはっきりと、力強く。

 だからわかった。

 ぼくは間違っていた。


 ありがとう。天の声。


「ねえちょっと? どこ行くのよ!? ねえちょっと! もう! カインのばかー!」


 ぼくは魔法屋を後にした。

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