ターン23「お金をかせぐ」
えい。えい。えい。やあ。たあ。
ぼくは斧を振っていた。
えい。えい。やあ。たあ。とう。
ぶんぶんと斧を振る。
薪を割っているのではない。
薪を割っていたって、キサラの誕生日までに、371Gは集まらない。
でもぼくには、薪を割ることしかできない。
薪を割ることを、なにかで役立てて――。
どうにかして、お金を稼ごうと――。
ぼくは考えた。
そして出てきた――。結論が――。
うん。
モンスターを。
割ろう。
――ぱっかん!
うん。
いまの! いい感じに割れた!
ぼくは近くの森に、モンスター退治にきていた。
ここは、皆がよく出入りする森だ。
弱い……といっても、勇者でもなければ戦士でもない村人には、恐ろしいモンスターが出没する。
すこし前までは、アネットが、狩人の修行がてら、この森のモンスターを退治していたんだけど……。
アネットはもうこの森を卒業しちゃって、別の、もっと強いモンスターのいるところに行っている。
だから森にはモンスターがたくさん湧いていて、皆は、けっこう困っている。
子供は遊びに行っちゃいけないと言われている森だ。
ぼくはもう12歳だし。おとなだし。
遊びにきているわけではなくて、プレゼントを買うためのお金を必死に集めにきているわけだから――。
たぶん、いいんだと思う。
森に出てくるモンスターには、何種類かあって――。
頭に角の生えている、ウサギみたいなやつ。
こいつは凶暴。
動くものをみると、頭の角を向けて、突進してくる。それにお金持ってない。二度とやんない。見かけたら、もう逃げる。
あと、ひらひら飛んでる、でっかい蝶。両手を広げたくらいの大きさがある、肉食の蝶々。
こいつも凶暴。
蝶なのに肉食で、鱗粉を吸うと体がマヒして動かなくなる。これも嫌な相手。見かけたら逃げる。
あと、なんか、大きな猫みたいなモンスターも。
これは臆病。すぐに逃げちゃったから、倒せてない。お金をどれだけ持っていたかもわからない。
あと、最後のこれが、いちばんいい相手で――。
トレントっていう、モンスターだった。
こいつは木のモンスター。
こいつも凶暴。近づくと、地面から足(根っこ)を引っこ抜いて、襲いかかってくる。
しかし――。
ぱっかん!
割れた! 割れた! いい感じに割れた!
モンスターの倒しかたはうまくないけど、槇の割りかたなら、よく知ってる。
伊達に薪割りを何年もやっていない。
原木のあるところに斧を振り下ろすと、うまく割れるのだ。「目」というらしいのだけど。むずかしいことは、よくわからない。
長年の経験から、ぼくは、どこに斧を振り下ろせば、ぱっかん、と、いい感じに真っ二つになるのか、わかっていた。
ぼくは木のモンスターの「トレント」を、ひたすら、割り続けた。
トレントは倒すと、だいたい半分ずつの確率で、お金か薬草かを落としてゆく。
地面のうえに、何Gか、ぽとりと落ちてる。
そして薬草を使って体力を回復する。
ぼくはモンスターを、つぎつぎ薪の山に変えていった。
いつもの仕事のぶんと、同じくらい――。
大きな一山ほどが、できあがった。
そして拾い集めたコインが、ポケットのながち、100枚くらいに増えてきた頃――。
ぼくは、ふと、人の気配を感じて――振り返った。
見たことない大人の男の人が、森のはずれに立っていた。
青い肌。頭には左右一本ずつの角が生えている。
人間じゃないことは、すぐにわかった。
魔族……とかいう、人なのかな?
男の人は、豪華な黒ずくめの服を着ていた。肩が、いかつく目立って、マントが後ろに流れている。
村の人でも、旅の人でも、まるで見たことのない格好だ。
ちょっとカッコいい? 歩きにくそうではあるけど。
貴族とか王様とか。そんな人たちが、もしいたら、こんな格好をしているのかもしれない。
「モンスターを倒している者がいると聞いて、やって来れば……。人間のコドモか」
肌の青い大人の男の人は、そう言った。
コドモじゃないんだけど――。
まあ、大人の男人から見たら、12歳はコドモに見えるんだろうけど。
あと、いま気づいたんだけど、さっき逃がした猫のモンスターが――。魔族の男の人の、足の後ろに、こっそりと隠れていた。
メス? 女の子? 小さな猫型獣人モンスターは、男の人の足に、しっかりとしがみついている。
「人間のコドモよ。なぜモンスターを倒すのだ?」
男の人は、そう言った。
ぼくはちょっと、雰囲気に飲まれていた。
男の人は、とくに威張っているとかでもないんだけど……。物静かにしているだけで、すごい迫力がある。
「答えぬか。まあ……。このへんのザコなど。いくら倒しても、べつにかまわんのだが」
男の人は、そう聞いた。
ぼくは答えなかったんじゃなくて――。
できれば、「はい」か「いいえ」で答えられる質問だと、いいかなー、って。
ぼくはがんばった。
お金のことを、頑張って、言ってみることにした。
「なに? かねだと? ……かねとは、なんだ?」
しらないんだ。
困ったな。
ぼくは説明するかわりに、手に握ったコインを見せた。
「ふむ。そういうものか。この金色の金属が、そうなのか? その〝かね〟というものなのか?」
こんどのは、「はい」か「いいえ」で答えられる質問だ。
ぼくは、こくりとうなずいた。
・
・
・
「はい」
「おまえは、それを集めるために、モンスターを倒していたというのか?」
・
・
・
「はい」
「なら、これを与えれば、モンスターを狩ることを、やめると申すか?」
うん。もともとお金が目当てだったし。
371G貯まったら、帰るよ?
「ふむ……。俺のテリトリーで暴れる輩を、倒してしまえばよいと思ったが……。まあ、そうした平和的な解決法も、たまには、よいのかもしれぬ。平和主義者の魔王としては」
なんか物騒なことを、男の人は言っている。
でも、たしかに強そうだし……。
もしも、戦いになったら――。
ぼくはたぶん、これまで、たくさん倒してきたモンスターみたいに……、一発でやられちゃうんだろうな。
「そういえば。散策に出る前に、配下の者どもが、なにか、そんなようなものを、渡してきていたな……? 外では使うことがあるかも、などと言って……」
魔王の人は、ポケットのなかに手を入れた。
なにか武器でも取り出すつもりだろうか。
でも、ぼくだって、ただ、やられるつもりはない。
一回くらいは、この斧で、脳天から、縦で薪割りに――。
ぼくは長年使ってきた愛用の斧を、身構えた。
「どうだ。これでいいのか?」
男の人の手のうえには――。
お金がざっくり入った袋がのっていた。
あれ?
えっ?
……お金?
「おまえはカネがいるのだろう。このカネを持って帰るがいい」
えーと……。
ぼく。いま。戦おうとしていたんだけど……?
戦いますか?[はい/いいえ]
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